2021.11.09
学びをはぐくむ 石田勝紀

第13回 教育虐待はなぜ起きるのか 判定と3つの対応策 教育専門家・石田勝紀さん

教育虐待という言葉があります。近年、中学受験をする親に見られる特徴であると専門家達が警鐘を鳴らしています。親の子に対する「あなたのためよ」という呪いの言葉によって、もはや自分が理性を失い、暴走していることに気づかないというケースもあります。なぜ、教育虐待は起きてしまうのでしょうか。教育虐待傾向にあるか否かは、子ども視点で教育するのか、それとも親視点で教育するのかにあると考えられます。3つの対応策もお伝えします。

子どもが受け入れできるレベルを超えて勉強させる「教育虐待」も増加

最近、虐待という言葉を目にする機会が増えてきた印象があるのではないでしょうか。事実、厚生労働省の調査によると、児童相談所が対応した「18歳未満の子どもへの虐待」は30年連続で増加しており、2020年度は20万件を超え、過去最高となっています。30年連続で上昇していることから、厚生労働省は新型コロナの影響との関係は見られないとのことですが、昨年は大規模な一斉休校などがあり、児童相談所が対応していない隠れた問題があると予測する専門家もいます。いずれにせよ、子どもの数が減少している少子化の中での虐待件数増加ですから、実際はかなりの増加率と考えられます。

これは身体的、心理的虐待全般ですが、そこから「教育虐待」という言葉が出てきました。教育虐待とは、子どもが受け入れできるレベルを超えて勉強させることであると言われています。そして近年、教育虐待も増加していると専門家達は警鐘を鳴らしています。

特に、中学受験において、その傾向があると言われています。事実、中学受験を通じて、子どもとの関係悪化、子どもが勉強嫌いになるという話は枚挙にいとまありません。

筆者が指導してきた子どもたちの多くは公立小学校、公立中学校に通う生徒がほとんどであったため、中学受験で悲劇的な目に遭った子どもとの出会いはありませんでした。しかし、親向けの相談を受けるようになった5年前から、中学受験に関する相談件数が年々増え、中には、教育虐待一歩手前という状態のケースもありました。中学受験となると、子どもに対して理性を失ってしまう親御さんがいることは確かです。

本来は、受験前の段階で、中学受験に向く子なのかどうかを判断する必要があります。なぜなら、中学受験の勉強が始まった後では、後戻りすることは心理的に容易ではなく、親自身が感情のコントロールが難しくなることもあるからです。

子どもは早咲きと遅咲きタイプに分かれる

ではどのように判断すればいいでしょうか。筆者は2つのタイプについてお話をしています。

1つ目は、中学受験に向く子のタイプで「早咲きタイプ」と呼んでいます。早咲きタイプの特徴は、小学校の勉強が簡単すぎてバカバカしいと感じます。また同年齢の子どもたちが稚すぎて話が合わないという特徴もあります。また、小さいときから、哲学的質問、抽象的質問(「人は何のために生まれてくるの?」など)をしてくる傾向にもあります。このような子は、中学受験の勉強を通じて高度な学びを得ることができ、逆に活き活きする場合があります。(もちろん早咲きタイプでも公立中学に進学する子もいます。このような子は公立高校ではトップ校に進学する傾向にあります。)

一方、2つ目の公立路線の子のタイプを「遅咲きタイプ」と呼んでいます。 どちらかと言うと遅咲きタイプの子どもの数の方が圧倒的に多いと感じています。小学校時代は学校の勉強をそれなりに学習していきます。その後、公立中学校に進むにしたが、年齢相応に精神年齢も上がってくることで学びに対する意欲も徐々に上がってきます。このタイプは高校受験型です。(遅咲きタイプでも中学受験はもちろん可能ですが、偏差値で選択するのではなく、その場合は子どもに合うか合わないかで選択するといいでしょう。)

最終的に早咲きタイプも、遅咲きタイプも大学では合流する場合が少なくありません。ルートは異なるけれども目的地は一緒というケースも多々あるわけです。しかし、このようなことを知らず、「ママ友など周囲から受けるプレッシャー」「親が高学歴によるプライドを子どもへ転化」「親の学歴コンプレックスからくる子どもへの過剰な期待」などから、遅咲きタイプなのに中学受験を急ぎ、詰め込みの勉強をやらせ、結果として勉強が嫌いを作り出し、子どもの人生を狂わせてしまうケースもあるのです。これらが教育虐待につながる可能性を秘めているのだろうと筆者は考えています。

親の理想に近づけるのか、子ども視点で行動するのか

 では、この問題の原点は何でしょうか。

それは親視点で行動するか、子ども視点で行動するかの違いであると思っています。親視点で行動すると、親の理想に近づけようとします。親の理想通りにはいかないときには、無理矢理でもその方向へ持っていこうとします。子どもが反抗できる場合はよいですが、反抗できない場合、心身のいずれかに問題が起こります。その問題が大きくなってから親がようやく気づくこともあります。

しかし、子ども視点、つまりこの子はどのような性格で、どのような能力をもっていて、どのような長所があるのかという子ども視点で育てていくと、伸び伸びと子どもは成長していきます。親の理想で行動しているのではなく、子どもの持っている“種”に「水」を与え、「光」を当てていくことをしているわけです。すると子どもは自分の力で行動し、考えることができるようになります。しかし、親視点で子どもを育てていくと、与えられることに慣れてしまい、自分から行動できなくなります。実際、最近の難関中学校の生徒にはその傾向が強く出ていると現場の先生が語っています。

親がやりすぎ、理性を失い暴走しないためにも、親視点ではなく、子ども視点でみるようにする必要があります。その上で、子どもは早咲きなのか、遅咲きなのか、そのタイプに合わせていけばよいと思います。

以上のことは中学受験のみならず、習い事に関して起こることもあります。嫌がっているのに無理矢理やらせることや、練習しないと叱責し続けたり、ひどい場合には手をあげたりするなど暴力行為をする親もいます。

このようなときに決まって出てくる言葉が「あなたのためよ」という呪いの言葉だそうです(ルポ「教育虐待」おおたとしまさ著より)。この言葉ほど、強烈な呪いの言葉はありません。

本来の子どもの持っている長所とは何か、子どもの中での一番高い能力は何か、子どもの性格はどのようなものか、それに合わせて段階的に育ていくことが教育です。決して、親の理想に育て上げることが教育ではないということを理解できれば、子育ては苦しいものではなく、ラクではないものの楽しい思い出として残るということを、これまで1万人以上の保護者に会ってきた中で感じています。

教育虐待かどうかの判定と3つの対応策

 そこで、教育虐待であるのかどうか、その判定と対応策について3つに分けて解説してみます。

(1)問題が表面的で深くないケース

この段階が、一番数が多いレベルになります。このケースでは、中学受験塾の宿題やテスト勉強を十分やらないということで、親が管理しているものの、それがこなしきれない状態になると、親が子どもに叱責するというケースです。

この場合の解決策としては

  • 親と子は別人格であるという認識 → 子どもにあったやり方で進める
  • 作用・反作用の法則を知る → 言えば言うだけやらなくなる力学
  • 短所是正ではなく、子どもの長所を引き上げる → 伸びる部分から伸ばす
  • 親は自分の心を満たすことにわずかでも時間を割く → 親の自己肯定感を上げる などです。 

つまり「子どもへの対応方法」「親のストレス対処法」などを知り、解決へと向かわせていきます。

(2)問題が一段深いケース

上記の内容でも子どもへの対応が難しい場合、内省していくことが必要です。親の心理的問題が潜んでいることが少なくないからです。

つまり、方法やアプローチを知るというレベルでは対応できず、さらに内面の問題を解決しなければならず、親の心理的リハビリが必要になるレベルです。

例えば、親が自分の育ちを振り返り、過去の何が自分に影響を与えているのかを考察することや、自分の親がまだ頭の中に“存在”し、その価値観で自分を縛っていることを認識するなどです。教育虐待をする親の特徴として、高学歴者か学歴コンプレックスを持っている人にその傾向があると専門家は言っています。(高学歴者か学歴コンプレックスのある人が教育虐待をするという意味ではありません)

根拠なき「こうでなければならない」という考えに縛られているとしたら、一旦、原点に戻り、自分の子どもの人生を親のこうでなければならないで進めていいのか考える必要があるでしょう。

(3)問題が最も深いケース

上記の(2)でも全く解決方向に進まない場合は、深いレベルに原因がある可能性があります。もはや自分の力では解決できないレベルにきています。

この段階では、早期に専門家の先生の相談することをお勧めしています。筆者のところにもこの段階の方の相談があります。数は多くありませんが、年何件かあります。その際、必ず専門家の先生を紹介しています。その方が、解決が早いからです。

多くの方は、教育虐待のレベルには至りません。しかし、中学受験という特殊な環境下では、その傾向が出やすいことは確かです。その場合でも、(1)の水準が大半でしょう。ですから、軽い段階でケアしておけば、深刻なレベルには発展はしません。

以上、「子どもの視点で見る」「親が苦しい段階になっているときは一度、自分の言動を振り返る」という2つの点を持っておくことが大切であると考えています。

「ぐんぐん伸びる子の育て方 教育専門家・石田勝紀さん」の記事一覧

石田勝紀
石田勝紀

(一社)教育デザインラボ代表理事、都留文科大学特任教授。20歳で起業し塾を創業。現在はMama Café、講演、連載記事を通じて全国の保護者への教育活動を行っている。『子どもの自己肯定感を高める10の魔法のことば』他多数。子どもの頃の習い事は「書道」。今でも筆で書いたり、活字への関心に繋がっています。

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