2021.06.15
学びインタビュー 平岡妙子

世界トップ10に選出、立命館小の正頭英和教諭に聞く㊤「英語を話したくなる授業とは」

「グローバル・ティーチャー賞」の表彰式。正頭英和さんは左から4人目。中央は俳優のヒュー・ジャックマン氏。 

教育分野のノーベル賞と言われる「グローバル・ティーチャー賞」に世界140カ国の教師の中から、立命館小学校・ICT教育部長で英語も教える正頭英和さん(38)は2019年に世界トップ10に選出されました。小学校教諭としては日本人で初めてです。正頭先生に、なぜ世界で日本の教育が評価されたのか、いまの学びに必要なことは何かを聞きました。2回に分けてお届けします。(聞き手:「みらのび」編集長・平岡妙子) 

・上:英語を話したくなる授業とは
・下:令和の時代はゲームも勉強。問いを立てて失敗することから学ぶ

ヒュー・ジャックマンから祝福メッセージ 

――教育分野のノーベル賞と言われる「グローバル・ティーチャー賞」はどういう経緯で選ばれたのですか。 

「グローバル・ティーチャー賞」というのは、世界の先生たちを元気づけようというコンセプトのもとに作られた「バーキ―財団」がやっている賞で、優勝賞金が1億円っていうかなり大きなイベントです。表彰式はドバイで行われて、全世界から教育関係者が呼ばれて参加します。上の写真に写っているのが、僕が2019年に選ばれたときの10人なんですね。

――かっこいいですね。

優勝賞金は1億円ですが、イベント規模としては4億円規模のものです。現地では200くらいの取材を受けたんです。僕にSPが2人付いていて(笑)、ロイヤルスイートに泊めてもらって、超VIP待遇でした。すごいですよね。世界的にはかなり有名な賞です。ただ、世界中の200社以上から取材を受けた中で、まったく来なかったのが、日本と韓国でした。 

「グローバル・ティーチャー賞」は恵まれない子どもたちのための教育水準の向上を目指している「バーキー財団」が2015年に設立した国際的な賞。イギリスにあるバーキー財団は、インド人の実業家サニー・バーキー氏が設立した。世界約150カ国、約3万人のエントリーからトップ10に選ばれた教師は、アラブ首長国連邦のドバイで表彰される。日本からは2018年に工学院大学附属中学校・高等学校の高橋一也先生がトップ10に選出、小学校教師としては正頭英和先生が初めて。

――日本ではまだあまり知られていませんね。 

そうなんですよ。どれくらいすごいかというと、初代のプレゼンターがローマ法王だったんです。ビル・クリントン元大統領がプレゼンターのときもありましたし、ぼくの前の年、2018年はビル・ゲイツ。2019年はハリウッドスターのヒュー・ジャックマン。彼が銀のスーツ着て僕の目の前に来て、メッセージを言ってくれて。映画「グレイテスト・ショーマン」の歌も歌ってくれました。

 ――すごいですね。アカデミー賞みたい(笑) 

世界ではものすごい認知度が高い賞なんですけど、まだまだ日本では知られていないので、こういう賞に憧れる日本の先生が増えるといいなということで啓蒙していきたいと思っています。世界的に有名なので、2019年の夏には、ICTに力を入れているマレーシアのマハティール首相がお忍びで学校に来てくれて、「マインクラフト」というゲームを使った英語の授業を視察しました。 

ゲームのマインクラフトで京都の世界遺産を製作

世界トップ10に選ばれた教師たち。正頭英和さんは左から3人目。 

――「マインクラフト」を授業に取り入れているのですね。 

2017年にアメリカの学校と「マインクラフト」の授業をやって交流をしました。子どもたちはマインクラフトで、京都の世界遺産を作りました。金閣寺とか清水寺とか。それを作るだけではそれほど楽しくなくて、やっぱり伝える相手がいるからこそ、熱がこもるんです。なので、まずアメリカの学校とつながり、お互い1年かけて作品を作り、最後にデータを交換してオンラインで意見交換をし始めました。 

――お互いに作品を紹介するのですか。 

そもそもは、オンラインで海外の子どもたちと交流していたんですが、子どもたちが「別にしゃべりたくない」って言ったんですよ。まだ、オンラインで話すなんて珍しい時期ですよ。このときはまだzoomとかSkypeが定着していなかったんですから。 

――え? どうしてですか? 

「海外と交流できるなんて、先生の時代からするととんでもないことなんだよ。英語を日本人同士でしゃべるよりも、海外としゃべったほうがいいじゃん」って言ったんですよ。でも、モチベーションが上がらなかったんですね。お互いの文化紹介で、「京都の文化を世界に発信しよう」というテーマでした。かっこいいけど、子どもたちにとってはありきたりで、「つまんない」って全然興味なかったわけですよ。 

つまんない気持ちでやっているから、そりゃぁ、盛り上がりませんよ。お互いの決まり切った質疑応答が終わった後に、自由に会話していいよっていうと、お互いシーンとしちゃって。アメリカの文化を向こうが一生懸命紹介してくれるんですけど、興味が持てないんですよ 

――ああ、全然知らないからですね。 

そうそう。わからないから、興味を持てないし。こりゃいかんと思って、もっと、子どもたちが前のめりに意見交換したくなるものを探そう。どうしようか、と考えたんです。 

――それで、マインクラフトを始めたのですか。 

いまでは多くの人がやっていますが、2017年の当時、僕はマインクラフトというゲームを知らなかったんです。そこで、「ねぇ、マインクラフトって知ってる?」って聞いたら、子どもたちがぶわーって盛り上がって。「えー。授業でマインクラフトするの?すごい!」みたいな。収集がつかなくなっちゃって。 

自分はやりかたを教えることが全くできないから、「どうやったら授業になるのか、考えてほしい」って言ったんです。

世界遺産を紹介する授業を子どもたちが発案 

子どもたちがマインクラフトで作り上げた「平等院鳳凰堂」

――子どもたちに考えさせたのですか? 

本当は知らないだけのくせに、すべてわかったような感じでえらそうに(笑)「君たちが授業を作りなさい」みたいに。そしたら休み時間つぶしていろいろ考えた結果、「京都の世界遺産を海外の人に届ける授業をしたい」って、子どもたちから提案してきたんですよ。 

――前とは似ていても、まったく違う動機づけが出来たんですね。 

ぼくとしては「めちゃくちゃおもしれー」と思いながら、「ああ、いいんじゃない」ってクールなふりをして(笑)。京都って外国人観光客の人が多いですが、「全然子どもが来てない」と。「子どもに届けたい」っていう話になって。もうマインクラフトをやりたいがためのモチベーションで! 

でも英語ってコミュニケーションの授業なので、大切なのは単語の意味とかよりも伝えたい思いがあるかどうかなんですよね。マインクラフトだと必然的に伝えたい思いが出てくるようです。「こりゃ、いい授業になるな」って。 

失敗を恐れずにアメリカの子と英語で交流 

――なるほど。じゃあ、英語で何を話すのかということが、最初から明確だったんですね。 

そうですね。英語って、結局失敗を恐れないことが一番大事になってくるんですよ。だけど「わかってるけど、怖いじゃん」っていうのが大人でもあると思います。でもそれは、英語ができることがゴールになっていたら怖いんですけど、子どもたちからするとマインクラフトをすることがゴールなので、英語の失敗とかどうでもいいんですよ。 

子どもたちは制作する時、一緒にワールドに入って作るんですよ。共同制作と言う形で。その共同制作中の言語を、英語に限定しています。そこで、「失敗恥ずかしくて言えへーん」っていう子がいたとしたら、一緒のチームの他の子が怒るんですね。「恥ずかしがってたらゲーム進まへんから、早くして。ミスしてもいいから言ってーや」って感じなんです。 

これが積み重なってくると、ゲームしたいから伝えるってことが先行して。時々、僕が全体を止めて、「これ英語で言いたいんだけど、何て言うの?っていう質問ある?」って聞くと、みんな手が上がるんですよ。「先生、ここにブロック置いてって言いたいけど、何て言うの?」って。それを僕が黒板に書いて教えると、他の子もメモを取り出すんですよ。 

――すごいですね、自然に英語を使いたくなる状況を作ったのですね。 

とりあえず喉が渇いた状態にしてから水をあげると水がおいしいみたいな感じで、とにかく、「なんていうの?これ」っていうストレスをためた状態から教えてあげると、すごく浸透していったなという感覚があって。 

ゴールは英語学習なんですけど、子どもたちはそうは思ってないという。英語学習を手段にしてあげたという感じですかね。 

日本の先生の技術は世界でもトップレベル 

みんなで話し合いながら、マインクラフトで世界遺産を作る子どもたち

――そういった授業内容が、世界でも評価されたんですね。世界で他の先生のプレゼンをお聞きになってどんなふうに感じましたか。 

学校の先生が、すごくヒーローなんです。僕たちにはSPが二人ずつ付いて、誰に狙われているかは教えてくれなかったですけれども(笑)、歩いていてサインを求められることはありました。1万人くらいが集まっているライブにも登壇させてもらって、ワー、キャーって言われました。学校の先生が子どもたちの憧れであるのは、良いことだなって思いました。選ばれた10人は4日間くらい一緒にいたので今も仲良しです。お互いに模擬授業する時間がありましたが、そのときに思ったのが、正直、他の9人の先生が目新しいことをやっているようには思わなかったんです。 

――えっ、そうなんですか。 

誤解のないようにいっておくと、教えている環境がすさまじい。紛争地域とか、孤児の子たちを自分の家に集めて教えているとか、ストリートチルドレンに教えている先生もいました。日本みたいに安全な環境で教育を行えている地域は少ないので、僕は彼らに最大のリスペクトをもっているし、僕が同じ環境でそれできるのかって言われたらできないです。さすがに、トップ10に選ばれるに値するものすごい先生たちです。 

――過酷な環境での教育がすごいんですね。

何が言いたいかと言うと、日本の先生の教育レベルは、とても高いということです。日本の先生は職人芸みたいなところがあり、40人の生徒をたった一つの号令で、子どもたちを動かしたり考えさせたりすることは、高い技術です。子どもたちの意見を引き出す発問力、クラスの統率力とマネジメント力などは、世界トップクラスと胸を張れる質の高さを誇っています。日本の先生たち、ダメだダメだって言われているけど、もっと評価されて良い人たちではないか。だから国際的なところに目を向けて、「先生たち、もっと自分のやっていることに自信を持ちましょう」と言いたいです。 

――なるほど。日本の子どもたちは算数のレベルが高いと言われますが、それは教え方がうまいからだ、みたいなことはあまり語られてこなかったですよね。 

はい。学力低下は先生のせいにされますが、学力向上は全然言われませんよね。海外から見ると日本の学校の先生のレベルって高く、指導力が高いとよく言われるんですね。だから、僕たちはもっと自信を持っていいんじゃないかなって。 

ただ、1点だけ圧倒的に遅れているのがICTです。これは本当に、世界から3周くらい遅れています。「日本ではスマホ授業中禁止だよ」と言うとみんなに驚かれました。「Why? 他のもっとすごいことやっているの?」って。「いや、紙と鉛筆だよ」っていうと、びっくりされてしまいました。

 ――最近、文科省が教師の仕事の魅力を伝えようと、Twitterで「#教師のバトン」と募集したら、「教師の仕事は大変だ」という投稿ばかり集まった、という出来事がありましたね。大変残念なことでしたけれど、先生が「憧れのヒーロー」になるような、やっぱり良い職業でやりがいがあるんだと思って欲しいですよね。 

そうですね。しんどい面もありますが、どの仕事でもあると思います。受け止め方はいろいろなので、あんまり強制をするつもりはないのですが、頑張りたくても自信がない人とかには、「自信持ってください。先生は、もう立派な先生ですよ」ってお伝えしたいですね。 


プロフィール:正頭英和(しょうとう・ひでかず)さん

私立「立命館小学校」ICT教育部長、主幹教諭。1983年大阪府生まれ。関西外国語大学卒、関西大大学院修了(外国語教育学修士)。京都市公立中学校、立命館中学校・高等学校を経て現職。著書に「子どもの未来が変わる英語の教科書」(講談社)。


写真提供:正頭英和さん

取材協力:黒澤真紀

関連記事:立命館小の正頭英和教諭に聞く㊦「ゲームも勉強。失敗とやり直しをする経験が学び」

平岡妙子
平岡妙子

朝日新聞社に記者として入社し、社会部、AERA編集部や武蔵野支局長など。教育担当が長く、主に小中学校の学力調査や受験業界などを取材。小学生の時には合唱団で歌っていました。学校の取材で子どもの歌声を聞くと、涙腺がすぐゆるむ。大学生の長男と小学生の長女がいます。

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