2022.01.13
学びをはぐくむ 曽田照子

「中学受験を教育虐待にしないために」後編 難関中の合格に勉強よりも大切なことは?

中学受験に熱心なあまり「教育虐待」に陥ってしまう親が少なくありません。
教育虐待とは成績や受験に過度にこだわり、子どもを心理的に追い詰めてしまう虐待の一種です。
教育家の小川大介先生に「中学受験を教育虐待にしないために」というテーマでお話をうかがった後編をお届けします。

前編:こんな親はハマりやすい、教育虐待のワナ

後編:難関中学の合格に、勉強よりも大切なこと

中学受験を教育虐待にしないためのPOINT

  1. 「あの中学校以外は意味がない」は虐待
  2. 親自身も、頑張ってきた道のりを認める
  3. 家族がお互いを大事にすることが、受験に成功する最大のコツ

「○○中以外は意味がない」=虐待

――中学受験は、親が「あの学校に行かせたい」という思いを強く持たないとうまくいかない部分がありますよね。でも、それだけになってしまうことが危険なのでしょうか。

「~のはず」という思考の最たるものが「○○中以外は意味がない」です。
これが口から出たら教育虐待の黄色信号です。

憧れの学校があって「行きたい」「行かせたい」が強くて、そこに届く道筋が見えているなら、一生懸命頑張ればいい。

しかし、そこにたどり着く道筋が見えていないのに「行かせたい」と言ってゴールにしがみつくのは、完全に子どもを無視しています。こんなひどい扱いはありません。

親として、人生を長く生きてきた大人として、「今の自分ができること」を認め、それで満足できる力をつけさせることも大事です。

――「憧れの○○中」みたいな分かりやすい目標と、自分のできることで満足することと、折り合いをつけるのは非常に難しいですね。

これは誰にでも起きることなので、心に留めておいて欲しいのですが、親子で教育相談に来て親の欲求として「○○中に絶対行かせたいんです」と発言するとき、子どもの耳には「今のこの子には価値がないんです」と聞こえる可能性があるのです。

特定の学校名に固執する親の姿には、「ママ(パパ)から見たら、いまの僕・私の頑張りは意味がないみたい」って、子どもには伝わるんですよ。

憧れの学校を目指すのはいいですが、そこだけを見据え始めた瞬間、今ここにいる子どもの心の動きや努力が見えなくなってしまう。

――志望校が先に来て、いまの子どもの心が見えなくなってしまうと怖いですね。

行きたい学校を目指していいし、そのために合理的な勉強メニューもある程度は考えられるけれど、常に結果は後からついてくるものです。よく逆算思考とか言いますけど、中学受験においては取り扱いに注意しなければなりません。

子どもが取り組む中学受験では、計算通りにいかないことの連続。今の子どもの姿を度外視して、ただ目標からの逆算だけで上手くいく学習セオリーなんてありません。
日々の努力の先に手に入るのが結果です。今できることを精一杯やらせてあげることが正解なんですよ。

目の前にいる子どもをまず認め、大事にした上で、この子の明日、来週、来月を、どう育んで伸ばしてあげるか、が最優先です。

今日この子ができることを、できるような形で取り組ませてあげて、褒めてあげる。その365日連続が、中学受験の1年間です。

気づいて立ち止まればいい

――子どものための志望校なのか、親のエゴや見栄のためなのか。親が自分をよく見つめることが大事なのでしょうか?

あえて厳しいことを言いましたが「○○中学でなければ……」と目の前の子どもを否定してしまうような言動は、受験意識が極端に偏った一部の親御さんだけの問題ではありません。どんな親御さんでもやってしまう可能性があります。

このことを、自分を立ち止まるために心の片隅に入れておいてほしいと思います。

現時点で「あ、自分だ」と思った人もいるかもしれませんね。
気づけて良かった。ひどい親なんじゃなくて、とにかく子どものことを大事に思った結果、陥っただけということも忘れないでください。

悪くないんです。誰にでもおきる可能性があるんです。気づいて、立ち止まり、修正しようと思えたらそれでいい。

――どんな親も、子どものためと思って、一生懸命になっているんですよね。

虐待モードまで追い詰められて悩んでいる親御さんが相談に来たとき、僕が必ず聞くフレーズがあるんですよ。
それは「じゃあ頑張らなかったんですか?」です。

「どれだけ頑張ったか、ここまであなたがやってきたことを教えてください」と聞いて、ひとつひとつについて「それはよかったよね」「これはちょっとタイミング違ったんだね」と話をしていく。
うまくいかなかったこともあれば、頑張ってうまくいったこともありますが、「頑張ったこと、ひとつひとつに意味があった」と確認すると、追い詰められた感じがそれだけでだいぶ変わるんですよ。

子どもの成績は思ったように伸びなかったかもしれないけれど、頑張ってきたことには、一つひとつ全てに意味があった、と思えるようになるんですね。

ママが一人で追い詰められていませんか?

――追い詰められないためには、家族でよく話をすることが大事なのでしょうか?

中学受験で子どもを追い詰めて後悔している親御さん、多くの場合、ママが一人で追い詰められているんですが、そういった親御さんは、家族の中でちゃんと助けてもらってない、もしくは間違った役割分担をしてしまっています。

「あなたは算数理科の担当、私は国語社会の担当。今回のテストでは国語と社会の点数はちゃんと取れてたんだから、あなたのせい」という、なすりつけ合いをする夫婦って結構多いんですが、これは間違った役割分担。

家事の役割分担を決めたら、奥さんの体調が悪くても「僕の担当じゃない」とか言ってゴミ出しだけして後は何もしない夫、というのと構図が一緒です。

「僕は忙しいんだから、あなたがちゃんとやってくれないとだめじゃない」「ほかのうちではみんな旦那がやってくれてるはず」……と、ここでも「はず」が出てきます。

間違った役割分担をしてしまうのは、まだ、親としてたった10年そこそこの経験値しかないからです。
子どもを応援するために、夫婦(シングルの場合は祖父母など子育ての協力者)、家族がどう共同作業をしたらいいのかを知らないんですね。

それなのに、中学受験では否応なく家族の協力体制が求められるから準備不足の家庭ではギクシャクしやすい。
しかしここが中途半端なままでは、中学受験で成果を出していくこと、ことに難関校合格というのはかなり難しくなります。

――中学受験を支える協力体制をどう作ったらいいのでしょうか?

まずは、夫婦(シングルの場合は祖父母など子育ての協力者)同士の信頼です。
「計算が得意だよね」「記憶力がいいよね」「妥協しないよね」など、お互いの素晴らしいところを認め合う。

うまくいく夫婦は、お互いの認め合いに基づく役割分担を話し合えます。
「こことここはお願いできるかな」「こっちは私がやるね、私のほうがうまくできそうだし、時間もあるし」と、お互いに自分と相手の得意が分かっているから、分担がうまくできる。

自分たちの得意が分かっているということは、自分たちの苦手も分かっているということです。
だから「これ以上は今の僕たちの手には余るよね」とも言える。
苦手やできないことが言えるから、過剰な不安を抱え込まない。だから不安を埋めるために子どもを追い詰めてしまうことも起きないんですよ。

主語を「私たち」に変える

ここで重要なキーワードが「私たち」です。
夫婦で家族で会話する時の主語を、「私」「僕」から「私たち」に意識的に変えてみる。

親御さんはみんな「自分が頑張らなきゃ」って、自分でできることは100%頑張っている。だから「私はここまでやってて、彼はこういうことやってくれてて」と、一人一人の努力は見えているんです。

しかし「私たち」の話ができないケースが多いです。
「私たちとしてはどうしよう」「うちとしてはどうしよう」を話し合って、共同して作り上げるチームなんだ、ということを、双方が認め合うことが大切です。

週末だけでも、一緒に甘いものでも食べながら、お酒でも飲みながら、ゆっくり話したらいいかもしれません。
その時には「おつかれさま」と「ありがとう」を互いに忘れないでください。

この記事は、「受験がうまくいく方法は?」と分かりやすいHOW TOを求めていた方には、あまり響かない話だったかもしれませんね。しかし中学受験は子どもを中心に、親も参加する受験だからこそ、行きつく先は、夫婦および家族の信頼関係なのです。

家族が互いに認め合い、信頼しあえている環境なら、子どもは勉強するんです。

関連記事:「中学受験を教育虐待にしないために」前編 こんな親はハマりやすい 教育虐待のワナ

【プロフィール:小川大介(おがわ だいすけ)】

教育家、中学受験情報局「かしこい塾の使い方」主任相談員。京大法卒業後、受験指導、幼児期からの才能発掘、親子関係カウンセリングなど幅広く活動。6000回以上の学習相談、子育て相談で培った洞察力と的確な助言が評判。『頭のいい子の親がやっている「見守る」子育て』など著書は20冊以上。新刊「自分で学べる子の親がやっている『見守る』子育て」が好評発売中。見守る子育て研究所 YouTubeチャンネル「見守る子育て研究所」 

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「夢中を「見守る」子育て 教育家・小川大介」の記事一覧

曽田照子
曽田照子

ライター。広告制作会社を経て20代前半でフリーに。「親から子への言葉かけ」をメインテーマに、書籍やWEBで書いています。小学5年生で手芸クラブに入部、フェルトをちくちく縫ってマスコット人形を作っては周囲にプレゼントをしていました。今は和裁を習っています。娘3人+猫の母親です。

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