2021.07.01
学びインタビュー 小内三奈

第7回:人の気持ちが理解できる子はどうやって育てるの? 「こぐま会」久野泰可室長

幼くても人の気持ちが自然と理解できる子どもがいます。こぐま会の久野泰可室長は「視点を変えて物事を見る目が育っている子は、自然と他人の立場に立って考えることができる」と話しています。子どもは、自分の見ている世界がすべてだと思っているもの。その子どもの見方を打ち破るのは大変そうです。「視点を変えて」見る目を育てるにはどうすればよいのか?人の気持ちが自然と理解できるような「柔軟な思考力」とは何なのか?お話を伺いました。

子どものこだわりをなくして、「新たな視点」の与え方

どうやっても泣き止んでくれない赤ちゃんに困り果てているとき、通りかかったおばあさんが「こんにちは!どうしたの?」と話しかけてくれたら、一瞬でピタッと泣き止んだというような経験はありませんか?

おばあさんの登場によって赤ちゃんの興味が別のものに移ったということだと思います。一時的に気をそらしたといえばそうかもしれません。でも、言葉にできない何かにこだわって泣き続けていた赤ちゃんの視点を別のものに移してあげることで、赤ちゃん自身に新たな視点が生まれたともいえます。

別の例をご紹介します。夕方の買い物途中にアイスクリーム屋さんの前を通ったら「アイスクリームを食べたい」と主張する子どもがいます。「もうすぐごはんの時間だよ、ご飯が食べられなくなるから今日は我慢しよう」と言っても「食べたい、食べたい」の一点張りです。

そこで「じゃあ買って帰って、夜ご飯を全部食べた後に食べようか?」と提案すると、あっさり承諾。今はだめだけど、食後のデザートとしてアイスクリームを食べるという新たな視点が生まれたことで納得できたというわけです。

いずれも、周りの大人が別の見方を与えたことで、こだわっていた視点から別の視点に「視点が変わった」例です。でも、幼い子どもは本来1つの視点にこだわり、多面的に見るということがなかなかできないものです。

多面的にものごとを見る力を養うには

――幼児にとって、多面的にものごとを見るというのは難しいものなのでしょうか?

子どもにとって、自分の力で「視点を変える」のは簡単ではありません。

自分の右手は、向かい合って座るお母さんから見ても右手だと主張します。最初はみんな、信じて疑いません。机の上に置かれたやかんを見たときにも、反対から見るお友達には違った見え方をすることがわかりません。自分が見ているのと同じように見えているはずだと信じこんでいるのです。

そこで「向こう側に行って見てきて」と声をかけます。すると、実際に反対側に行って見てみると、自分が見ていた見え方とは違うんだとはじめて気づきます。

子どもは1つの見方にこだわり、別の視点でものを見るのが難しいものなのです。様々な体験を重ねることで、自分の見え方と人の見え方が違うということを少しずつ理解できるように成長していきます。

ジャングルジムの上からや、くぐり抜けて反対側から見てみる

――多面的なものの見方ができるようになるにはどうしたらよいでしょうか? 

右手・左手、やかんの見え方の例のように、子どもは、自分の見ている世界がすべてだと思っています。その世界を打ち破るのに一番いいのが、公園の遊具で目一杯遊ぶことです。

滑り台を滑ると、高い位置から見ていた景色と、滑り降りたときに見える景色とは違います。ジャングルジムに上れば、360度回転しながら景色を観察することができます。ジャングルジムの上で方向を変えて景色を見ることは、多視点でのものの見え方を体験するには、とても良い経験です。

土管のトンネルがある公園などもいいですね。中を行ったり来たりしてみる、くぐり抜けて反対側からお友達を見るなどすることで、見ている場所によって見え方が違うことを自然と理解できるからです。

家庭でのちょっとした助言が柔軟な思考力につながる

実は、第6回でご紹介した「量」の体験でも多面的なものの見方を身につけています。「大きい順に並べる」「小さい順に並べる」を理解すること、そして「○番目に大きい」は「○番目に小さい」と置き換えて考えられること。これらはまさに、1つの視点だけでなく別の視点に立って考えているのと同じことです。

多面的なものの見方は、日頃の生活の中で、お父さん、お母さんのちょっとした助言から学んでいくことができます。

「○○から見るとどう見えるかな?」「○○から数えるとどうなるかな?」と、1つの視点にこだわりがちな子どもに、ぜひ別の視点から見てみるように促してあげてください。さまざまな体験、気づきの積み重ねによって、多面的に捉える柔軟な思考力へとつながっていきます。そして、頭の柔らかいぐんぐん伸びる子どもへと成長していきます。

「右手」を意識させることで、「右手じゃないほう」がわかる

こぐま会での「左右関係」の授業風景。提供:こぐま会

――右・左を迷わず答えられるようになるよい方法はありますか?

左右の理解は大人からすれば簡単なことです。位置関係の学習の基本ですが、右手、左手をわかっているつもりでも、散歩中にいざ「左に曲がって」と言われたらとっさにどちらかわからなくなるお子さんはたくさんいます。

こぐま会での学習方法をお伝えしますと、まず右手に目印をつけて「目印がある方が右手ね」と教えます。そして、左手は「右手じゃない方」と教えます。これは根気強く続けることで、どんな状況でもさっと右・左が判断できるようになっていきます。

「それなら、うちでもやっている」と思われる方も多いと思いますが、重要なポイントは、「視点を変える」ことを理解させることです。「右手」「左手」を使った左右関係の理解は、まず自分の右・左の理解から始まりますが、問題は、向き合ったお母さんの右手が、自分から見ると左手の方にあるということに気づくかどうかです。向き合ったときに左右が逆になるということに気づくまでには、時間が必要ですが、その発展上に、反対から見たらどう見えるかといった「四方からの観察」の課題があるのです。

すべての学習で求められるのは、物事をあらゆる角度から考察する力

こぐま会では、「位置表象」という分野で「位置関係」「空間認識」を学習し、「自分の見ている世界がすべて」と思っている子どもの思考を打ち破っていきます。

これらは図形学習の土台となるものですが、「多面的に物事を見る力」は何も算数分野だけに求められる力ではありません。これからの時代、すべての学習で求められるのは、物事をあらゆる角度から考察することのできる「柔軟な思考力」だと考えています。

別の視点が持てる子は、人の気持ちが分かる子どもになる

――人の気持ちがわかる子は、なぜ柔軟な思考力があるのでしょうか?

「多面的に物事を見る力」は、何も「物事」に対してだけ発揮される力ではありません。自分の視点だけでなく別の視点に立って考える、ということは、他者の視点に立てるかどうかです。柔軟な考えができる子どもは、「他人の立場に立って」人間関係を築いていきます。

幼稚園や保育園で、自然と周りと協調できる子どもがいる一方で、自分の考えだけを押しつける子がいます。もちろん性格による部分もありますが、1つの視点にこだわらず多面的に捉えることができる子どもは、他者の意見を汲み取ったり尊重したりできます。

友達と衝突しながら子どもは色々なことを学んでいます。子ども自身が「他者の立場に立って」考えられるような声がけも大切です。

人の気持ちがわかる心を育むことは、柔軟な思考力を育むことと同じことだと思います。お子さんの社会性が成長すればするほど、多面的に考えられる柔らかい思考が育っていくものだと知っておいてください。

ぜひ、生活、遊びの中で、「柔軟な思考力」の根っこを身につけていっていただきたいと思います。

プロフィール:久野 泰可(くの やすよし) 

1948年、静岡県生まれ。横浜国立大学教育学科を卒業後、現代教育科学研究所に勤務し、1986年「こぐま会」代表に就任。常に幼児教育の現場に身を置き、その実践を通して幼児期に大切な「思考力」を育てるための独自のカリキュラム「KUNOメソッド」を確立。著書に『子どもが賢くなる75の方法』(幻冬舎)、『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』(集英社)など。こぐま会HP:https://www.kogumakai.co.jp/

「小学0年生の考える力 こぐま会・久野泰可室長」の記事一覧

小内三奈
小内三奈

ライター・インタビューアー。ビジネス・教育分野を中心に、新聞、雑誌、Webメディア等で執筆中。経営者や教育現場への取材の他、教育書・児童書の書評を執筆。その他、旅行、グルメ等幅広いジャンルに取り組む。好奇心旺盛でキラキラした子ども時代を過ごしてほしいと願い、「今、この瞬間」を大切に育児に励む2児の母。子どもの頃熱中したのはピアノ。4歳から高校1年まで続け、最後の演奏曲はショパンのノクターン。

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