2022.03.15
学びインタビュー 小内三奈

運動と非認知能力の相関関係とは? 全国体力テストの専門家に聞く

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子どもの将来や人生を豊かにする力として注目される「非認知能力」。その非認知能力は運動を通じて育くまれるとも言われていますが、本当なのでしょうか?運動と非認知能力の関係とは?スポーツ庁の全国体力 ・運能能力、運動習慣等調査有識者委員会委員長を務める中京大学スポーツ科学部の中野貴博教授に解説してもらいます。

運動を通じた小さな成功体験が非認知能力を育む

――非認知能力とはどういうものなのでしょうか?

学力テストや知能指数など、数値で可視化しやすい能力が認知能力と呼ばれます。その一方で「非認知能力」とは、目標を達成するための「忍耐力」や「自己抑制」、「目標への情熱」や「意欲」など、数値で可視化しにくいけれど、子どもが生きるうえで必要な大切な能力のことを指します。他者と協力するための「社会性」「敬意」「思いやり」、情動を抑制するための「自尊心」「楽観性」「自信」なども非認知能力です。

―― 運動をたくさんすると、非認知能力は伸びるのでしょうか? 

幼少期に、仲間と体を動かす体験を多くした子どもは、そうでない子どもより非認知能力が高い傾向が見られることがわかっています。

体を動かすチャンスがたくさんある子どもは、自然と「運動が好き、楽しい」という気持ちを育みます。そして、運動を楽しむ過程で、「私もできた!」という瞬間を体験します。その成功体験が、自己肯定感や有能感、自信、やり抜く力を育むことへとつながっていくのです。 

スポーツは勝ち負けにこだわるだけではなく、相手を認めて称賛するというリスペクトの気持ちや、自分を見つめるという経験ができる点も重要なポイントです。運動は非認知能力を育むうえでとても相性がいいんです。

子どもが運動を楽しいと感じるTOP3

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――子どもはどんなときに運動が楽しいと感じるのでしょうか?

運動を通して非認知能力を育むには、運動が楽しいものと子どもが感じなければいけません。では、子どもはどんなときに運動を楽しいと感じるのでしょうか。運動が不得意な子と得意な子ではどんな違いがあるのでしょうか。調査をもとに紹介します。

 調査概要:2016年に公立小学校13校の児童5235人を対象に調査を実施。17の運動場面を設定し、各場面で運動を楽しいと感じるか5件法(とても楽しい、少し楽しい、どちらでもない、あまり楽しくない、まったく楽しくない)で回答。

調査の結果、子どもが「とても楽しい」と感じる場面のトップ3は以下の通りでした。勝負に勝ったり、上手にできたりほめられたりしたときに、多くの子どもが「楽しい」と感じます。

  1. 運動やスポーツで勝負に勝ったとき
  2. 上手に運動やスポーツができたとき
  3. 上手にできたことを先生や友達にほめられたとき

保護者としては、子どもがどんなときに楽しさを感じるかなど、その子の特徴や様子を見ながら、運動のやり方を柔軟に変えていくことが大切になります。まずは、子どもを運動嫌いにさせないことを大前提に、上手に運動と関われるよう導いてあげてほしいと思います。

体力測定結果と非認知能力の相関関係

――データからわかる、運動と非認知能力の関係とは? 

運動を促進することは非認知能力を育む、ということは、データからも明らかになっています。

調査概要:2017年に、愛知県瀬戸市の公立保育園5園の年少~年長児379人を対象に「非認知能力と体力の関係性」を調査。25m走、立ち幅跳び、ソフトボール投げ、体支持持続時間、握力、反復横跳び、長座体前屈の7項目を測定。21項目の非認知能力がどの程度身についているか、幼児一人ひとりの様子を担任に5段階で評価してもらいました。

調査で使用した5段階評価=中野教授提供調査で使用した5段階評価=中野教授提供

調査結果から、全項目を通じて、体力測定結果が「平均以上の子ども」は非認知能力の合計スコアが高いということがわかりました。

非認知能力と体力の調査=中野教授提供非認知能力と体力の調査=中野教授提供

中でも、「立ち幅跳び」、「ソフトボール投げ」、「体支持接続時間(体を支える時間)」の結果が平均以上の子どもたちは、非認知能力の合計スコアが高い特徴があります。

この3つは、外遊びや体を動かす習慣などがある子が強い種目です。よって、「運動をすることは、非認知能力を育む」ことが数値上でも確認できたことになります。

幼児期の運動で身につく3つの非認知能力とは

――運動によって、特に育まれる非認知能力はなんですか?

非認知能力と一言でいっても、その力はさまざまな要素で構成されています。幼児期は特に、「リーダーシップ」「やり抜く力」「対応力」「自信」など、心理的な要素の影響を受ける非認知能力が育まれやすいと考えてよいかと思います。

プレゴールデンエイジ(3~8歳)には仲間とさまざまな運動にチャレンジして

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―― 非認知能力は何歳からが身につきやすいのでしょうか?

運動のゴールデンエイジといわれる時期がありますが、非認知能力を育むという意味では、その前段階である3~8歳ごろまでのプレゴールデンエイジに複数のスポーツに親しむことをおすすめします。

小学4年生ころになると、運動の好き・嫌いははっきり分かれる傾向があります。そのため、他者からの評価に影響されにくく、自己形成が進む前の低年齢のころから運動遊びを経験すると、非認知能力のアドバンテージを得やすいといえます。

運動が楽しければ、非認知能力は育つ

リモート取材に対応してくれた中野教授リモート取材に対応してくれた中野教授

――子どもにはどんな習い事をさせたらいいのでしょうか?

私自身、幼少期には水泳や体操、ピアノなどさまざまな習い事をしていました。その後は、野球やスキーなどに打ち込みました。中学ではバスケットボール部のキャプテンを務めましたが、その経験によってリーダーシップや協調性が身についたと確信しています。

「子どもにどんな習い事をさせればいいのか?」と悩まれる保護者もいると思いますが、子どものやりたいものを優先させてほしいと思います。「あなたにはこのスポーツが向いている」などと決めてかからないこと。やりたいスポーツが途中で変わっても全く問題ありません。

小さいうちは、できれば個人競技よりも仲間と楽しむスポーツに触れることをおすすめします。

たとえば、縄飛びをするときにも一人でやるのではなく、仲間とともにやってみる。上手な人がやっているのを見て、「○○ちゃんはすごいな」と素直に賞賛する気持ちが芽生えたり、「私も頑張ろう」と意欲が育ったりするのも幼児期ならではです。互いに教え合って励まし合うことで、コミュニケーション力や協調性など、行動面での効果も期待できます。

――非認知能力を伸ばすために親ができることはなんですか?

子どもは本来、体を動かすのが好きなのです。まずは、「運動が好き、楽しい」と感じる体験の場をたくさん与えてください。「うちの子はあまり運動が得意じゃないから」と決めつけずに、子どもと一緒に運動を楽しんでほしいです。

 すでに海外では、運動と非認知能力の関係は避けては通れないものだと考えられています。

運動の楽しさを伝えていくことが親の大切な役目です。身近なお父さんやお母さん、きょうだいと一緒に運動遊びを楽しみましょう。それから、仲間と共に楽しむ体験を重ねていきましょう。

スポーツで素晴らしい才能が開花することを求める必要なんてないです。運動することそれ自体が、子どもの人間形成に大いに役立つものです。

【プロフィール:中野貴博(なかの・たかひろ)】

中京大学スポーツ科学部教授。専攻分野は発育発達学、こどもスポーツ学、体力測定評価学で、「子どもの体力向上」「活動的生活習慣の獲得」が研究テーマ。近年は、現代の子どもたちの運動の価値を示すこと、特に、発育発達過程にある子ども達にとって運動が有する教育的価値や人間的成長を促す重要コンテンツとしての価値について研究を進める。スポーツ庁の全国体力 ・運能能力、運動習慣等調査有識者委員会委員長なども務める。

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小内三奈
小内三奈

ライター・インタビューアー。ビジネス・教育分野を中心に、新聞、雑誌、Webメディア等で執筆中。経営者や教育現場への取材の他、教育書・児童書の書評を執筆。その他、旅行、グルメ等幅広いジャンルに取り組む。好奇心旺盛でキラキラした子ども時代を過ごしてほしいと願い、「今、この瞬間」を大切に育児に励む2児の母。子どもの頃熱中したのはピアノ。4歳から高校1年まで続け、最後の演奏曲はショパンのノクターン。

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