2021.05.20
学びインタビュー 桜木奈央子

ドルトン東京学園・安居長敏氏と語る 予測不能な社会を迎えた現代!

ガミガミ言わなくても勉強する子が育つ「戦略的ほったらかし教育」を発信する岩田かおりさん。招待制の音声配信SNS「Clubhouse(クラブハウス)」でゲストを招いた対談連続企画「岩田かおりのここだけの教育話」を、ファシリテーターの教育系ライター洪愛舜さんとともに開催しています。3月25日は、「学習者中心」の教育を推進するドルトン東京学園中等部・高等部副校長・安居長敏先生を招き、「予測不能な社会を迎えた現代!学校教育が向かう先」について話しました。Clubhouseで事前に参加者に許可を得たうえで、対談内容を記事化しました。

「どんな勉強が必要なの?」まず、子どもに聞く新しい教育方法

岩田かおりさん(以下、敬称略):今回は「子どもを本当に伸ばしたいならこんな軸もある」ということを知ってもらうために、安居長敏先生に来ていただきました。学校教育の在り方も大きく変化しているので、その辺りをお聞きします。

安居長敏先生:2年前に開校した「ドルトン東京学園」副校長の安居です。それまでは沖縄で、幼小中11年一貫の英語イマージョン教育を行う学校の学園長を経験したりしました。

岩田:ドルトン東京学園というと最先端、多様性、自由という印象が大きいのですが、他の学校との大きな違いはどんなところなのでしょうか?

安居:今の子どもたちに必要な力をつけるには、どういう学びの空間があればいいのか、それについてたくさんの人が答えるであろうことをそのまま実施している学校です。

洪愛舜さん:必要な力!

安居:はい。子どもによって成長の度合いも個性も違うので、同じ教材を与えて「せーの」でやらせて、その結果だけで成績をつけるのはやめたほうがいいと考えています。

洪:確かに、日本の公教育では同じ教科書で一斉に授業を受けて一斉にテストして……が当たり前になっています。

安居:与えられた内容を暗記して点数をつけても、それは子どものごくごく一面でしかありません。
大人の決めた枠組みにただ当てはめていくのは、子どもにとって幸せではないと思います。

岩田:それができたらいいよね、という教育を実行している学校ですね。

安居:新設校だからやりやすいのはあると思います。既存の学校だと、どうしてもイメージや文化伝統を大きく変えるのはむずかしいので。

洪:実際にはどのように教育を行っているのでしょうか?

安居:まず「この勉強が必要ですよ」から始めるのではなく、「なにが必要?」と子どもたちに聞くのがスタートです。

洪:まず子どもたちに問うんですね!

安居:生徒自らが学ぶ、能動的に学ぶ形をつくってから学びが始まります。時間はかかりますが、結果的に深く学ぶことができます。

岩田:そこはいくら時間がかかっても、中長期的に考えるとはしょれない部分ですよね。学校での学びだけでなく仕事でも共通する事ですが、課題感を感じているかどうかによって取組む意欲が変わってきますよね。

安居:ほとんどの新入生が中学受験のために塾通いをしてきた子たちなので、大人にああしなさいこうしなさいっておしりを叩かれた子が多いんです。でもドルトン東京学園に入ると先生があれこれ言わないので、子どもたちは最初どうしたらいいか戸惑います。

洪:確かに、今までは小学校や塾や家庭で「この勉強をしなさい」と言われてきたのが、いきなり「何の勉強が必要?」と聞かれたら戸惑ってしまいますね!

安居:でも、この戸惑う期間が大事なのです。「学校は勉強する場所」「どこから始めよう」と自分で考えて実際に動くまで、だいたい2、3カ月かかります。私たちは、それまで待ちます。

部活はプロが指導して「本物に触れる」

「多様な学びや交流が生まれる仕掛けのある校舎」の中心となるラーニングコモンズ。一人で本を読んだり、協働で課題に取り組んだり、様々な探究に利用できます。

岩田:中学校なので、部活をどう捉えていらっしゃるのか、興味のある方も多いと思います。

安居:当初、部活は作るつもりはありませんでした。サークルのような「探究の時間」が時間割に組み込まれているので。開校後、生徒や保護者から「部活はないんですか」という声があったので、1期生にアンケートをとって、文化体育系の7つの部活動ができました。

洪:アンケートで決まったんですね! どんな部活があるのでしょうか?

安居:部活動は、サッカー、バドミントン、剣道、日本文化(茶道、華道)、合唱、美術、弦楽アンサンブルです。さらに2、3の部活や同好会ができて、現在はサークル、愛好会もあります。全て、学園の先生ではなく外部の指導者を呼んで指導しています。習い事をする感覚に近いかもしれません。

洪:すごい! プロに指導してもらえるなんて、効率よく学べそうです。

安居:確かに質の高い活動になっていると思いますが、部活は、スポーツも含めて勝つことや上達することだけが目的はなく、生活を豊かにするためのものだと考えています。かっこいい大人って輝きがちがうんですよね。生徒にとって憧れの対象の人と日常的に触れ合うことが大事だと思っています。
バイオリンやチェロなどはプロの演奏家にお願いしているので、部活によってはお金かかってしまいますけどね。

岩田:弦楽などは習い事でも費用が高いですもんね。でも、限られた時間の中で本物に触れられるのは、とてもいいと思います。
先生にとっても、働きやすい環境ですね。部活のサポートに時間をとられ負担が大きいという話もよくお聞きしますし。

安居:教員の仕事としてグレーな部分はやめようというスタンスです。先生の本業は生徒の学びのサポートなので、それ以外はぜんぶ外して、本業に集中してもらっています。

クラスも担任もない。「ハウス」という自治活動で生徒が動かす

 学んで身につけたことを発信して他者と共有。学内での発信と共有はもちろんのこと、学外に発信する機会を十分に確保し、議論したり、共感を得たりする経験が大切にされています。

岩田:2021年度の新入生が入ると、中学の3学年が揃いますね。学校行事はどのように運営されていますか?

安居:学校行事、生徒会などは「ハウス」と呼ばれる自治活動で生徒たち自身が動かしています。授業と学校生活を切り離して学びの自由度をより高めるために、来年度からはクラスや担任制もやめて、この「ハウス」で学校生活をまわしていきます。

洪:革新的ですね。既存の学校教育はもう当たり前ではなくて、いくらでも可能性があると感じさせられます。

安居:それから、制服は「標準服」という扱いです。式典などの時は「ブレザーとスラックス」と指定しますが、普段はジャケット、スラックス、カーディガン、シャツの中でなにかひとつだけ身につけたらいいということにしています。

岩田:身につける物の中からも、子どもが自分で考える余地を作っているのですね。

安居:校則もないので髪の色も一切気にしなくてかまいません。
また、評価方法は、中間・期末考査といった学校の一斉テストはありません。課題の細かな観点別評価の積み重ねで評定をつけます。

岩田:そうなんですね。 

安居:入学の時に自分の好きなパソコンを買ってもらいます。クラウド上に学びのコンテンツがすべて入っていて、毎時間のシラバスがクラウドに上がっています。校内はインターネットフルアクセスでなにも制限しないので、自己管理してもらいます。

岩田:生徒の主体的な学びの姿勢と共にITスキルも自然に身につきそうですね。

安居:先生が授業で使うのは、「チョークと黒板」ではなく、「ホワイドボードとプロジェクター」です。先生の説明は長くても15分ほどで、あとはグループワークなどをしてもらい、生徒たちが能動的に動くことを大切にしています。

「人といかに違うか」を追求して、個性をとがらせる

洪:学習スタイルについてもっと詳しくお聞きしたいのですが、教室だけでなくオープンスペースでも授業があるという話を伺いました。

安居:1時間の授業で、「先生から受ける学び」と「自分で取り組む学び」の雰囲気はちがったほうがいいと思います。自由な発想が必要な「自分で取り組む学び」のためには、教室を飛び出して大きな空間にいる方がいい場合もあります。
寝転がっても、立ったままでもいいし、広い空間ではアイディアが浮かびやすいのではないでしょうか。
校舎のつくりそのものが、どこでも学べて、自由に移動できるシームレスな設計になっています。授業中は必ず教室にいなさい、とは言いません。チャイムも鳴りません。

岩田:保護者としては、そこまで居心地が良すぎると、寝てしまわないか心配になります(笑)

安居:「自分の学びを自分で管理する力」を身につけさせたいので、もし寝たとしてもその分は自分で取り戻してもらいます。
生徒が自分で修正するように仕向けるために「いつやるの?」という声かけはしますが、「あれはだめ」「こうするべき」という発言は、こちらからはしません。

洪:親としては、うちの子、そのやり方でやっていけるのかなと心配になってしまうかもしれません……。

安居:「うちの子はそんなに能動的な子じゃないけど大丈夫でしょうか」という質問はよく出ます。でも、どんな子でも好きなことはどんどんやるし、絶対できますよ。
初めにもお話しした通り、自分でやりたいことを見つけて動き出すのに3カ月くらいはかかりますが、自分でやりたい気持ちを持てばやり始めるし、180度変わります。

岩田:進んでいくためのエンジンがあると無敵ですよね。人に言われた事をこなすのではなく、自分の学びを自分で管理する力が必須な時代ですものね。

安居:「人といかに違うか」が、それぞれの子どもの個性だし武器だと思います。そこをいかに尖らせるかが大切で、まわりに合わせる必要なんてありません。違う人が集まって協働作業をするから、良いものができるのではないでしょうか。

形にすぐに出なくても、子どもは成長し続けている

洪:子どもが自分の学びに気づくのに2、3ヶ月待つということは、家庭教育においては簡単なことではないのですが、どうしたらいいでしょうか。

安居:形として表に出ないだけで、何もしてないわけではないのです。表面上何もやっていないように見えても、子どもは一生懸命考えていますし、その間も成長しています。
そう考えると、3カ月や6カ月なんてすぐなのですが、やはり親御さんには「我慢して待ってくださいね」と何回もお願いすることもあります。

岩田:親が「形として現れる」と期待した時点で、子育てのつらい道のりが始まります。

安居:予測不能な現代社会において、「これが一番いい形」というのはありません。いい大学、いい会社、偏差値……。そんなのどうでもよくないですか。

岩田:親自身の進んで来た道を成功体験と考えてしまいがちですよね。時代は大きく変わっているし、求められる能力も違ってきているのに……。

安居:人生はまっすぐ前に進むという発想はやめたほうがいいです。成功体験を子どもに語るのはいいのですが、「で、あなたはどうする?」でいいと思います。

岩田:本当にそうですね。子どもの未来について理想を描くことは親なら誰しもあると思いますが、こうあって欲しいという想いが強くなり過ぎると、子育てがいばらの道になります。
子どもの人生は子どものもの。人間は失敗や迷いを経験しながら育つので、家庭はそんな子どもの安らぎの場所であり続ける事が、うまくいかない時を乗り越えるエネルギーになり成長や発達に繋がります。


プロフィール
安居長敏(やすいながとし)
滋賀県の私学で20年間教員を務めた後に転身。コミュニティFMを2局設立し、パソコンサポート事業を起業。その後、再び学校現場に戻り、滋賀学園中学校・高等学校/校長、沖縄アミークスインターナショナル小学校・中学校/校長を歴任。2019年4月から、ドルトン東京学園中等部・高等部/参事(副校長補佐)として「学習者中心」の教育を推進。2020年よりドルトン東京学園中等部・高等部副校長に。

岩田かおり(いわたかおり)
株式会社ママプロジェクトJapan代表。ガミガミ言わず勉強好きで知的な子どもを育てる親子講座『かおりメソッド』『天才ノート』主宰。子ども教育アドバイザー。幼児教室勤務を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」の想いから、独自の教育法を開発。3人(1男2女)の母。

洪愛舜(ほんえすん)
子育て・教育系ライター。出版社勤務を経てフリーの編集・ライターに。編集プロダクションecon主宰。目黒駅前新聞編集長。著書に『もやもやガール卒業白書』(MMR)、絵本『すき!I like it!』(教育画劇)がある。立命館大学理工学部卒。1女1男2児の母。

「岩田かおりのここだけの教育話」の記事一覧

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桜木奈央子
桜木奈央子

写真家、ライター。2001年からアフリカ取材を続ける。著書『世界のともだち ケニア』『かぼちゃの下で』。雑誌や新聞にフォトエッセイや書評を執筆。「cinema stars アフリカ星空映画館」代表。最近の趣味は息子2人のサッカー撮影。小学生の頃は本の虫、星野道夫さんに憧れ17歳でひとり旅に。

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