2022.02.18
学びインタビュー 北川サイラ

少年野球で強くなるには?やる気を引き出す練習メニューを全国大会2連覇の監督に聞く

2018年と2019年に「小学生の甲子園」とも呼ばれる全日本学童軟式野球大会で2連覇を成し遂げた多賀少年野球クラブ(滋賀県)。「世界一楽しく!世界一強く」のスローガンを掲げるチームは、どのようにして強くなったのでしょうか。チームの特徴である「ノーサイン野球」の真意は。子どものやる気を引き出す練習メニューなどについて、30年以上指導を務め、甲子園球児2人の父でもある辻正人監督に話を聞きました。2回にわけてお届けします。トータルテンボス・藤田憲右さんの著書「『卒スポ根』で連続日本一!多賀少年野球クラブに学びてぇ!これが『令和』の学童野球」のプレゼント企画もあります(詳細は記事末へ)。 

前編: 少年野球で強くなるには?やる気を引き出す練習メニューを全国大会2連覇の監督に聞く

後編:少年野球が上手くなる3つの力 息子2人を甲子園球児にした監督が語る子育て術

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子どもが戦術を練る「脳サイン野球」

試合に挑む多賀少年野球クラブの子どもたち試合に挑む多賀少年野球クラブの子どもたち

――チームの特徴であるノーサイン野球について教えてください。

2011年に日本代表としてイタリアの国際大会に出場したとき、相手チームの子どもたちがノーサイン野球でいきいきと主体的にプレーをしていたのが印象的でした。監督の顔を見ずに、子どもたちだけで考えて動く野球って、楽しそう!と思いましたね。

その翌年からノーサイン野球をチームで導入しました。正確にいうと、監督が采配するのではなく、子どもたちが戦略を考えて、お互いにサインを出し合う「脳サイン野球」です。僕も助け舟を出しますが、試合中は基本ベンチに座って応援するだけです(笑)。

――少年野球で監督が采配しないのは珍しいですよね。 

多くのチームでは、監督が戦術を考えてサインを出します。「小学生にはできない」と思っている大人もいますが、子どもたちの可能生は無限大にあります!

――脳サイン野球はどのようにして子どもたちに教えるのですか?

戦術をまず理解してもらう必要があるので、座学講座を年間10回開いています。各講座は1時間程度。野球がどういうスポーツなのかを一から説明します。

僕たちのチームは「1死三塁」をつくって得点につなげることを目標にしています。その状況をつくるためにどう動くのか。攻撃と守備の方程式をある程度詰め込むことで、自分の中で戦術の引き出しをたくさんつくってもらうようにします。

座学講座で戦術を学ぶ多賀少年野球クラブの子どもたち=多賀少年野球クラブ提供座学講座で戦術を学ぶ多賀少年野球クラブの子どもたち=多賀少年野球クラブ提供

――戦術を覚えるところから始まるのですね。低学年の子も理解できるようになりますか?

低学年には少し難しいので、「そのうちわかるようになるから、まぁ聞いとき」と伝えています(笑)。

でも中学年になると、紅白戦や練習試合で引き出しを引っ張って試すようになり、理解がどんどん深まります。高学年になれば、将棋のように野球盤が頭の中でイメージできて、駒を自由に動かせるようになります。この場面ではこれ!あの場面ではこれ!と、相手を先読みしながら戦術を練れるようになります。

この「考える」行為そのものが野球の本質的な面白いところなんです。

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考える力を養うコツ

――考える力を養うためにはどうすればよいのでしょうか?

野球は「判断力」のスポーツです。試合展開に応じて、そのときのベストを判断するためには、「瞬発力」が求められます。練習試合などで実践経験を繰り返し積むことによって、判断のスピードを上げていきます。

そして、プレーの後は必ず動きを振り返って議論をする時間をつくっています。そのときに大事なのが問いかけです。

――問いかけとは?

ミスをしたら、「それあかんやろ!」ではなく、「なんであんな動きしたん?」と聞く。「相手投手の癖がわかったから」「相手がバントを警戒したから」など、その子なりの考えがあります。子どもが自ら考え抜いたその行為を否定せず、そのように判断した根拠をきちんと聞き出すことを意識しています。

そこから「どうすればよかったのか?」と、子どもの意見を引き出しながら改善策を導いていきます。つまり、僕が答えをいうのではなく、子どもが自ら答えを出せるように持って行きます。

そしてミスはチームが成長する絶好のチャンスなので、チーム全体にも共有します。「みんなはどうしたらええと思う?」と投げかけると、ああすれば良かった、こうすれば良かったと、様々な意見が飛び交います。ほかの人の考えに触れることで学びもさらに広がりますよね。

ベンチから試合を応援する多賀少年野球クラブの子どもたちベンチから試合を応援する多賀少年野球クラブの子どもたち

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子どもの考える力を奪わない

――試合を読む力があると、野球観戦も盛り上がりそうですね。

チームで高校野球を観戦に行ったときの子どもらはすごいですよ!「なんであの場面でホーム突っこむん?」「こういう風に動いたら勝てたやん!」と、議論が白熱します(笑)。

――脳サイン野球を教えることは指導者側にとっても時間がかかりますよね。それでもこだわる理由とは?

正直、監督が考えた方が試合も勝ちやすいし、手間もめちゃかかりますからね(笑)。でも、長期的な目線でみると、それは大人が子どもたちの「考える力」を奪っていることだと思うんです。

監督が「バントしろ」の指示にただ「はい」と従っていると、上の人の顔を伺って、指示を待つだけの人間になってしまう。学校現場で問題となっているブラック校則も、「なんのための校則なのか?」と誰もこれまで疑問に思わなかったわけですよね。「なんとなく従うもの」として片付けてしまうと、思考力がそこで停止します。

正解がない時代をこれから生き抜く子どもに必要なのは、自分で物事を考える力。その力を育てる脳サイン野球は、重要な役割を担っていると思います。 

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やる気が出る「魔法の言葉」

辻さんが指導する野球教室に参加した城東ベースボールクラブ(東京都)の子どもたち 辻さんが指導する野球教室に参加した城東ベースボールクラブ(東京都)の子どもたち 

――全国大会で力を出せるようになった一番の要因は?

 一番は練習を「楽しく」したこと。

これまで、どうしたら優勝できるかと悩んできました。そこで、チームを改革するため、2017年に保護者向けに匿名でアンケートをとりました。すると、「試合だけではなく、練習も楽しくできないか」などと厳しい意見が出て…(笑)。このままではアカン!と思いましたね。

そのためには、まず子どもたちの「ストレス」を取り除こうと。ストレスを感じると、伸び伸びと野球を楽しめませんからね。

――ストレスを取り除くとは?

一番意識したのは「言葉がけ」です。良いプレーをしたら「天才や!」「それ、君にしかできへんわ!」「おお~上手やなぁ!」と褒める。ミスしても「アカンかったな、次は頼むで」と、前向きになる言葉をかけるようにしました。

すると、子どもたちが見る見る元気になって、親の表情まで明るくなって、指導する僕のストレスまでなくなったんです(笑)。ほんま、言葉は魔法なんよ。

――言葉がけで変わったのですね。

子どもに「俺、天才かも」と思わせたら、自信がついて、びっくりする能力を出しますから!子どもを天狗にさせて、ナルシストになるくらいがちょうどええんです。

ただ、魔法の言葉は日頃から探していないと使えません。レストランやガソリンスタンドに行っても店員に喜んでもらう会話を考えられるか。僕は日常生活から特訓しました。

笑顔を見せる多賀少年野球クラブの子どもたち笑顔を見せる多賀少年野球クラブの子どもたち

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フルスイングしたらほめる

――試合中のストレスはどのように対応しましたか?

「打ったら褒められる」「打てなかったら叱られる」の2択は子どもにとって大きなストレスを与えます。ですから「フルスイングしたら褒められる」「打ったら褒められる」「1塁まで全力疾走したら褒められる」の3択に変えました。

結果的にアウトでもフルスイングして1塁まで走れば、2回は褒められますからね。

――それで変化はありましたか?

これまでは「打てない=ダメ」だと感じて、体が力んでバットが振れてない子がいました。ストレスがかかると筋肉の動きも堅くなるので、スイングも遅くなります。

今は恐れずにフルスイングできるようになりました。その思い切りの姿勢が、試合の結果にもつながったと感じています。

バッティング練習に取り組む多賀少年野球クラブの子どもたちバッティング練習に取り組む多賀少年野球クラブの子どもたち

――かつてはストレスをかけることが当たり前の時代がありましたね。

子どもを叱って「なにくそ」と思わせた結果、指導者側は「おっ!この子、こんな能力発揮するんや!」と驚くことがあります。それが癖になり、そのやり方を正当化してしまう。

でも、それでは「スポーツ=楽しいもの」として子どもは捉えません。プレッシャーをかけるよりも、ストレスを取り除いた方が子どもの成長は早いです。 

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練習メニューに「音」を加える

練習中に太鼓を叩く多賀少年野球クラブの子どもたち練習中に太鼓を叩く多賀少年野球クラブの子どもたち

――子どもが楽しむためにほかにどのような工夫をされていますか? 

幼児や小学校低学年向けの教室では、練習中によく「音」を使います。

――えっ?どんな音ですか!?

ボールをうまくキャッチできたら、ゲーム「ドラゴンクエスト」のレベルアップに使われる効果音「テレレレッテッテー」を流したり、逆に外したらシンバルを「ち~~ん」と叩いたり。太鼓をたたくこともあります。音が加わるだけで、子どもはやる気を出して取り組んでくれますよ!

――吹奏楽部の応援みたいですね(笑)。

投げる練習では、ボールが9マスのボードにひっつく「ストラックアウトボード」を使うこともあります。小さい子は、目標物があると喜びますね。ボールが飛ぶ方向性も見やすくなりますし。野球の練習が楽しめるのであれば、もう何でも使っちゃえ!って感じです(笑)。

ストライクアウトボードで投げる練習をする多賀少年野球クラブの子どもたち=多賀少年野球クラブ提供ストライクアウトボードで投げる練習をする多賀少年野球クラブの子どもたち=多賀少年野球クラブ提供

転がったボールを捕ってからゴールまで走る練習でも、1人ではなく、一斉に「よーい、どん!」で2、3人ずつに分かれて競わせます。ちょっとの工夫でゲーム性が生まれます。 

とにかく子どもはすぐに飽きます。あの手この手と、どうしたら面白くなるかを1日中考えています。

――楽しんでもらう方法を考えるのも大変ですね。

実は僕、人を楽しませるのが好きで、小学生のころは吉本興業の芸人に憧れて友達と漫才をしていました(笑)。だから、アイデアを考えるのはとても楽しいです!

――「楽しい」と「強い」は両立できると思いますか?

強いチームの練習は「厳しい」と思われがちです。僕のチームが全国大会で優勝したときも、まわりから「どんなしんどい練習をしてきたん?」とよく聞かれました。でも、日々の練習をただ「楽しく」変えただけなんです。 

「楽しい」を育成の手段として捉えれば、「楽しい」と「強い」は両立できます。それが可能だともっと知ってもらって、スポーツが大好きな子どもが増えたら嬉しいです。

写真撮影:北川サイラ

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応募方法:みらのびのインスタグラム(アカウント名:miranobi_asahi)をフォローしていただき、著書のプレゼント企画の投稿に「いいね」をしていただいた方の中から抽選でプレゼントします。

応募期間:2022年4月22日(金)まで※ご当選された方にのみ、インスタグラムのDMにて2022年4月下旬ごろにご連絡させていただきます。みらのびのアカウントからDMを受け取れる設定への変更をお願いします。

【プロフィール:辻正人(つじ・まさと)】 

1968年滋賀県生まれ。近畿大学法学部卒。近江高校の硬式野球部出身。20歳のときに多賀少年野球クラブを結成。クラブの卒団生には、楽天イーグルスの則本昂大投手も。2018年と2019年の高松宮賜杯全日本学童軟式野球大会で優勝。クラブには約70人が所属し、中には多賀町の移住・子育て支援の制度を通して多賀町に引っ越して野球をしている子もいる。 著書『多賀少年野球クラブの「勝手にうまくなる」仕組みづくり』(ベースボール・マガジン社)。 

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北川サイラ
北川サイラ

1992年生まれ、神戸出身。2016年に朝日新聞社入社。静岡、大津総局を経て、2020年10月から現職。小学生のころは器械体操に夢中でした。趣味は家庭菜園、寺社や銭湯めぐりなど。

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