「読書感想文は遊びの一種だ!」楽しく書くコツと6つの質問を作家の大竹稽さんに聞く
大竹稽さんが作文教室を開いている台東区の「金龍寺」で。
「読書感想文は遊びの一種だ!だから、楽しくなくっちゃ!」という作家で思想家の大竹稽さん(51)。都内のお寺で、子どもたちに作文と読書感想文の書き方のコツを教えています。毎年親子ともに頭を悩ませる夏休みの宿題、読書感想文。楽しく読書感想文に取り組むコツと、うまく書くための6つの質問を教えてもらいました。大竹さん流、読書感想文を遊びにする方法とは?
本を読んだら、わいわいとおしゃべりから始めよう
書くのは最後。本を読んで何を感じたかを話すことが大切です
――読書感想文を遊びにするってどういうことなのでしょうか?毎年、苦しんでやらなければならない夏休みの宿題で、遊びとは真逆のイメージですが……
書き始める前の準備を工夫することで楽しい遊びになります。本を読んだらまず、お母さんやお父さん、友だちと一緒に、「こんな話だったね」「なんで主人公はあんなこと言ったんだと思う?」「私はあの場面でこう思ったな」と、わいわいおしゃべりしてみましょう。子どもにとって楽しい時間のはず。楽しくなったら、それはもう遊びになります。
――つい、「要は何が言いたいの?」と聞いてしまいそうです(笑)
そうですよね。でも、お母さんは聞き役になってください。「どんな話だったの?」で始めて、子どもの話を聞くだけで構いません。話した内容は、お母さんがメモをとるか、ICレコーダーで録音をしてください。最初から子どもに書かせると苦痛になるので、楽しくなくなってしまいます。
――子どもは話すだけでいいんですか?
はい。話しながら子どもは,本の内容や自分が思ったことを整理していきます。お子さんが面白いことを言うのを、親も楽しんでほしいですね。子どもの意見を修正しない。「要はこんな話だったんじゃないの?」は、なしでいきましょう(笑)。
――余裕のあるお母さんじゃないとできないのでは?
構えなくてもいいんです。子どもの好きなおやつやケーキを用意して、自然に本についてのおしゃべりを楽しんでください。その時間をもつことが大切です。
子どもは親の気持ちを察知します。お母さんの「いいね」に合わせようとするので、聞く側もリラックスしてください。「どんな気持ちになった?」と、引きだしてあげると、どんどん話すようになりますよ。誰だって自分の考えを聞いてもらうのは嬉しいもの。子どもだってそうなのです。
書くための「6つの質問」
6つの質問は「こういうふうに考える」というヒントになる
――読書感想文を書くには、どんな質問をしたら良いのでしょうか。
子どもに感想を聞くための役に立つように、次の6つの質問を用意しました。
読書感想文をうまく書くための6つの質問
- あらすじ
- 注目したところ・「おもしろい!」と思ったところ
- テーマ
- じっくり考えてみたいこと(問題提起)
- 比べてみた体験、むかし話やぐう話
- 意見・答え
著書「読書感想文書き方ドリル2020」(ディスカバー・トゥエンティワン)より
――なぜ6つの質問なのですか?
私は、読書感想文を「とりあえず今をしのぐだけ」にしたくないのです。大人になっても使える文章の書き方を身につけてほしいので、考える視点を伝えたいと思っています。
――書く前に準備をしっかりするということですね。
料理と同じで、下ごしらえがしっかりできるとスムーズに書けます。読書感想文に苦手意識がある子たちはぜひやってみてください。
――あらすじを書いた方がいいのですか?
あらすじを書くのが私のこだわりです。個人的な感想で終わらせないためにも、読み手にあらすじを伝えるのが大切だと考えています。あらすじをまとめるのは、書き手として物語の抑揚を整理する作業になります。
一人でやると詰まってしまうので、遊びとして、おしゃべりをしながら進めていきましょう。「次にどんなことがあったの? お母さんに教えて」と言うと、子どもはあらすじをまとめやすいでしょう。
読書感想文は1人で書かない
大竹さんの講座でも、意見を出し合うときは大いに盛り上がります。
――感想文は一人で書くものだと思っていました。
一人でやるとしんどくなりますよね。そうなるとますます苦手意識が強くなる。そうではなく、みんなでやりましょう。
友達同士でやるときは、面白いと思ったところを5つ、6つ集めて発表し合いましょう。私がお寺で子どもたちとやるときは、「その場で出た意見は全部使っていい」ことにしています。他の子の感想にも「それ、いいね!」と共鳴し合うのです。人が良いと思ったところを自分もそう思うのは良いこと。ただし、「なぜ良いと思ったか」という理由は、オリジナルに。それが自分の意見になるのです。
一人で書かない。家族や友だちと遊びながら話す中で、書く道筋が見えてきます。
――一人でやると、ついテーマから考えてしまう気がします。
そうなんです。テーマから入ろうとすると、つまずくことが多いんです。でも、お母さんや仲間との対話で、あらすじと注目したところを話すうちに、目の付け所が変わってきます。すると、自然とテーマが見えてくるのです。
――あらすじを聞いた時点で、本の主要なテーマとポイントがずれていた場合は?
そのときは問いかけを変えます。「お母さんはこういうとこ、面白かったよ。あなたは?」と、お母さんの視点を提供してみてください。先にお母さんがさっと本に目を通しておくと話が進みますね。
――「なんでそこなの!?」というポイントに食いついた場合は?
実はよくあります(笑)。以前、アフリカの環境問題がテーマの本を選んだお子さんが、地球環境ではなく、「アフリカの女の子たちはどうしてそんな暗いところで作業をしているのか」に注目しました。人と違う所に注目するのは面白い。そのときは、いったん一つの作品として書かせてみるのもありです。書きたいことが一番良いので、意外に筆が進むことも。
――子どもがこだわっているところを優先したほうがいい?
子どもが面白いと思うポイントを大事にしたほうがいいです。子どものどんな着眼点でもマスターピース。例えば、リサイクルがテーマの本で、ビニールの組成がどうなるかを調べたいと言えば、インターネットや新聞で調べて、それをテーマに感想文を書いてしまいます。レポートにするんですね。周りの大人はすごいなと思うでしょうし、子どもの達成感も大きいはずです。
感想文に書ける体験を作ってしまう
「本のテーマのような体験があれば具体例として書くことができます」(大竹さん)
――子どもにお話と似たような体験がなくて、話がふくらまない場合はどうしたら良いでしょうか?
お母さんが先行して本を読んで、そのテーマに沿った体験をするのも良いですね。以前、電気がテーマの本を選んだ親子で、秩父のダムに行った方がいました。ダムの管理人さんに話を聞いて、名物のダムカレーを食べてきたと(笑)。感想文をきっかけに、夏休みのイベントをやってしまうのも面白いですね。
――自由研究のようですね(笑)
そうなんです。読書感想文には自由研究の要素があると思いますよ。イベントとして取り組むと、自由研究も一緒にできて一石二鳥ですね。
出かけた先で大人に話を聞くという経験はなかなかないので、夏休みの貴重な体験になるのではないでしょうか。
――エピソードを作るという発想は面白いですね。
感想文のために行くというと子どものテンションが下がるといけないので(笑)、お母さんが本に関連した体験コースを考えるのも面白いのではないでしょうか。コロナ禍の今は行動に制限がかかってしまうのですが、それでも、身近なところで体験できることがあるはずです。
考えることは楽しい
「親や友達とおしゃべりしながら感想文ができあがっていくのだから楽しいですよね」(大竹さん)
――しっかり準備をすれば、あとは書くだけですね。
これまで読書感想文が苦手だったという子は、いきなり書こうとして嫌になったパターンが多いもの。書くまでの下ごしらえが一番大切なのです。「本を読んだら書けるでしょ」とはなりません。
- ホップ=本を読む
- ステップ=考えを聞いてもらう
- ジャンプ=書く
1、2が出来ていれば、書くのは簡単です。「今日は読書感想文の日」と決めて、その一日はお母さん、お父さんも話を良く聞いて、イベントとして楽しんでください。
――だんだんとうまく書けるようになりますか?
なると思います。1、2年生の間はお母さんがつきっきりでも、3、4年生になったら内容が変わってきます。低学年から立派な感想文を求めないこと。話をする、考える、書く、の流れができればそれでいいのです。今年はあらすじがメインの感想文でも構いません。一生懸命考えて書き上げられれば、自信がつき、翌年につながるでしょう。
――子どもたちへメッセージをお願いします。
本が苦手な子は絵本でも昔話でもいいので読んでみましょう。両親が子どもの頃好きだった本を教えてもらうのもいいですね。
自分の考えを人に伝えて認めてもらえる。他の人の考えを聞く。どちらも子どもは楽しいのです。感想文はそれができる絶好の機会。話しながら、一緒に考えるのは楽しい。だから苦痛じゃないよと伝えたいですね。
【プロフィール:大竹稽(おおたけ・けい)さん】
1970年愛知県生まれ。思想家、作家。株式会社禅鯤館 代表取締役。産経子供ニュース編集顧問。旭丘高校から東京大学理科三類に進学、中退。再び東大に入学し、フランス思想を研究。都内のお寺で禅の教室、作文教室、読書感想文教室などを開いている。著書に「読書感想文書き方ドリル2020』など。
写真撮影:篠田英美

1977年生まれ。愛媛県出身。旧姓、井上。都内の学習塾に勤務した後、結婚、出産を経てフリーライターに。教育を専門に学びたいと、中学生と小学生の息子を育てながら都内女子大の修士課程を修了。大人になっても「学びは楽しい」と実感する。海と山に囲まれて育ち、虫が全然怖くない。子どもの頃は自然の中で遊ぶのに夢中で、得意だったのは押し花と走ること。