親子で一緒に読書感想文を書いてみました!本が嫌いな子でも楽しく書けるコツとは?
夏休みの読書感想文の書き方について、「みらのび」ではこれまで、ショートショート作家の田丸雅智さん、作家で思想家の大竹稽さんにインタビューしました。2人に共通していたのは、「書く前にまず、親子で読んだ本について話をしよう」ということ。でもそれって、大変? そこで、小学4年生の新井春樹くん(仮名)、穂香さん(仮名)に、2人のアドバイスを参考にして、読書感想文体験をしてもらいました。本を読むのも感想文を書くのも苦手という春樹くん。さあ、楽しく感想文を書くことができるでしょうか。
〈今日のポイント〉
- 子ども自身に好きな本を選ばせる
- 読んだらすぐに、親子でおしゃべり会。おやつも一緒に楽しんで
- 質問は具体的に。大きなテーマは答えにくい
- 答えはメモに
- メモを構成して、下書き
- 気分転換後、一気に清書
子どもが好きな本を自分で選ぶ
2021年7月10日(土)、穂香さんと春樹くんは読書感想文の本を選びに駅前の本屋さんへ行きました。課題図書のコーナーに連れて行き、「読みたいのある?」。
ところが春樹くん、NHK のEテレで普段から観ている「おしりたんてい」を立ち読みし始めて、その場を動こうとしません。「春樹、こっちのコーナーから選んでみたら」。穂香さんが何冊か薦めてみるものの、「うーん」。気が乗らないようです。でも、親の考えを押しつけないように気をつけます。
「あ、虫の本だ」。
カブトムシとクワガタが好きな春樹くんがようやく手に取ったのは『ぼくらのなぞ虫大研究』(あかね書房)。あらすじを読むと、登場人物の厚志くんは春樹くんと同じ帰国子女だそう。春樹くんは、父親の仕事の関係で海外に約2年間住んでいました。興味を持ち、この本に決めました。「カブトムシが好きだから」。
「決まらなかったら、お昼を食べた後にまたここに戻ってこなきゃいけないんだよ」という母の一言も春樹くんの頭をよぎったのかも知れません。
「早くおいしいものを食べたかったから、決められたのかも知れませんね(笑)」と穂香さん。
子どもに質問する前に、親も本を読む
なかなか本を読み始めない春樹くん。1週間後の7月18日日曜日、「今日は読まなきゃだめよ」と穂香さんが声をかけます。
全部で167ページ。午前中には、3分の1しか読めませんでした。それまで本を読むことがあまりなかったので、読む気になるまでが大変です。ソファーに寝転がって読むのではなく、きちんと机に向かって座り、「本を読むぞ」と気合を入れます。読みだしたらだんだん調子に乗り始めて、午後には3分の2まで読み、翌日の下校後、最後まで読み終えました。
「エンジンがかかるのが遅いので(笑)。読み始めるまでが一番、腰が重かったですね」。
穂香さんは本を買った翌週、家事の合間を縫って合計2時間くらいで読み終えたそう。「虫について書かれている本だと思ったら、子どもの性格や人間関係などわりと深いテーマが盛り込まれていました。いい本を選んだと思います」。
質問は具体的に。テーマを聞いても答えられない
本を読んだ感想を親子で話しあうと、新たな発見があります。
「読み終わったよ」と春樹くんが声をかけると、そのままインタビューへ。テーブルにジュースを用意して、お母さんとたつみくんのおしゃべりという名の読書会が始まりました。
「読んだばっかりだからよくわからない」という春樹くんのテンションの低さが気になる穂香さん。
穂香さん:「面白かったところは?」
春樹くん:「え?」
穂香さん:「厚志は春樹みたいにアメリカから帰ってきたよね」
春樹くん:「アメリカからだっけ?」
穂香さん:「かおりは?」
春樹くん:「……」
穂香さん:「この本のテーマはなんだと思う?」
春樹くん:「わかんない」
穂香さん:「この本で春樹が考えてみたいことってある?」
春樹くん:「ない」
困り果てた穂香さんは、質問をもっと具体的なことに変えてみました。
「好きな登場人物は?」「春樹は誰に一番近いと思う?」の問いかけには「しょうた!」と元気よく答えましたが、その後も沈黙が続き、15分経った頃いったん終了。週末に改めて時間をとることに。
答えはメモに!たくさんたまると書きやすい
30分くらいでメモがどんどん増えていきました。
メモは親が書き取る。子どもに書かせると苦痛に
7月24日土曜日、今度はチョコレートも用意して、ジュースを飲みながら、インタビューの再開です。穂香さんは具体的な出来事や主人公のセリフを選んで、「ここはどうだった?」「厚志とかおりのどっちの意見に賛成?」と質問することに。自分の考えを聞かれることが楽しくなってきた春樹くん、少しずつ答えが出てきます。
春樹くんの考えたことを穂香さんがメモに書き、あらすじにそって並べていきます。
「ここでメモを春樹に取らせていたら嫌になっていたかも知れません」。
春樹くんは具体的にポイントを絞って聞かれたので、しゃべることに集中できました。穂香さんのメモはたまり、おかげで書くネタが集まってきました。
下書きは雑な字でOK!書ければ、清書はあっという間に完成
原稿用紙に向かう前に、書く内容はメモにまとまっている状態を作ります。
メモをもとに下書きをします。原稿用紙に書き始めた時は「なんて書けばいい?」と聞いていた春樹くん。「メモに沿って書いていこうね」。1枚目が終わって「こんなんで3枚書けないよ」。と弱音がこぼれます。「まだここにメモが5枚あるから、これを書いていけば3枚いくから」と穂香さんに励まされて再開。
原稿用紙1枚につき5~10分の休憩をはさみながら、ゴールが見えた3枚目になると一気に書き上げることができました。これで、下書きの完成です。
「終わった~。ゲームしていい?」。
春樹君がゲームをしている間、穂香さんは下書きの原稿用紙に赤字を入れます。その下書きを見ながら、清書は下書きの半分の時間、40分で完成しました。
「見守っていて、すごく疲れました」と穂香さんは苦笑。でも、終わってホッとした様子です。
春樹くんに「なんて書いたらいい?」と聞かれるたびに「自分で考えて」と言いたいのを押さえて、あらすじに沿って質問をして、考えを引き出しました。
春樹くんは、「いままでで一番楽しく書けた!」と満足そうです。
楽しく書けた満足感は、本が好きになるきっかけに
いままでよりも、長くて充実した読書感想文を仕上げることができました!
今回、初めて原稿用紙3枚も書くことができました。メモ作戦は、少しずつ書きためていくので、前後を入れ替えたり、必要でないことは使わなかったりと、自由がきくのでうまく構成できました。
これまでは親が読書感想文の本を選んでいました。今年は初めて春樹くんが本を選んだことで、〝ぼくは、お父さんとお母さんと本屋に行って、この本を選びました。なぜなら、本の題名が虫の話でおもしろそうだったからです。″と本を読む動機から書き始めることができました。
読書にも興味が出てきたようです。今までは「いらない」と言ってきた学校の課題図書を、初めて2冊申し込んで買いました。その中の1冊、『神様のパッチワーク』について、「どんな話だと思う?」と親子で話して、読む前から楽しみにしているそうです。
大変だったけど、本を好きになるきっかけになりました。
来年の読書感想文はきっともっと楽しく書けるでしょう。
穂香さんの話
もともと本が好きではないし、作文も苦手なのでどうなることかと思っていました。取りかかりに時間がかかりましたが、やりだしたら早かったです。本について親子で対話することでお互いの理解が深まったような気がします。本に興味が出てきたようなので、これからも読書に親しんでほしいですね。
撮影:篠田英美

1977年生まれ。愛媛県出身。旧姓、井上。都内の学習塾に勤務した後、結婚、出産を経てフリーライターに。教育を専門に学びたいと、中学生と小学生の息子を育てながら都内女子大の修士課程を修了。大人になっても「学びは楽しい」と実感する。海と山に囲まれて育ち、虫が全然怖くない。子どもの頃は自然の中で遊ぶのに夢中で、得意だったのは押し花と走ること。