【夢中の力#002】「飽きるまで遊び尽くすと創造力が生まれる」明和電機・土佐信道さん
子どものころに夢中になって何かに取り組んだ体験や習い事は、どのように人生に影響を与えるのでしょうか。好きなことに没頭した経験が、自分を形づくり、個性を育てていきます。それぞれの分野で活躍している著名な方々に、小さいときの「夢中体験」について話を聞きました。電子楽器「オタマトーン」を始め、ユニークなアート活動で知られる明和電機・土佐信道さんが、夢中になったことは?
プラモデルは創作の面白さがなくて飽きちゃった
――小さい頃は、どんなことが好きでしたか。
幼稚園の頃は、プラモデルですね。小さいプラモデルを買ってきては組み立てていました。
――自力で組み立てていたのですか?
はい。でも失敗もありました。ある日、新しいのを作るためにパーツを取り外そうとしたのですが、子どもの力ではなかなか外せません。そこで何を思ったか、台所から出刃包丁を持ち出して、ずばーっと、指ごと切っちゃった(笑)。
血がいっぱい出て大泣きしていたら、祖母がびっくりして飛んできて、洗面器で血を受け止めてくれた。初めてのケガの思い出ですね。ただ、プラモデルは途中で飽きちゃいました。
――飽きちゃった、というのは?
プラモデルって、誰かがデザインしたものをそのまま組み立てないといけないんですよね。人の作ったものを作らなきゃならないのは、創作の面白さがないので、だんだん飽きてきちゃったんですね。
図工の時間が終わっても粘土に没頭
――プラモデル以外に好きだったことはありますか。
絵を描いたり、粘土で何かを作ったりすることがとにかく好きでした。
小学校2年生の時、図工の時間に「好きなものを作りなさい」と言われて、怪獣を作ったことがあるんです。没頭してしまって、片づけの時間になってもやめられない。
先生もあきれて「そんなに好きならずっと粘土をしていなさい!」って言うので、ぼくは内心「ラッキー!」と思いながら、給食の時間になるまで、ひとりで延々とやっていたことがありました。
――給食の時間まで!それで、どんな怪獣が出来上がったんですか?
それが、なんとも気持ち悪い……イソギンチャクとかホヤみたいな形の(笑)。自分が考えたオリジナルの怪獣なんです。絵も同じで、自分の頭の中にある想像上の生き物をよく描いてましたね。
父親は忍者だった!?
――小さい頃からオリジナリティを発揮してたんですね。お父さんもエンジニアだったと伺ってます。
そうなんです。家も電気部品をつくる工場(こうば)で、いろんな工具がその辺に転がってるような環境で育ちました。だからものづくりは身近でしたね。
父はものを作るのが好きなので、キャンプに行くと、ポプラの木で刀をつくってくれるんです。ポプラの木って皮をしごくと、外の外皮がスポーンと抜けるんです。それで、さやと刀みたいになる。そんなものをよく作ってくれましたね。
――それは楽しそうですね。お父さんはよく遊んでくれたんですか。
よく風呂の中で、忍者の「水とんの術」みたいなことをやらされたりもしていました。
――水とんの術ですか!
一緒に風呂に入っていると、突然「信道、もぐれ!」って言うんです。慌ててもぐると、「ばかもん!頭が出てる!そんなことでは敵にやられるぞ!」って。「え、敵!?」。
そんなふうだったので、小さい頃は父親のことを、本気で忍者だと思っていましたよ(笑)。
――とてもユニークなお父さんだったんですね。
そうですね。今、自分が変なことやっているなあと思っても、「いや、あの人ほどではないから大丈夫だ」と、父親の顔を思い浮かべています(笑)。
ボーイスカウトで無人島キャンプ
――小さい頃、何か習い事はしていましたか。
ボーイスカウトに入っていました。父が団長をしていて、姉もやっていたこともあり、自然な流れで入りましたね。
――ボーイスカウトって、どんな活動をするんですか。
今でも強烈に覚えているのが、瀬戸内の無人島で1週間暮らしたことです。20人くらいで行って、まずトイレを作って。ある日の朝、集合したら、隊長が「君たち、今日は自分で食べるものを自分で見つけなさい」って言うんです。乾パンだけ渡されて(笑)。
島じゅうを探すんですけど、食べられる野草の種類も、魚の捕り方ももちろん知りません。もう、どうしたらいいか全然分からないんですよ。一日じゅう探したんですが何も見つからなくて、もうへとへとになって。「仕方ない、野営するか」と相談していたところへ、「おーい!」と隊長が助けに来てくれました。
――子どもとしては燃えそうですね。
燃えますね。ものすごいサバイバル感ですから。
それともうひとつ、ボーイスカウトが楽しいのは「ごっこ感」だと思うんです。制服を着て、野外活動で合図の仕方やロープの結び方なんかを覚えて。あれは要するに「大人ごっこ」なんです。ごっこ遊びは、燃えますよ。
音楽に夢中で受験に失敗。母は「本望でしょう」
――中学生以降はどんなことに夢中になりましたか。
中学生になってからは音楽一筋でした。吹奏楽部でパーカッションをやっていたのと、もうひとつはシンセサイザーですね。初めてシンセサイザーのアルバムを聞いた時に、その未来感に興奮してのめりこみました。
中3の時には兄がシンセサイザーを買ったので、「キター、シンセサイザー!」って、どハマりしました。その後、兄とバンドを組んでコンテストに応募したりもしました。
――勉強よりも音楽、という感じだったのでしょうか。
その頃はもう、ドラムとコンピュータミュージックしかやってなかったですね。それで受験にも落ちましたが、母親も「あれだけ音楽をやってたんだから、本望でしょう」と。
――悔いはないだろう、と?
そうです。そういう親なんです(笑)。
――ご両親とも、何かに夢中になることにすごく理解があったのですね。
それはありましたね。両親とも「面白ければいい」みたいなところがあるんですよね。
母親の名言があって、「お金の貧乏と、心の貧乏は違う」が口癖でした。家業が傾いて経済的に厳しくなった時期がありましたが、その時にも、好きなことにお金を使うのをとがめられたりはしませんでした。
――自分のしたいことが自由に決められた。
ただし「自己責任でね」と。だから、新聞配達して、稼いだお金を好きなアニメのコレクションに注ぎ込んだりもしていましたね。
――粘土、プラモデル、ごっこ遊び、音楽。すべてが今につながっていますね。
そうですね、無駄がないですね(笑)。全部が今の明和電機につながっている。
制御できないことこそ、面白い
――明和電機の活動をされていて、どんなことに面白さを感じていますか。
僕たちは今、ライブで機械を使った表現をしているんですが、機械って、こちらが制御しているつもりでもうまく動かない時があるんです。「あれ?動かない」と自分のペースが崩されたその瞬間、思考がガーッと回転しはじめて、創造力が発揮される。その時の緊張感がいちばん面白いですね。
――ボーイスカウトのサバイバル感と似ていますね。
そうなんです。うまく行かない時の方が面白いんです。しかも、きっちり制御しているにも関わらず、うまくいかないのが面白い。
僕らがステージ上でも、機械がとんでもない壊れ方をしちゃって失敗して右往左往していると、見ている子どもたちがギャハギャハ笑うんですよ。「大人が失敗してるぞ!」って。失敗って面白いんですよ。
――子どもって、そういうところありますね。
僕らからしたらその反応は嬉しいんです。笑われたいんですよ。
――それはどういうことですか。
何か変わったことをやって笑われたいという気持ちがずっとあるんです。バカだなぁって思われたいし、変なヤツだって笑われたい。自分が意図的に考えた「笑わせる」の範囲をはみ出したところに、本当の面白さがあるんじゃないかと思っていて。
冷静に計算しつくした上で、それでも制御不能の部分が出てくる。それってアートの一番大切な部分なんですよね。自分が見たくない自分の内面とか、これかっこ悪いなというところを表現した方が面白かったりするし。だからこそ、失敗がすごく大事だと思うんです。
もっと失敗を体験したほうがいい
――今の子ども達はPCの画面上で遊ぶことが多いので、失敗してもすぐリセットできちゃいますよね。
今の子どもたちは、望む結果に早くたどりつくことの訓練はすごく受けてるんですね。すごく効率がいい。もちろん、そういう力が生かせる場面も絶対にあります。一方で、効率優先の世界は、不条理さや不可解さとかが飛ばされやすいんですね。
――確かに、想定外のことが出てくると、「めんどくさいからやめた」と放り出してしまう子どもは多いです。
そうなんです。ものづくりでも、めんどくさい部分って飛ばされちゃうんですよね。何か作ろうとした時に、今は3Dプリンタやカッターを使ってデータを組めば、いきなり形ができてしまいますしね。
――時間も素材も無駄にはならなくて、効率的ではありますが。
でも本当は、一番楽しいのはその間のプロセスだと思うんですよね。「動かない、さてどうしよう」とか「ここを削ってみようか」とか。不条理とか不可解、そういう面倒なことの中にこそ面白さがあることを、子どもたちには伝えたいですね。
飽きるまで遊びつくすと、創造力が生まれる
――子どもに失敗させたくない大人も多いですよね。
「これは危ない」となったら戻してあげる必要があるけれど、ギリギリまではやらせないと、やっぱり分からないですよね。怪我してみないと分からないこともありますから。
大人自身も、もっと失敗してみた方がいいと思います。失敗してパニックになるお父さんって、面白いじゃないですか(笑)。
――子どもたちが「夢中」を見つけるためのヒントがあれば、ぜひ教えてください。
子どもたちには、飽きるまで徹底的に遊んでほしいと思います。僕も小さい頃からいろいろなものに夢中になっては飽きてきましたが、飽きると自分で新しい遊びを作るしかなくなります。本当に面白いのは、そこからです。
――飽きた先に、その子ならではの創造がある、ということでしょうか。
そうですね。そのためにも、面白いと思ったら飽きるまで徹底的に遊びつくした方がいいし、大人はそれを止めない方がいいです。面白いと思うことはやり尽くす。もちろんリミットは必要ですが、そのギリギリまでは放っておくのが一番ですよ。
プロフィール 土佐信道(とさ・のぶみち)
「明和電機」土佐信道プロデュースによる芸術ユニット。様々なナンセンスマシーンを開発しライブや展覧会など、国内外で広く発表している。音符の形の電子楽器「オタマトーン」などの商品開発も行う。2018年にデビュー25周年を迎えた。2019年3月には秋葉原「東京ラジオデパート」にて明和電機初の公式ショップ「明和電機秋葉原店」をオープンさせた。
写真撮影:篠田英美

ライター mugichocolate株式会社 元中学校国語教師。NPO法人にて冊子の執筆編集に携わったことをきっかけにライター、編集者として活動開始。幼い頃から無類の本好きで、小学2年で夏目漱石にはまる、やや渋好みの子どもでした。今でも、暇さえあれば本屋巡りをするのを楽しみにしています。