2021.05.03
学びインタビュー 小内三奈

第6回:遊びの中から「量」を体験 論理に強い子が育つ 「こぐま会」久野泰可室長


「子どもが早く100まで数えられるように」とか、「足し算ができるようになってほしい」と願うのは、だれもが持つ親心。しかし、「計算が得意になるように」と小さなころから訓練しても、本当の「考える力」は身につきません。こぐま会の久野泰可室長は、まずは「量」を理解することが重要だと話しています。「多い、少ない」「重い、軽い」という考え方を、家庭の生活や遊びの中から実感してもらいたいとしています。

算数を得意にするには、「量」から学ぶ


――「量」を理解することが大事だということですが、具体的にどのように学んだらよいのでしょうか

算数が得意な子になってほしい、と願うお父さん、お母さんは多いはずです。少しでも計算 が早く計算ができるように!と訓練してきた子どもの中には、学年が上がっていくと、「計算は得意だけど文章題は解けない」「答えはわかるけど、式がわからない」といった子も出てきます。

計算など数の操作自体は上手にできても、ものごとを順序立てて考える論理的な力がなければ、いずれどこかでつまずいてしまうものです。

小学校の算数は、数の概念を理解することからスタートします。では、数の概念を理解するにはどうすればよいかを考えたとき、「量を土台にした数概念を身につける必要がある」と提唱した有名な数学者だった遠山啓(ひらく)さんという先生がおられます。

私はこの遠山先生の考え方から学び、小学校入学前の子どもはまず、「量」の学習から始めるべきだと考えています。

「考える力」を身につけるために、「こぐま会」では、生活や遊びの中で「未測量」「位置表象」「数」「図形」「言語」「生活」の6領域の学びを深めることが大切だとしています。それぞれの学びが、算数や国語、生活科での学習へとつながっていきます。 

学びの「6領域」図  提供:こぐま会

 

今回は「未測量」について。「量」の感覚を、どのように身につけたら良いかをお伝えします。

「大きさ」「多さ」「長さ」「重さ」の4つを実感する

具体的には、生活に身近な「大きさ」「多さ」「長さ」「重さ」の4つです。この4つの「量」の概念を、生活や遊びの中で、ステップを踏んで身につけていきます。

スタートは、ものとものを比較することから。「大きいのはどっち?」「小さいのはどっち?」を理解できるようにしていきます。

次に、A<B<Cのときには、「BはAよりは大きいけれど、Cよりは小さい」という関係の存在を知る「量の相対化」へと進みます。

続いて、「大きい順に並べる」「重い順に並べる」など、「量の系列化」へと発展させていきます。

幼児には、数の操作を教え込むのではなく、この「量」の概念の土台をしっかり育ててあげることからはじめてください。

 


――「量の相対化」や「量の系列化」。なんだか難しそうです・・・。

幼児にとって決して難しいことではないんです。素材は、お茶のペットボトル、朝ご飯のホットケーキなどなんでもOK。自分自身の体を使って、生活や遊びの中で楽しみながら体験を深められるのが「量」の学習です。

例えば、大きさの違うホットケーキを全部で3枚焼くとします。フライパンで焼くので、1枚ずつしか焼き上がりません。

でも子どもは、1枚、2枚焼けたところで、その2枚を比べて「これが大きい」と決めてかかります。さらに大きいものを出すと「もっと大きい」と表現したりします。

そこで改めて、3枚を見比べてみます。すると、子どもが言った「これが大きい」「もっと大きい」という概念が崩れてくるのです。「比べるものによっては、より大きくなったり小さくなったりする」という「量」の相対的な見方を学んでいきます。

こうやって実際に体験しながら「量」を学んでいると、一歩進んで「大きい順に並べる」「小さい順に並べる」という概念もスムーズに理解できるようになります。これが「量の系列化」と呼んでいるものです。

 「量」の体験は、言葉や論理の学びにつながっていく

――「量」の体験がなぜ論理的思考力につながるのでしょうか?

「量」の体験では、「量」を表す言葉を身につけることも大切なポイントです。重さも長さもすべて「大きい・小さい」と表現してしまう子どもも少なくありません。

「重い・軽い」「長い・短い」などの適切な表現を身につけてこそ、はじめて「量」を正しく比較できるようになります。

また、子ども自身で答えを導き出したときには、必ず考えのプロセスを言葉で説明するよう促してあげてください。自分の言葉でアウトプットすることによって、より深い言語の理解、学習へとつながっていきます。

さらに、比較することによって、ものの同じところや違うところに気づき、物事を関係の中でとらえるという相対的な思考もできるように成長していきます。まさに「論理」的なものの見方ができるということ。

「量」体験とともに、考えたプロセスを言葉にするという言語の学習を深めていくことで、自然と論理的思考力も身についていきます。

 論理に強い子を育てるには、身近なものから3つのステップで学ぶ 

――家庭でどのように「量」を学習すればよいでしょうか?

 学習と身構えず、生活、遊びの中で、身の回りにある素材を通じて楽しく実体験を積み重ねることを意識してください。勉強と考える必要は一切ないのです。お子さんと楽しみながら、感覚をつかんでいくという体験を大切に進めていただきたいと思います。

3歳ごろから、発達に合わせて、以下のステップを参考に進めてみることをおすすめします。

<ステップ1>【「大きい・小さい」「多い、少ない」を探す、大きい順・多い順に並べる】

遊びの時間や食事中に、「大きいのはどっち?」「重いのはどっち?」と尋ねるところからスタートします。それができたら、「中くらい」を教えます。

続いて、「順番」です。ぬいぐるみを大きい順に並べる、量の違うコップを多い順に並べるなど、遊びや生活の中で行うのがおすすめです。「これより小さいのは?」「3番目に多いのは?」など、表現を変えながらレベルを上げていきましょう。

 こぐま会の未測量「多さくらべ」の授業の様子。赤い水の入ったビンを多い順に並び替えます。目で見て理解できるようにしています。(提供:こぐま会) 

 

<ステップ2>【重さを体で感じる、重い順に並べる、道具を使って重さを比べる】

「重い・軽い」は目では見えないので、少し難しくなります。「小さな紙袋に入った重いもの」「大きな紙袋に入った軽いもの」などを用意し、子どもが自分の体で「重さ」を感じる体験を積めるように工夫します。子どもは、まずは見た目で判断しがちです。でも、実際に紙袋や野菜などを持つことで、見た目に惑わされず選べるようになります。そのあとで、野菜や果物などを使って「重い順に並べてみる」ことを体験します。

体を使った重さ比べができるようになったら、針と目盛りがついたアナログのはかりや、バネやゴムに吊り下げるなど、可視化できる道具を使った重さ比べを体験してみましょう。

 こぐま会での未測量「長さくらべ」の授業。長さ を比較するには、棒の端を揃える必要があることを理解します。(提供:こぐま会)

 

<ステップ3>【長さを比べる、いくつ分?を考える】

長さ比べは、「どうすれば長さを比べることができるか?」を子ども自身が考えるところからが学びです。端を揃えること、紐はまっすぐに伸ばしてから端を揃えることを知ることがポイントです。

続いて、「絵本の横幅はマッチ棒○本分」「ベッドは○○ちゃんの何人分」の理解に進みましょう。

日々の中に、量を楽しめるチャンスがあふれている

 

ステップ3までで、「量」の概念はかなり身につきます。ステップ4以降では、シーソーを使った順位づけなど、三者関係について学んでいくので少しずつ難易度が上がっていきます。

難しい問題に入る前に、「量」を比較する、並べ替える、順番を考えるなどを、生活用品を使って遊びの中でたっぷりと行うのがよいと思います。

暮らしの中でぜひ、「この重さを比べてみよう」「一番多いのはどれだろう?」と、子どもと一緒に楽しめる題材を探すアンテナを張ってみてください。

毎日の生活の中に、実はたくさんの学びのチャンスが溢れていることに気づくこと。これこそが、お父さん、お母さんに私が一番知っていただきたいことでもあります。

 

プロフィール:久野 泰可(くの やすよし) 

1948年、静岡県生まれ。横浜国立大学教育学科を卒業後、現代教育科学研究所に勤務し、1986年「こぐま会」代表に就任。常に幼児教育の現場に身を置き、その実践を通して幼児期に大切な「思考力」を育てるための独自のカリキュラム「KUNOメソッド」を確立。著書に『子どもが賢くなる75の方法』(幻冬舎)、『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』(集英社)など。こぐま会HP:https://www.kogumakai.co.jp/

「小学0年生の考える力 こぐま会・久野泰可室長」の記事知覧

小内三奈
小内三奈

ライター・インタビューアー。ビジネス・教育分野を中心に、新聞、雑誌、Webメディア等で執筆中。経営者や教育現場への取材の他、教育書・児童書の書評を執筆。その他、旅行、グルメ等幅広いジャンルに取り組む。好奇心旺盛でキラキラした子ども時代を過ごしてほしいと願い、「今、この瞬間」を大切に育児に励む2児の母。子どもの頃熱中したのはピアノ。4歳から高校1年まで続け、最後の演奏曲はショパンのノクターン。

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