2021.06.16
学びインタビュー 平岡妙子

立命館小の正頭英和教諭に聞く㊦「ゲームも勉強。失敗とやり直しをする経験が学び」

教育分野のノーベル賞と言われる「グローバル・ティーチャー賞」に世界140カ国の教師の中から、2019年に世界トップ10に選出された立命館小学校・ICT教育部長で英語も教える正頭英和さん(38)。小学校教師としては日本人で初めてです。正頭先生へのインタビュー2回目は、今の時代の学びに必要なことを聞きました。(聞き手:「みらのび」編集長・平岡妙子)

・上:英語を話したくなる授業とは
・下:令和の時代はゲームも勉強。問いを立てて失敗することから学ぶ

「ゲームは悪」は親の世代の価値観

――世界から見て日本の教師のレベルは高いが、ICT教育は遅れているという話を前回伺いました。これは大きな課題ですね。GIGAスクール構想で、1人1台タブレットは配布されました。親の立場からは、家で結局ゲームやってYouTube見てしまっている、あまり使わないで欲しいと思ってしまうこともありますが、どうお考えですか。

家で見ているときには、一番大事なことは姿勢だと思っています。ソファーでゴロンとしながら、勉強に使うというのは基本的にはやめたほうがいいかなぁと考えています。使う場合は、椅子に座って、机に向かって勉強するほうが良いですね。

――じゃあ、寝転がりながらタブレット使っていて、親が注意すると「だって、宿題してんだもん」と言われる、という場合には、「ちゃんとした姿勢でやりなさい」って言ったほうがいいんですね。

そうですね。ゲームでもマンガ読むにしても、ちゃんと座ってやらせるほうが集中力が高まります。のめり込み方が変わってくるかなと思っています。頭の中に浸透していく量が違うと。でもごめんなさい。これはアカデミックな知見があるわけではなくて、個人的な意見です。そんな感じがするなと思っているので、姿勢はすごく大事だなと思っています。

――結局ゲームをやっているじゃないかということに、親はイライラしてしまいます。

いまの時代は「ゲームをすることが悪い」ということはないんですね。「ゲームをしてると勉強してない」と思うのは、私たち世代は当然のこと。僕たちはゲームをすることが勉強ではなかったんです。でも今の子たちは、ゲームをすることが勉強になっています。

これは何が変わってきたかというと、求められている学力の定義が変わってきたんです。僕たちの時代は「物事を正確に考える力」だとか、「物事を正しく覚えられる力」が重要だった。つまり、計算力とか記憶力が求められていました。

時代に応じて変わる学力の定義

マインクラフトでコードを打ち込む立命館小学校の子どもたち。

 ――今は時代が変わってきて、求められる学力は計算力や暗記する力ではない。

今の時代はテクノロジーが発展してきたので、答えがある問いに対しては、もう私たちが頭を使わなくてもいい時代になった。なので、何が大事かっていうと、「自分なりの答えを創り出せるか」、もっというと「自分で問題を創り出せるか」が重要になってきています。

いままでは知識を増やすことが勉強だったのですが、どうやらそれはテクノロジーで一瞬でカバーできるようになった。じゃあ、知識の代わりに何が求められるようになったのかというと、体験が求められるようになりました。つまり、見てみる、触ってみるとか感じてみるとか。

――知識を増やすことが目的ではない時代なのでしょうか。

今後求められるスキルの話をします。昭和の時代って、問題があって、解き方があって、答えがある、ということでした。それぞれが一個一個で、問題が一つ、解き方は一つ、答えは一つ、っていう。1+1=2だという。くれぐれも、それが悪いというわけではなくて、その時にはそれが大事だった、ということです。
平成になると、問題があって、解き方は自由、答えは自由、こんな感じだったんです。例えば、「アフリカの食糧問題。どんなふうに解決する?」。これって、先生が問いを与えるのですが、子どもたちが考える答えはばらばらです。

ただ、これは自分の失敗談でいうと、例えば、「世界の食糧危機問題について、君たちはどんなことができる?」と聞くと、120人中100人くらいが、答えとして行き着くところが、「給食の食べ残しをやめる」だったんですよ。つまり、問いをひとつにしぼったときに、子どもたちはある程度、答えのテンプレートがある状態だったと気づいたんです。

――こう答えておけばいいだろうって子どもたちが思ってしまうのでしょうか。

そうですね。なんとなく答えが見えてしまっている状態ですかね。じゃあ、令和の時代はどうなっていくかというと、子どもたち自身が問いを自分たちで決めて、方法を自分たちで模索して、結論を自分たちで自由なものにする学びです。簡単にいうと、小学校の自由研究みたいなものです。知りたいことを調べておいで、みたいな感じです。

――「毎日が自由研究」みたいな感じですかね(笑)

もちろんすべてが自由研究みたいになるわけではないですね。例えば今ICTがすごい勢いで入ってきていますよね。2つの現象が起こると思っていて、1つは「学びの効率化」です。つまりこれまで8時間かけて学んできたことを、効率よく個別最適化で学ぶことで6時間で学べます。これがICT化のメリットの1つです。第2ステージは、じゃあ余った2時間どうしますかってことなんです。

――余った2時間を、いかに子どもたちが考えることに使えるかということなんですね。

そうです。余った2時間のなかで、「わかる」から「できる」というステージに変化させていく。要は、学んだ知識をちゃんと使える場所をここで作りましょうということです。小学校のうちは自由研究やろうかっていうとアイディアがいろいろ出るんですけど、だんだん中学生、高校生になるとアイディア出ないんですよね。「自由にやってごらん」っていうと、「何したらええの?」ってなる。ここが僕たち教員が向き合わなきゃいけないポイントだと思っています。問いを作るという段階で止まってしまうんですよね。

想像力を奪わないために親がやることは

 ――問いを立てるということは、積極性が必要な作業なので、出来る子と出来ない子の二極化があるような気がします。問いを立てるのが苦手な子には、どのようにしたら良いと思いますか。

まさにおっしゃる通りで、問いを立てる力は学力とは関係ないかなと思いますが、問いを立てやすい子と立てにくい子がいます。これは僕の感覚でいうと、真面目な子ほど問いが立てにくいです。お調子者な子ほど、面白くて鋭い問いを立てる子が多いです。真面目な子は考えなきゃって思っちゃって、正直、考えれば考えるほどあんまりひらめかないんですよ。自由な発想、アート思考とかって表現される思考が重要だと言われるのは、周りの意見などに左右されずに、自分なりの考え方を大切にしてほしいからです。

――親世代が良いと思っていることと、時代が求めていることがずれているかもしれないので、戸惑うかもしれないですね。

そうなんです。ゲームでもそうなんですが、親が悪いわけではない。時代が変わったんだと認識しないといけなくて、ゲームが悪いという僕たちがもともと持っている価値観は、十中八九捨てたほうがいい。すべて捨ててもいい。自分たちの世代の成功体験は持っておいてもいいけど、それを子どもたちに押しつけてはダメだと思います。

――さきほど中高生になるほど自由に問いを立てられなくなるというのは、どこかで想像力を奪われてしまうのでしょうか。

そうですね。「想像力とか問いを立てる力をつけさせるためにどんな指導をしたらいいですか」って質問されるんですが、もともと逆で、小さい子どもって問いだらけじゃないですか。多分、小さいころは嫌になるくらい、「なんで?なんで?」って質問してきますよね。「もう、ええやん」っていうくらいに(笑)。問いを持つことに対して、子どもはもともと天才です。ところが、何かしらのきっかけでこの力が失われていくんです。つまり、考えなきゃいけないのは、何をしたらその力を育てることができるか、ではなくて、何をして僕たちはその力を奪ってきたのか。つまり、これからの教育は、何をしないかってことです。「何やめる?」ってこと。

失敗から個性やストーリー性を見いだせるかどうか

――きちんとしなさいと言わないようにするとか、失敗も認めるとかでしょうか。

失敗をすることは大事だし、失敗する方が面白い。じゃあ子どもたちにその力がついているかというと、そうでもない。経験がないだけでなくて、失敗したことに対してのメリットがないというか…。

――ああ、それは失敗から学ぶという経験がないからでしょうか。

失敗して学ぶというのは一つのメリットでしかなくて、失敗をネタにするとか、例えばそういうことも。失敗って基本的に「人と違う経験」なんですよ。そこに、個性やストーリー性を見いだせるかどうかってことなんですよ。

――武勇伝のように変換できて、面白話として話せるようになると良いのでしょうか。

そうですね。テレビ番組の「しくじり先生」って、ついつい見ちゃうじゃないですか。失敗のエピソードって人をひきつける、魅力につながるんですよ。あれが「成功先生」だったら鼻についてしょうがないわけですよ(笑)。

――面白くない(笑)。

逆にいうと、コンピューターが唯一出来ないのが失敗です。つまり、失敗できるのは人間だけの特権であり、失敗だけがあなたらしさを発揮するということなんですね。そこを子どもたちが理解するようになると、失敗を怖がる前にやってみようとしか思わなくなります。

ゲームは失敗とやり直しの連続

――学校のなかで失敗できる場があるかどうかなんですね。

そうなんです。マインクラフトはその典型例です。めちゃめちゃ失敗するんですよ。ノーミスで作るのは、ほぼ不可能です。なので、失敗して反省するよりもどんどん先に進んじゃおうというのが先に立ちます。だから子どもたちは操作しながら振り返っていくという感じです。失敗なんてどうでもよくて、やり直そうっていう。失敗するのに大事なのは、やり直しの機会をちゃんと提供することなんです。

――ゲームは重要だと(笑)

そうなんですよ。ゲームはうまくできていて、絶対に一回でクリアできないようになっています。でも何回もやってるうちにクリアできるのがゲームの設定なので、子どもたちはゲームでの失敗はなんにも恐れない。そういう意味で、ゲームはよく出来てるんですよ。

――人生の大事な学びに役に立つなんて、親は思ってもないですよね。

そうですね。RPGと言われるドラゴンクエストなどのゲームは、最初はスライムっていう誰でも倒せる敵で、みんな同じ道をたどっていくんですけど、だんだんストーリーが分岐していく。自分が何を選ぶかによって、最終的に自分だけのストーリーが出来上がるように設定されています。子どもが思わずのめり込む仕掛けがいっぱいある。

「子どもがゲームにのめり込んでしまって困る」っていう相談を保護者から受けることが多いのですが、「一緒にゲームやって下さい」って言っています。「時間で区切れば良いですか」って聞かれますけど、「1時間たったからやめ」って言っても子どもはやめないんですよ。区切りが悪い。区切りが良いかどうかはゲームやってる人にしか分からない感覚なんですよ。「ここではやめられへんねん」っていう。この微妙な誤差が親子げんかを生むと。これを解消するためにはお父さんお母さんも一緒にやることです。「そこまでいったらやめ」っていうと案外子どもは素直に聞きますよ。

――なるほどね。親がわからないで注意しても、そりゃ、言うこと聞かないですよね(笑)。

親のハイテンションな反応がやる気を育てる

――あと、問いをどう育てるのかという話をもう少し教えてもらっても良いですか。

はい。問いを育てる方法には、3つあります。

1:その子の持つ情報の少し外の情報を与える。
2:子どもの発信を問いに変換する。
3:小さな問いを大きくする。

その子の持つ情報のちょっと外の情報を与えることが重要かなと思ってます。カブトムシが好きな子がいたら、「金色のカブトムシがいるんだよ」ってことを教えてあげると、「えーっ」て驚いて、「銀色のカブトムシはいるの?」とか、「銅色のカブトムシはいるの?」とか、「配合で紫色のカブトムシはできるの?」とか、そういう問いに変換していけるかということかなと思います。
2つ目が子どもの発信を問いに変換してあげることが大事です。例えば何でもいいんですけど、「宇宙っていつか行けるかなあ」って言ったら、「今行けるかもしれない宇宙船を作ってみようか」とか。子どもの発信には思いがあるので、横にいる大人たちが問いに変換してあげるっていうマインドを持つことが必要かなと思います。

――それは親の技とすると、問い返してあげることとはまた違うんですよね。

子どもの発信が問いに変換しやすい時って、子どものテンションに比例するかなと思ってます。「カブトムシ好きなんだ、えらいね」ではなくて、「へー、こんなかっこいいカブトムシいるんだ。すげーじゃん」とか一緒に驚く。育てた問いは、最終的にどういう形に落ち着くかと言うと、3つあります。1つめは「もっと知りたい」。2つめは「作ってみたい」。3つめが「試してみたい」。3つのゴールがわかっていればわりと問いに変換しやすい。「じゃあ調べてみようか」とか。「作ってみようか」とか。

小さな問いを大きくするためには、「それめちゃくちゃ面白いじゃん!」って反応する。これに僕は「スーパーポジティブハイテンションフィードバック」っていうめちゃくちゃダサイ名前をつけてるんですけど(笑)。子どものモチベーションって足が速いので、翌週までモチベーションが持たない。問いを発信した時にその場で対応してあげるのが重要だし、大人がハイテンションで「おもしれー」って言うのはすごく大切です。

問いと好奇心って限りなく近いところにあります。問い、つまり好奇心を育てたいと思えば、環境としては好奇心を持っている大人の近くにいることなんです。子どもにその力をつけたければ、まず大人が持ちましょう。いろんなことに好奇心持っていますか。大人が好奇心をむき出しにすることが大事だなと思います。大人が本気で面白いと思えるかどうかが非常に重要です。ウソの「すごいねー」っていうのは、子どもはすぐに感じ取るので。

――子どものやる気を育てるというけど、親が面白がることがやる気につながるんですね。

子どもの問いに、面白いじゃんって反応すると、モチベーションの火がついて、そこから初めて何かしらの具体的なアクションを起こす。いきなり行動しろって言っても難しい。何もない子は問いからスタートするのが良いのではないでしょうか。もちろんこれは将来の夢と直結してなくてもいい。問いをもつことと将来の夢を結びつけないことが大切です。

将来の夢よりも、いまやりたいことを育てる

世界トップ10に選ばれたグローバルティーチャー賞のメダルと賞状

 ――将来の夢みたいに大きく聞くから「なにをしたいかわからない」ってなりますよね。

そうなんですよ。将来の夢とかきいちゃだめ。

――そんな大きなことは、わかるわけないって感じですかね。

聞くから、かたちあるものだって思っちゃうんですよ。かたちあるものっていうと、子どもは職業を答えます。でも、大人になるとわかるんですけど、職業ってやりたいことの手段でしかない。人を助けたいから医者になるのであって、先に医者になるプロセスがきちゃうと、がんじがらめになっちゃう。人を助けたいのであれば、別に心理士でもいいし、薬剤師でもいいわけですよ。そういうふうに選択肢が増えてくるので、将来の夢は職業ではない。

――「2011年度にアメリカの小学校に入学した子どもたちの65%は、大学卒業時に今は存在していない職業に就くだろう」という調査結果がありましたよね。「何になりたい」って子どもに聞いても、その子たちの時代には今ない仕事に就くかもしれないのだから、答えられない。そういう時代を私たちは生きているんですね。

そうなんです。僕たちの時代は、将来の夢は弁護士とか看護師とかで良かった。だけど今の時代は職業が変わってきているというのもあるし、わりとやりたいことで食べていこうと思えば食べていきやすくなった時代ですよね。みんながみんなYouTuberっていうのは無理だと思いますけど、やりたいことが叶いやすくなっている。なので、やりたいことの方が大事。将来の夢は別に聞かなくていい気がします。

――それよりも今関心があるちょっとしたことを問いに変換して、面白いねって盛り上げて、それを探求するところから何かが生まれてくるかもしれない。

そうですね。いろんな経験させてあげて、いろんな選択肢を持たせてあげて、その中から何を選択するかは自由ですからね。だから無理やり夢を持ちなさいっていうのはナンセンスだなと。夢にたどりつけるように、小さなところから応援してあげたいですね。

――深くて面白い話をどうもありがとうございました。


プロフィール:正頭英和(しょうとう・ひでかず)さん

私立「立命館小学校」ICT教育部長、主幹教諭。1983年大阪府生まれ。関西外国語大学卒、関西大大学院修了(外国語教育学修士)。京都市公立中学校、立命館中学校・高等学校を経て現職。著書に「子どもの未来が変わる英語の教科書」(講談社)。

写真提供:正頭英和さん

取材協力:黒澤真紀

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平岡妙子
平岡妙子

朝日新聞社に記者として入社し、社会部、AERA編集部や武蔵野支局長など。教育担当が長く、主に小中学校の学力調査や受験業界などを取材。小学生の時には合唱団で歌っていました。学校の取材で子どもの歌声を聞くと、涙腺がすぐゆるむ。大学生の長男と小学生の長女がいます。

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