2022.01.21
学びインタビュー 北川サイラ

子どもの英語力を伸ばすには?後編:豪・パースへ教育移住した小島慶子さん

子どもの英語を伸ばすためにはどのような教育が必要なのでしょうか。海外で生き抜くために必要なスキルとは。夫がテレビ業界を辞めたことを機に一家4人でオーストラリアのパースに教育移住した元TBSアナウンサーでエッセイストの小島慶子さんに聞きました。後編では、子どもの英語習得法などについて考えます。

前編:海外で教育移住するメリット、デメリットは?豪・パースで息子を育てる小島慶子さん

後編:子どもの英語力を伸ばすには?豪・パースに教育移住した小島慶子さん

言いたいことを持つことが、英語力を身につける土台

――日本の子どもたちの英語力がなかなか伸びない理由はなぜだと思いますか。

自分が何を考えているか、わからないからじゃないでしょうか。言葉を習得する一番の近道は「言いたいこと」を持つことだと思います。話を聞いて欲しい!という気持ちですね。聞いてもらえると、嬉しくてもっと話したくなる。相手の話ももっと理解したくなる。英語を学ぶ前に、まずは日本語で体験することが大事だと思います。

日本語は主語を曖昧にしても、お互いに「察しあって」会話が成立しますよね。でも、自分が何を感じているのか、何を考えているのかを言葉にできないと、異なる文化の人とつながることもできません。主語を意識して、「私はこう思う、なぜならばこうだから」と言語化する。小学校の授業から、そういう練習が必要じゃないのでしょうか。

それと、安心して話せる場所を作ることも大事です。否定されずに「そうなんだね」と受容され、尊重される経験を積むことで「自分は話してもいいんだ」と思えます。せっかく話しかけても、大人が話を適当にスルーしたり、ダメ出しばかりすると、子どもはのびのび考えたり話したりできなくなってしまいます。

だから、子どもの話を真面目に聞いてあげることが大事。まずは母語で地ならしをしないと、いくら英語の種を蒔いても芽吹かないんじゃないかと思います。

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求められたのは「自分の意見を述べる」こと

小島慶子さん提供小島慶子さん提供

――海外の授業では、自分の意見を言えることが評価されますよね。現地の公立校に通った息子さんたちも最初は戸惑ったのではないでしょうか。

長男がパースに来てぶつかった問題がまさに、「授業で意見を述べること」でした。日本の学校では「意見を述べなさい」といわれたら、先生が期待している回答を予想して答えますよね。読書感想文も「感動しました、ためになりました」が定番です。小学5年生まで日本の公立校で育った長男は、オーストラリアの先生に「君はどう思うの?」と聞かれても、先生がどんな「正解」を想定しているのかがわからず、答えられなかったんです。

先生は英語がわからないのだと思って「お子さん、授業についていけてますか?」と聞いてきたのですが、息子は質問の意図がわからなかったんですね。そこで夫と私が「授業でも、本当に自分が考えていることを言っていいんだよ、正解をあてようとしなくていいんだよ」と説明したら、息子は「えええ~本当にいいの?」と驚いていました(笑)

日本の学校では、空気を読んだり、言葉の裏の本音を推測したりする「言語化しないコミュニケーション力」が求められます。英語圏では意識的に言語化しなければいけないので、日本の教育を受けた人にとっては、これが大きなハードルになります。息子たちはたまたま生まれつきおしゃべりだったのと、聞き上手な父親と会話好きな母親がいたことが幸いし、オーストラリアの教育が合っていたのだと思います。

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フォニックスは大事

――子どもの英語教育について考えるとき、「4技能のどれが大事」「英語耳を育てよう」と考えがちですが、そういうことではない、ということですね。

発音と文字の関係を学ぶ音声学習法「フォニックス」はすごく大事だと思います。オーストラリアでは小学校低学年でフォニックスを学ぶので、長男は中学生のときにフォニックスを一から勉強し直しました。フォニックスができないと、英語の音節や特有のリズムがわからないので、単語の認識がしづらく、スペルを覚える能力にも支障が出ます。このおさらいをやってから、長男の英語は飛躍的に伸びて、高校では得意科目になりました。

また、言語習得の臨界期は一般的に9歳ごろといわれていますが、小さいころから英語の音に慣れておくことも重要です。「thとs」と「rとl」の違いはなかなか聞き取れないし、発音できない。英語を話せるようになるうえでは欠かせない学習だと思います。

――「海外移住や留学をしないと英語は身につかない」と考える親もいますが、どのように思いますか。

全然そんなことないです!どこに住むかよりも、動機と目的を定める方が大事です。日本で英語を学ぶことができるのに、なぜわざわざ海外で学ぶのか。そして、英語「で」何をしたいのか。それがわかっていないと、海外に行っても何も身につきません。

――多様性を体験できるのも海外ならではの経験だと思いますが、どうでしょうか。

日本にいても多様性を体験できます。多様性は、半径5メートルの中にすでに存在しています。あなたの目の前にあるんですよ!例えば今話している私は、ADHDという発達障害があります。これも人の多様さの一つですよね。ほかにもジェンダーや経済的な格差など、実にさまざまな違いが存在します。でも、日本は日本語を母語とする人が圧倒的多数を占め、外見や触れているメディアも似ているから、「みんな同じ」だと誤解しやすいんですね。海外に行きさえすれば視野が広がるというのは、幻想です。

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好きな分野のスキルを「かけ算」で持つ

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――息子さんたちは今後もオーストラリアを拠点に生活されていく予定とのことですが、変化が激しいこの時代に、海外で生きていくためにはどんな能力が必要だと思いますか。

自分はどんなことを学びたいかを考え、予測できない変化が起きた時にも対応できるような選択肢を常に視野に入れながら生きることが欠かせないと思います。そのために、息子たちには、「かけ算」で考えなさいと伝えています。例えば、教育について学びたいのであれば、教育×デジタル、教育×ビジネスなど、自身の専門知識をほかのものと掛け合わせて生かすことを視野に入れておく。実際、教育分野に最新テクノロジーを導入したエデュテックの分野は、大きな期待が集まっています。今後も、すごいスピードで変わっていく世の中の流れを掴むためには、英語力と情報リテラシー、社会課題への関心と当事者意識が不可欠でしょう。

――スキルのかけ算で選択肢を増やし、どこでも生きていく力を身につけるということですね。

そして、もう一つ大事なのは、「自分は何が好きなのか」を知っておくこと。

私は、ものを考えるのが好きで、人に話しかけないではいられない性分なので、アナウンサーになりました。ところがいざなってみたら、当時の若い女性アナウンサーに求められていたのは自分で考えて話す能力ではなく、いわれた通りに場を華やかにする能力でした。それは適性がないかもと悩んでいたら、まわりの人が、私にラジオという場所を与えてくれました。それがぴったりの場所だったんです。とにかく喋らないと無音の世界ですからね(笑)。今はいろんな形で、考えたことを人に伝える仕事をしていますが、この思いが私をここまで連れてきました。

 ですから、息子たちにも自分の喜びの源となるものを大事にしなさい、と繰り返し伝えています。人には、好きなことと、できることと、しなくちゃいけないことがあります。ときには好きでないこともしなくては、ご飯を食べていけません。でも迷ったら、「べき」より「好き」を大切に。喜びがあれば頑張れます。「好き」という思いは、自分をどこかへ連れて行ってくれますから。

 今年高校2年生になる次男は、いま大学で何を学ぶか思案中。「何に興味があるの?」「どうしてそれが好きなの?」と尋ねています。彼はまだうまく答えられないのですが、自分をより深く知る機会にして欲しいなと思います。

――好きなことが自分の人生を導いてくれるということですね。とても勉強になるお話をありがとうございました。

撮影:北川サイラ

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北川サイラ
北川サイラ

1992年生まれ、神戸出身。2016年に朝日新聞社入社。静岡、大津総局を経て、2020年10月から現職。小学生のころは器械体操に夢中でした。趣味は家庭菜園、寺社や銭湯めぐりなど。