離島に学びの機会を 受験以外でも塾のオンライン授業が可能に
コロナ禍の学びとしてオンライン授業が急速に広がっています。「EIKOH LiNKSTUDY(栄光リンクスタディ)」は2021年9月、塾がない小笠原村の子どもたち向けに、リンスタベーシック⼩笠原村コース(東京都小笠原村)を開講しました。都心の子に比べて学びの機会が少なく、塾のオンライン授業が受けられたとしても、受験対策がほとんどです。受験ではなく、学校の学びを深めたい。そんな離島の子どもにも学習の機会を提供し、教育機会の格差解消を目指します。塾がない地域の子どもたちにも広がる取り組みです。新たな学びに期待する親子に取材しました。
きっかけは小笠原村からの中学受験 オンライン授業が役に立った
2021年8月、現地調査のために父島を訪問した黒澤正人さん。「オンラインで学ぶ楽しさを子どもたちに感じてほしい」 。リンスタベーシック小笠原村コース責任者の黒澤正人さんは、2020年にコロナ禍の中、当時栄光ゼミナールのオンライン授業を通じて、小笠原村の児童が中学受検にチャレンジしたことを知りました。その子は2021年2月、難関の都立中高一貫校に合格。オンライン授業での受検対策がとても役に立ったそうです。
話を聞く中で、同村の教育事情を知りました。保護者との学習相談を通じて、黒澤さんは「学習に対する悩みは都心も離島も同じ。ただ、教育機会には圧倒的な差がある」と痛感したそうです。「小笠原に寄り添ったオンライン授業を提供できれば、学校選びの選択肢が増えるのではないか」と考え、新たに小笠原村専用のコースを立ち上げようと動き出しました。
学校の授業や宿題のフォローが中心 「自分で学ぶ」をサポート

⼩笠原村コースの授業は、本格的な受験対策ではなく、学校で学習する内容やこれまでに学習してわからなかった点などを中心に勉強します。村在住の⼩学3年⽣〜中学3年⽣が対象で、火曜から土曜までの週5日開講。対象学年の子どもが200人ほどいるなかで、15人が受講しており、ほとんどが小学生です。
小笠原村は人口約2500人。父島と母島のほとんどの小学生は、村立小笠原中学か母島中学へ進学します。しかし高校は半数が父島にある小笠原高校へ、半数は島を出て都心の学校へ通います。「保護者との相談会では、今すぐに学力をあげてほしいというよりも、高校を選ぶ時の選択肢を広げたい、高校生になって困らないように小学生のうちから準備したいと考える保護者が大半でした」と黒澤さん。
小笠原村では、習い事は地元の大人が和気あいあいとした雰囲気の中で教えてくれるスタイルです。その特色を考えると、先生が一方的に何か教えていく授業よりも、自分で勉強する形の方が受け入れられると判断しました。授業では教科書準拠のワークを使い、今、学校で習っている単元を中心に勉強します。
時間になるとZoomを接続。「明日は三角形のテストがあるから復習したいな」。わからないときは先生に質問して教えてもらいます。「先生、計算全部あってた!」「素晴らしい!ノート見せてごらん」。画面を通じて楽しくコミュニケーションをとります。
「画面を通じての答え合わせはノートを画面に映してもらい、式や漢字の間違いも細かくチェックします。距離は離れていても、対面と変わらない環境を心がけています」
授業後は、学習塾専用コミュニケーションアプリ「Comiru -コミル-」を通じて、指導報告書を保護者に配信。その日に何をやったかを報告します。
「リンスタ大好き。学校でも発表できるようになったよ」
小3の門出きいらさん(右)と母のダリアさん(中央)、1年生の弟イリアくん(左)。きいらさんは、「画面越しに先生と話すのも楽しい」。
きいらさんのある1週間のスケジュール
小学3年生の門出きいらさんは父島在住。先にリンスタベーシックをはじめていた友達に誘われて入塾しました。「算数は得意なんだけど、国語が苦手なの」。母親のダリアさんは、「漢字テストは100点なのですが、読解問題が苦手で、何を聞かれているかわからず困っている。それに自信がないようで、学校で発表できないんです」と黒澤さんに相談しました。
そこで算数のテストがある前日はオンライン授業で対策するように提案され、週4日受講するようになると、短期間で大幅に点数がアップしました。
「それまでは苦手なところがあっても学校でフォローしてくれるとまではいかず、塾もないのでそのままになっていました。今はオンラインでしっかりフォローしてもらえるので、とても助かっています」とダリアさん。
きいらさんは自信がついたのでしょう。学校の先生との面談でも、「授業中、積極的に発表するようになりましたね」とほめられるようになりました。
きいらさんがリンスタベーシックをはじめて半年が経ちました。今では習い事があっても、帰るとすぐにZoomをつなぐほど自分から勉強をするように。「リンスタ楽しい!」今は、読解問題に挑戦中です。
進学先を自由に選べる実力をつけたい
母島に住む小学5年生、上川凛乃(りの)さんは、1年生の時からタブレットの通信教育を受講していました。母親の真澄さんは、都会の子は塾にたくさん通っているという話を聞くと、学力面で不安を感じるようになってきました。真澄さんは「将来、都心の学校に行きたいと思ったときに、行ける力を持てるようにしてあげたい」と思い、リンスタベーシックを始めました。中学は地元の母島中学校に通う予定ですが、高校は小笠原高校でも都心の学校でも、進学先を自由に選べる実力をつけることを目指しています。
凛乃さんのある1週間のスケジュール
「将来は声優になりたい」という凛乃さんはアニメや漫画が大好き。たくさんの習い事をしていますが、週3日はZoomで授業をすると決めて、基礎から応用問題までしっかり取り組んでいます。
仕事で忙しい真澄さんにとって、指導報告書の配信も助かっています。「その日、何を勉強したかがわかるので安心できます」。先生に相談したいことは空いた時間にメールで質問。受験に関する情報を知りたいときも、これまではどこに聞けば良いのかわかりませんでしたが、今はその心配もありません。
凛乃さんはリンスタベーシックに通い出して、学校の勉強がよくわかるようになりました。「配信授業を見るだけじゃなくて先生に質問できるから難しい問題も解けるようになりました。自分でここを勉強したいと言えるところも気に入っています」。
AIを活用して、子どもに応じたカリキュラム
小笠原村の子どもたちはオンライン授業に戸惑うことなく、画面越しの先生ともすぐに仲良くなりました。きいらさんや凛乃さんのように、通っている子たちは皆、満足しています。
11月からは小学生向けの「リンスタベーシックすららコース」と、中学生向けの「リンスタベーシックatama+コース」がスタート。AI学習システムを活用し、子どもたち一人ひとりに対応したカリキュラムが作成できる講座です。塾でライバルと競ったり、外部模試を受験したりする機会の少ない小笠原村の子どもたちも、目標達成に向けて効率的な勉強ができるようになりました。
「EIKOH LiNKSTUDY」では小笠原コースの開設をきっかけに、受験のための対策だけではなく、 近くに塾がない地域での教育課題を解消したいと考えています。今後は住んでいる場所に関係なく、都市部と同じような授業を受けることができるようになるでしょう。また、不登校や体調の問題で学校に通えない子どもたちのサポートにもつながるかもしれません。
「学習環境をさらに充実させ、全国でもっと利用してもらえるように工夫を続けたい」と黒澤さん。オンラインが可能にする新しい学びの場に、離島や塾の少ない地域に住む子どもたち、さらに学校に通えない子どもたちのサポートにも役立てていけそうです。

1977年生まれ。愛媛県出身。旧姓、井上。都内の学習塾に勤務した後、結婚、出産を経てフリーライターに。教育を専門に学びたいと、中学生と小学生の息子を育てながら都内女子大の修士課程を修了。大人になっても「学びは楽しい」と実感する。海と山に囲まれて育ち、虫が全然怖くない。子どもの頃は自然の中で遊ぶのに夢中で、得意だったのは押し花と走ること。