2022.01.12
学びをはぐくむ 曽田照子

「中学受験を教育虐待にしないために」前編 こんな親はハマりやすい 教育虐待のワナ

中学受験に早くから取り組むご家庭が増えています。教育熱心なのは良いことですが、昨今、熱心なあまり「教育虐待」に陥ってしまう親が少なくありません。教育虐待とは成績や受験に過度にこだわり、子どもを心理的に追い詰めてしまう虐待の一種です。教育家の小川大介先生に「中学受験を教育虐待にしないために」というテーマでお話をうかがいました。2回に分けてお届けします。

前編:こんな親はハマりやすい 教育虐待のワナ

後編:難関中学合格のために、勉強よりも大切なこと

中学受験を教育虐待にしないためのPOINT

  1. 中学受験は、どんな親でも迷走する
  2. 「はず」を言わない
  3. 「今、うちの子はどんな状態か」を意識する

「自分は大丈夫」が一番危ない

――子どもの勉強のことでつい感情的に怒ってしまうことがありますが、どんな親が教育虐待をしてしまうのでしょうか?

「こんな親御さんが教育虐待をしやすい」という分かりやすい典型例はありません。強いて言えば「自分は大丈夫」と思っている親御さんが一番危ないんですよ。
中学受験に関しては、どんなに理性的で、メンタルコントロールしてきたつもりの親御さんでも迷走する、という事実をまず知っておいてください。

小学低学年から準備が始まり、4年生で塾……受験するのがまだまだ幼い小学生なので、親は子どもを守りながらのスタートです。
高校、大学受験は本人の意思が強く働きますから、親としても「本人次第」といい意味で諦めることができます。しかし中学受験は親の手助けが欠かせませんから、親にとって「自分ごと」の意識が強く働きます。

だから、中学受験の親には理屈では測れない感情がつきまといます。
感情のまま子どもを怒ったり、異常に勉強させたり、荒れ狂ったり……後で振り返ると、支離滅裂、自分が自分でないようなことをしてしまう。誰でもそうなってしまう可能性があります。

でも、乱れたからといって、親としてダメだということではありません。根っこにあるのは「子どもにうまくいって欲しい」「助けたい」という強い愛情なのですから。

親の自信のなさが虐待につながる

――誰でも教育虐待の可能性はあるとしたら、踏みとどまる親と追い詰めてしまう親の違いはどこですか?

子どもを追い詰めてしまう親御さんには、ある特徴があります。
それは「自信がない」ということです。

自信がないと人は不安になり、ひたすら不安を埋め続けようとしてしまいます。
不安を埋めるにはどうしたらいいのか。受験においては成績、合格点を取ることが一番分かりやすい「安心」ですね。
そこで子どもに勉強をさせ、点数を取らせようとする。
でも、合格か否かは結果論ですから、いくら勉強をさせても不安が消えません。
もっと点を取らなければ、勉強をやらせなければ、もっともっと……と、子どもを追い立てる。親が自分自身の不安を埋めるため、子どもを追い詰めるのが、教育虐待がおきてしまう理由です。

子どもを追い詰めてしまう親は、「こんな状態はおかしい」と気づいても立ち止まれないくらい、不安で恐いんです。

――中学受験の膨大な勉強量そのものは虐待ではない、ということですか?

あんな膨大な勉強量、全てをやらせたら虐待に決まっているじゃないですか(笑)。
どの大手塾の先生も「うちの宿題全部なんてできないですからね」と言います。
これまで受験してきた親御さんたちも「100%終わらせるなんてありえない」と知っています。

理屈上はやらせたくても、睡眠をゼロにしないと無理だ、って気づいた瞬間に、まともな、最低限の感情が残っている親は「無理だよね」って言えるんです。
怖いのは、その当たり前の判断ができなくなる状態です。

やらせすぎになってしまうのは自分が不安になっているから、と分かれば、子どもに矛先を向けてしまうのではなく、一旦落ち着いて状況を整理しようという意識も使えるようになります。
子どもを追い詰めてしまいそうだと思ったら「自分は不安で追い詰められている」「周囲の大人に助けてもらう必要がある」と気づいてください。

成績が絶対上がらないキーワード

――不安になってしまうことは、誰にでもあると思いますが、どうしたら良いでしょうか?

自分の不安を埋めたいモードになっているときのキーワードが「はず」です。
「前にやったから覚えているはずでしょ」「正答率80%だから正解できるはず」「やればできるはず」など、「~のはず」という言葉は、「こうなるはずなのに、あなたは違う、おかしい」と言っているのと同じです。

この「はず」が出てくると、「できていないところを今すぐ詰め込まなきゃ」って、子どもの心の動きを無視した押し付けになる。
だから親御さんの口から「はず」が頻繁に出てくるようになると、成績が上がらないんですよ。

中学受験は絶対に予定通りにはいきません。
子どもが毎週毎週コンスタントに勉強し続ける、なんてことはありえません。必ずどこかでつまずき、思うようにいかない時期があるものだということは知っておいていただきたいですね。

しかし「他の子は毎日勉強を続けているはず」と思ってしまう人は、勉強に取り組めない日が発生すると、「これはイレギュラーだからすぐ埋めなきゃ」と無理をするんですよ。でも「明日、今日の分とあわせて2倍やれ」って言ってもできるわけない。

「そんなに予定通りいかないよね、その割にはよくがんばってるなあ」というスタンスで見ていれば、間が空いても「やっぱりそんな日もあるよね」と思いながら対応できるんですよ。
1日2日つまずいても「今度の祝日使って補えばいいから」とか「週末パパが時間を空けるから一緒にやろうか」とか言えるんです。

「~のはず」を言わない親御さんは、子どもと話すときに、「あなた的にどうなの?」という視点でいます。
「ほかの子がどうなのかは分かったけど、あなたとしては、どこが難しい?」と目の前にいるその子の状況に合わせて手だてを考える。

「はず」と言わなくなったら、受験生の親としてはいい状態です。子どもも成績が上がりやすくなります。

「わが子を理解すること」に全力を

――「はず」で子どもを追い詰めないためには、親に何ができるでしょうか?

「今、うちの子はどんな状態か」を意識することです。
今のこの子のために何が良いか、を考える。私に何ができるかを考えるのは二の次です。

といっても、子どもに長時間べったりくっつくということではありません。
例えば、共働きのご家庭だったら、帰宅して一言目に「宿題やったの?」ではなく、まず「今日はどんな気分?」と子どもに聞くことから会話を始めるんですね。
「体調どう?」「何か困ってることない?」と、子どもの心を聞いて、それから「今日中に終わらせる宿題には何があるの?」とメニューの話に移るんです。

まず心があって、それからTo-Do。ハートが先。マインドが先。話す順番を変えるだけですが、こういった日々の習慣の蓄積が、子どもを勉強で追い込んでしまう親になるか、勉強を応援する親に成長できるかの違いです。

同じ学習メニューでも「今のわが子」を理解することに全力を傾ける親か、「何をやらせるか」と学習メニューに全力を傾ける親か。

昨日は嫌がっていなかったのに今日は嫌だというとき、「何かあったのかな?」と思うのが、理解しようとしてる親。
「昨日やったんだから今日もできるはずでしょ」というのが子どもよりもメニューに目が行ってしまう親。

「何をやらせるか」よりも「この子は今どうなのか、何を思っているのか」が先に来ないと、うまくいくはずはないですから。

中学受験が良い方向へいくのか、時に教育虐待にまで発展する悲しい方向なのか、ここが大きな分かれ目ですね。くれぐれも、全力を傾ける対象を間違えないで欲しいなと思います。

「子どもの今を見る」ということを意識できると、学習面でも有利です。
何をいつまでにやっておくといいよという一般情報は、塾の先生が全員に教えてくれる。
その情報を「うちの子の場合はどうですか?」と個別情報にしてもらうには、塾の先生に「今のうちの子」の様子を具体的に伝える必要があるからです。
その具体的な姿を深く知ることは、親御さんにしかできない。子どもを理解することで大きく差がつく。これは中学受験特有のポイントです。

子どもの理解に全力を傾けることが、成績を上げてあげる秘訣でもあるし、間違っても虐待にいかない多分唯一の方法です。

関連記事:「中学受験を教育虐待にしないために」後編 難関中学の合格に勉強よりも大切なことは?

【プロフィール:小川大介(おがわ だいすけ)】

教育家、中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員。京大法卒業後、受験指導、幼児期からの才能発掘、親子関係カウンセリングなど幅広く活動。6000回以上の学習相談、子育て相談で培った洞察力と的確な助言が評判。『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』など著書は20冊以上。新刊「自分で学べる子の親がやっている『見守る』子育て」が好評発売中。見守る子育て研究所  YouTubeチャンネル「見守る子育て研究所」

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「夢中を「見守る」子育て 教育家・小川大介」の記事一覧

曽田照子
曽田照子

ライター。広告制作会社を経て20代前半でフリーに。「親から子への言葉かけ」をメインテーマに、書籍やWEBで書いています。小学5年生で手芸クラブに入部、フェルトをちくちく縫ってマスコット人形を作っては周囲にプレゼントをしていました。今は和裁を習っています。娘3人+猫の母親です。

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