2021.06.17
学びをはぐくむ 曽田照子

夢中を「見守る」子育て 第5回 「私は中学受験する子の母親にはなれないの?」

今回は読者から寄せられた質問について、教育家の小川大介先生にお答えいただきました。中学受験の最大手進学塾に息子を通わせている母親が、こんなところでやっていけるのか不安になったと悩んでいます。

読者からの質問 愛する息子を塾にダメにされるのでは

【武蔵野市の母親 長男・小学3年生(8歳)】

息子にはこれまで本人が嫌がることはさせずに、のびのびと育ててきました。計算力だけはつけようと毎日私が問題を用意して30分間ほど取り組んでもらいました。これに学校の宿題を加えて、1時間程度の学習時間でした。 一人目の子で可愛いくて可愛いくて仕方なくて楽しそうに遊んでいる姿を見て私も幸せでした。

中学受験の最大手進学塾に通い始めた日、道にあふれんばかりの生徒さんがひしめき合いながら教室に入っていきました。どの子もお勉強ができそうで、息子がこんなところでやっていけるのか急に不安になり、涙が出てきました。

勉強は嫌いな子ではありません。読書も大好きです。しかし、楽しいからこそ取り組んでいた勉強や読書が、クラス分けで下位にでもなれば、勉強そのものを嫌悪するようにならないかも心配です。
チャレンジ的な問題が好きな息子は、正答率1桁の問題こそ楽しくなりテスト中に考え込むので、後の正答率の高い問題にたどり着けず、点数が伸びずにクラスは低めになり、見ていてかわいそうです。

過度な負担を9歳にもならない息子にかけてよいのかと、嫌な胸騒ぎがとまりません。彼の楽しい放課後はもうなくなってしまうのかと思えてきて涙がこぼれてきます。

中学受験は一緒に頑張りたい。でも、 東京の大手塾という得体の知れない魔物に私がやられてしまっている状態です。可愛いくて仕方ない、愛する息子を塾にダメにされるのではないかと怖くてならないのです。 私は、中学受験をする子の母親にはなれないのかなと思い始めて悩んでいます。  

小川先生の回答     集団塾で成果を出すための家庭の役割

塾を利用する前提として知っておきたいのは、集団塾は塾のカリキュラムや方針に、家庭が合わせることによって成果を上げるものだ、ということです。どの塾にも方針、やり方があり、それに合わせて学習スタイルを変える必要があります。

通っている大手塾のような点数至上主義タイプの塾で成果を出すための家庭の役割からお伝えしましょう。

集中を持続する練習

集団塾で学習するには、60~90分間、授業を受ける力が必要です。相談者のお子さんは1時間の勉強にのぞむ練習はできているので、時間的にはOKですね。
本人が「先生の言っていることを聞こう」としているか、聞き逃したときに気持ちを切らさず「次を聞けばいい」と思えるか、またテキストのどこを習っているのか、「先生の説明が分かる」と確認しながら説明を聞けるか、という聞く練習も必要です。

授業の受け方を考える

塾から子どもが帰ってきたら一緒に授業内容のふりかえり、授業内容をできるだけていねいに聞きとり、どうすればもっと授業が受けやすくなるか、子どもと相談しながら作戦を立てます。
例えば板書を写している最中に先生が次の説明をはじめたら「写しきれなかったところは後で先生に質問したらいいね」といったことも含め、「ノートにはこういう風に書くと良さそうね」「詰めて書かないで、もっと間をあけて書くといいよ」など、授業の受け方をひとつひとつ押さえていきます。

習ったことを覚えるという習慣をつける

中学受験でも「記憶」は避けて通れません。与えられた課題をこなすだけで覚えることをせず、テストの直前だけやるというパターンに陥るケースが多いのですが、すぐに忘れては学習が積み上がっていきません。そうならないよう、覚えて記憶に残す、という習慣を育てることも重要です。
「覚える」には、インプットだけでなく、思い出すことも含まれます。翌日にもう一回ノートを確認したりミニテストをしたり……反復によって、記憶を定着させるというサイクルが欠かせません。

「のびのびとした子育て」の落とし穴

 相談者は、子どもの興味関心を大事に、探究的な学び、非認知能力を育てることに関心をお持ちだと思います。それ自体は、とてもいいことです。

興味関心を持たせるのは大人の役割

しかし、それが「楽しいから」だけで取り組む勉強や読書だけに偏ってしまうことには注意が必要です。「好きでなければやらない」となってしまう危険性があるからです。

知らなければ心は動きません。逆に言えば、知ることで興味が湧き、心が動かされます。
そもそも「知らないこと」を学ぶのに好きも嫌いもないはずです。本人が望むかどうかに関わりなく、必要な知識は与えてあげるということも大人の責任です。その際に、子どもの心が動くような、学びの渡し方を工夫するのが大人の知恵ですね。

日本の学校教育は悪くない

もし、「子どもの好きな学びをさせたい」というのが、現在の学校教育に対する疑問や不信感から来ているのでしたら、それは誤解かも知れません。日本の小中高校の教育水準は今も世界でトップレベルを維持しています。特に、まんべんなく知識を身につけることについては、効率良い仕組みができています。

小学生の段階で土台としてまんべんなく知識を持たせてあげることはやはり望ましいことです。
ただ「まんべんなくやる」が「無意味なくり返し」や「押しつけ」の学びになるのはよくありません。「いいからこのプリント5枚やりなさい」といったような、やらせる、与えるだけの学習は害があります。本人が納得して考えを進めていけるように学ばせることが重要です。

もしかしたら相談者は、まんべんなく学ぶことと、押しつける学習を同一視していませんか。押しつける学習への危機感があるため、「楽しい学び」をさせたいという思いへと飛躍していないでしょうか。

「好きな勉強」との割合を考える

興味関心を持った「好きな勉強」と、まんべんなく標準的な力の訓練をする「基本学習」を両立させながら中学受験に向き合っていくには、「持ち時間」という視点で割合を考えるといいでしょう。

3年生なら基本学習を6:好きな分野を4の比率くらい。
4、5年生になれば基本学習を少なくとも7:好きな分野は3。
6年生になったら、訓練すべき学習が9割以上で、好きな分野を深めるのは、志望校の問題を楽しむと言った形で満たしていく……といったように、比率は変わっていきます。

子どもが伸びる環境をていねいに選ぶ

クラスの下位になったらかわいそう、勉強が嫌いにならないか心配と相談者は書いています。しかし、好きでやっている勉強ならば、成績がどう出ても嫌いにならないでしょう。成績が下位になって嫌いになるのは、「好きな勉強」ではありません。人から評価されるための手段としての勉強です。

家庭の教育方針に沿って塾を選ぶ

もしかしたら、相談者がその大手塾を選んだのは、合格実績や「お子さんが難しい問題に挑戦するタイプだから」という印象からではないでしょうか。

お選びになった塾は、ひたすらテストをくり返してその成績の順番で毎月クラスを変動させるスタイルで実績を上げています。相談者に「魔物」扱いされた塾にしてみれば、「いやいや、このやり方の塾だとわかっていて、あなたが選んできたんですよね?」と言いたくなってしまうかも知れません。

塾選びは本来、「うちの教育方針と相性がいいのはどこだろう。どういった環境を与えてあげることがこの子にとっての、また自分たち親にとってベストだろうか」という視点で、子どもにとって学びの環境をていねいに選んであげる、というものです。ご相談者は、塾に何を求めているのかがあやふやなまま、親の自分の判断だけで、お子さんを通わせ始めてしまっています。多くの子が通っているからとか、合格実績だけで選んでいませんか。

今からでも遅くありませんから、塾選びの前段階として、家族、夫婦で話し合い、「うちはこういう子育て学習の方針でいきたい」と決め、子育てビジョンを言葉にしましょう。塾選びについて考えあぐねるのはそれからで充分です。

大規模塾でもお通いの塾のように競争が激しい塾もあれば、のんびり積み上げ型の塾もあります。ネットで調べてみるだけでも違いが分かります。本人の好きなことを深めて欲しい、気持ちを大事にしたいという方針なら、親身に対応してくれる小規模塾も選択肢に入れてもいいかもしれません。

子どもが伸びる環境選びとしての塾選び、その延長線上としての中学受験があるということを忘れないでください。

中学受験の親としての成長

 中学受験の時期は、親として子どもを信じて学習を本人に委ねていく、つまり子どもを手放していく時期と重なり合います。親は、支えるべきところと、子どもを信じて自分の力で出来るように受け渡していくところを、子どもの成長に応じて変えていく、それが親子ともに成長するということです。
相談者は、今はまだ子どもを手放していくための心の準備ができていない状態ではないでしょうか。

塾を選ぶことを通して、改めて親である自分はどうしたいのか、子育てビジョンを考え、話し合うところからはじめるといいでしょう。

お子さんは3年生、まだ充分間に合います。親として成長していくことを胸において、頑張ってください。


プロフィール:小川大介(おがわ だいすけ)

教育家、中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員。京大法卒業後、受験指導、幼児期からの才能発掘、親子関係カウンセリングなど幅広く活動。6000回以上の学習相談、子育て相談で培った洞察力と的確な助言が評判。『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』など著書は20冊以上。新刊「自分で学べる子の親がやっている『見守る』子育て」が好評発売中。見守る子育て研究所 中学受験情報局「かしこい塾の使い方」

「夢中を「見守る」子育て 教育家・小川大介」の記事一覧

曽田照子
曽田照子

ライター。広告制作会社を経て20代前半でフリーに。「親から子への言葉かけ」をメインテーマに、書籍やWEBで書いています。小学5年生で手芸クラブに入部、フェルトをちくちく縫ってマスコット人形を作っては周囲にプレゼントをしていました。今は和裁を習っています。娘3人+猫の母親です。

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