2021.10.08
習い事最前線 八田吏

「好き」なことで先生に 「子どもが教える学校」で身につくプレゼンテーション力

子どもたちが「先生」となって、大人に「教える」というオンラインの学校があるのをご存知ですか?「子どもなのに先生役」という非日常を楽しみながら、プレゼンテーションの基礎をふまえた自己表現体験 ができる。好きなことから探究心を深められる。そんな「子どもが教える学校」の魅力をレポートします 。

子ども先生が大人に教える「学校」とは?

「子どもが教える学校」は、小中学生が「子ども先生」になり、大人が生徒として学ぶ「授業」をつくるワークショップです。すべてオンラインで行う全5回のプログラム。子どもたちが4回かけて探究を深め、最後にはたくさんの大人の前で授業をします。自分の伝えたいことを、プレゼンテーションソフトやスケッチブックを使って分かりやすく説明資料にまとめ、3分間の授業をします。

2020年春のコロナ禍の休校期間中に、「のびのびと過ごしながらも、学びがある場をつくりたい」という、ひとりのお母さんの思いをきっかけに始まりました。

授業の内容は、子どもたち自身が伝えてみたいことならば何でもOK。自分が夢中になっている趣味や遊びのこと、興味をもっている自然科学や社会について、大人に対する意見など内容は様々です。

2021年5月期の子どもたちが取り組んだテーマ。発表方法はPCを使っても手書きでも、好きな形を選べます。聞き手をひきつけるタイトルを工夫した子も。

問いかけで「伝えたいこと」を深める

2021年5月に行われたプロジェクトに参加したのは、小学生から中学生までの5人。えいたくんは最年少で参加した8歳です。大好きなスケートボードのことを伝えようと考えていました。

2回目のワークショップは、「伝えたいこと」を深めていく内容です。

「なぜスケートボードのことを伝えたいの?」

「子どもが教える学校」主宰の鈴木深雪さんの問いかけに、「スケボーは楽しいから!」と元気よく答えるえいたくん。
「楽しいよ、と伝えようと思ったんだね。それはどうして?」とさらに問いかけられ、「スケボーは危険とか、転んだりすると痛いと思われているけれど、実はけっこう楽しいものだって知って欲しい」「特に知って欲しいのは、技のこと!」と、考えながら言葉をつないでいきます。

最初はシンプルだったえいたくんの思いが、鈴木さんの問いかけによって、どんどん詳しく、熱のこもった言葉になっていきます。最後の方で、鈴木さんからこんな質問が飛んできました。

「他にもたくさんスポーツがあるでしょう。その中でえいたくんがスケートボードをやっているのはなぜ?」

これはなかなか難しい質問です。予想外だったのか、えいたくんも戸惑った様子。少し考えてから、 スケートボードを始めたきっかけや、だんだん上手になっていくにつれて楽しくなってきたことを話してくれました。 

オンラインでワークショップを受けるえいたくん

 「よくあきらめなかったね。怖いし痛いし、途中でやめたくならなかった?よく続けたねえ」(鈴木さん)
「スケートボードはいろんな技があってかっこいいから、できるようになりたいと思った」 (えいたくん)
「そうか、最初はできなかったけど、かっこいいからやってみようと思って続けたんだね」 (鈴木さん)
「そう!」納得した様子でうなずくえいたくん。

鈴木さんに聞かれて「そういえば、なぜだろう?」と考え始めます。言葉にすることで、「好き」に対する探求がぐっと深まります。スケボーのどんなところが、なぜ、どんなふうに好きなのか …。「伝えたいこと」の材料をたくさん持って、本番授業に向けての「伝える準備」が整っていきます。

「伝えたいこと」を順番に並び替えて工夫する

「伝えたいこと」の材料が集まったら、次は「伝え方」の学習に入ります。本番の授業で使う「資料づくり」を通して、伝え方を学びます。

えいたくんは、自分の話したいことをふせんに書き出していました。スケートボードのパーツや技のこと、楽しさなど伝えたいことが広がっています。

伝えたいことを全部書き出してから、順番を考える

 「最初に言いたいことをぜんぶ書いてみたんだ」
「そしてね、教えてもらった『伝わる順番』をヒントに、話す順番に並び替えてみたの!」 と、えいたくん。ふせんを使う工夫に鈴木先生も感心しています。

えいたくんの仲間たちも、それぞれ話したいことをふせんや資料にまとめていました。もう本番のプ レゼンテーションの形ができている子もいれば、スケッチブックにたくさん書きながらも、「ネタバレになっちゃうからなあ」と見せたがらない子も。

2回かけて「何を伝えたいか」を考えてきた子どもたち。伝えることへの意欲がぐっと高まってきて います。しかし、いざ実際に話し始めると、すぐに詰まってしまい、「あれ〜?分からなくなっちゃった 」と戸惑う様子も見られます。

そう、思いだけではなかなか伝わらないのが「伝えること」の難しさ。聞き手にわかってもらうには 工夫が必要です。鈴木さんが子どもたちに繰り返し伝えていたのは2つのこと。

「話したいことを資料にするときは、紙芝居みたいにたくさんのページに分けていこう。」
「紙芝居にするとしたら、1つめはどんな内容が来たらいいだろう?2つめでは何を伝える ?」

そんなふうに投げかけて、「内容を区切る」「伝えたい順番に並べ替える」という構成に関わる「 技術」を子どもたちに教えていきます。

「伝えたいことを新しく思いついたり、逆に、言いたかったことが分からなくなったりもするでしょう。でもこれは、いい悩み。ひとつひとつクリアするほど、相手に良く伝わるはずです」(鈴木さん)

資料の下書きが固まったところでワークショップは終了。次回はもう、本番の発表です。

ここからは、子どもたちがひとりで完成に向けて頑張る時間。相談はできますが、鈴木さんの方から新たな課題を出したり、声をかけたりはしません。また保護者にも、手伝ったり声をかけたりしないようにお願いしています。それはなぜなのでしょうか。

「大人からするとじれったくなって、つい手を出したくなってしまうのもよくわかります。でも、ここでぐっとこらえてほしい。自分がやるしかない状況に追い込まれた時、子どもは見たこともないような力を発揮します。そして何より、本番で発表するのは大人ではなく、子ども達です。だからこそ、信じて見守るんです」(鈴木さん)

スライドも動画も手作り。好きなことの魅力で心を動かす

さて5回目、「子どもが教える学校」の発表当日です。「子どもたちの発表を聞いてみたい」と50名 近くの大人たちが画面越しに集まりました。

5人の子どもたちが発表するテーマは、「スケートボード」「ゲーム・Minecraft」「ゲームブック」 「料理」「乗馬」。5週間を通じて「なぜ好きなのか」「魅力」「なぜ、自分はそれについて語りたいのか」を突き詰めた成果を、3分間の授業で伝えます。


乗馬に関する写真スライドを作った子どもも

 子どもたちはどことなく緊張した面持ちです。うまく発表できるだろうか、面白いと思ってもらえるだろうか・・・きっと、いろいろなことが頭の中をよぎっているのでしょう。

本番が始まりました。えいたくんはトップバッター。3分間1本勝負の授業が始まります。
「スケボーはどんなスポーツなのか、怖いし痛いと思っている人もいるかもしれません。確かに怖いけど、達成感もあって楽しい。ぼくも最初はスケボーに乗ることができませんでした。でも乗れると嬉しいし楽しいので、みんなにスケボーを紹介します」(えいたくん)

スケートボードの構造やデザインについて、各パーツの紹介、カスタマイズの魅力について、次々に スライドを見せながら話していきます。「いまから始めるなら、お店で初心者用のものを買うといいです」 という実感がこもった言葉には、やってみたい気持ちをそそられます。


自分のスケボーを見せて、魅力をプレゼンするえいたくん


 スケートボードの技については、えいたくん自身のプレイを動画で紹介。チャットには、「 すごい!」「かっこいい!」「はじめてみたい!」とコメントが飛び交います。

最後に「楽しいので、ぜひやってみてください」と力強く伝えて、発表は終わりました。チャット上には、「やってみます!」「オリンピックで見てみます!」と、たくさんの反応が返ってきていました。

 聞く人の心を動かし、「見てみたい」「やってみたい」という気持ちに火をつけたえいたくんの授業は、大成功でした。

自分の言葉で伝えると、内側から自信があふれる

子どもが教える学校は9月で10期を迎えました。公立小でもプログラムは採用され、これまでに誕生し た「子ども先生」は170人。授業に参加した大人ものべ1800人を超えます。

鈴木さんがこの取り組みを始めた背景には、小学生の息子さんへの思いがありました。
「小学生になる息子を学童保育に預けていました。学童は、働く親としては最高にありがたい環境なのですが、ある日ふと、『もし、何の制約もなしに彼の居場所を選ぶとしたら、どんな居場所がいいだろう?息子自身はどんな環境を望むだろう?』と思ったんです」

2020年春のコロナ禍が、鈴木さんの思いが具体化する大きなきっかけになりました。学校の授業がなくなった自由な時間に、子どもは何をしたらいいのだろうか。

いつもは学校の先生の話を「聞く」立場の子どもたちが、大勢の大人たちへ「話す」側に回るのは面白いかも。企画やプレゼンテーションを仕事にしてきた自分が伝えられることがある。

子どもが好きなことをプレゼンする「子どもが教える学校」を開催してみたら、大きな反響がありました。自分の好きなことや考えを語ることで、多くの人に影響を与えることができる。その体験をした子 どもは、内側から自信があふれ出します。

親は見守りに徹する

「とはいえ、実際に息子を誘ってみたら、『ふーん』と言うだけで今のところ参加する気配はありません(笑)。参加しているみんなの様子を横目で見てはいるので、いつか手を挙げてくれる時を、ぐっとこらえて待っています」と鈴木さん。「親として優等生ではないんです」と笑いますが、子どものやる気が着火するのを気長に待つことが大切なのだと感じます。

「好きなことや興味関心は、その子自身の熱源とつながっています。自分の『好き』を表現することで、その子自身が自分の中にある熱源に気づくことが一番のねらいです
そのためには、大人は見守りに徹すること。
「きれいにまとまらなくても、自分の中から出た言葉で言い切ることで、その子の持つ熱源が伝わる表現になります。そうなった時の子どものパワーはすごくて、いつも惚れ惚れしてしまいます」 (鈴木さん)

1ヶ月かけて仲間や先生と「好き」を探求し、子どもたちは自分の言葉を次々に発見していきます。 「正解」「不正解」がないのも、この「学校」の良いところ。

子どもたちが生きていく時代は、正解も答えもない問いに向き合うことが求められています。合っているかどうか」にとらわれることなく自分の言葉で精いっぱい表現する体験は、子どもの内面に自信と、「伝えたい」という意欲を育むはずです。

【プロフィール・鈴木深雪(すずき・みゆき)】

「子どもが教える学校」校長。2001年大日本印刷(株)入社。商品企画部門で多様な業界数百社へ のプレゼンや教育事業を経験。16年間在籍して独立。経営者向けの思考整理・プレゼン資料制作事業をスタート。「子ども が教える学校」を自宅から発信し続けた活動は、NHKや東京新聞などに取り上げられる。この 独自の学習プログラムは、プレゼン力の向上や自己探求にもつながると評価され、公立小でも採用。初の著書「10歳から知っておきたい魔法の伝え方」(日本能率境界)が10月23日に発売。小3男子の母。

子どもが教える学校・公式サイト

八田吏
八田吏

ライター mugichocolate株式会社 元中学校国語教師。NPO法人にて冊子の執筆編集に携わったことをきっかけにライター、編集者として活動開始。幼い頃から無類の本好きで、小学2年で夏目漱石にはまる、やや渋好みの子どもでした。今でも、暇さえあれば本屋巡りをするのを楽しみにしています。

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