2022.03.23
学びインタビュー 平岡妙子

子育ては笑顔がごほうび テニスの杉山愛さんの母親、杉山芙沙子さん

テニスの世界トップ選手として活躍した杉山愛さんの母親、芙沙子さんは、コーチとして親子で一緒に世界ツアーを回りました。子どもの可能性を引き出すためには、どう接したら良いのか。徹底的に考え抜き、実践してきました。著書「一流選手の親はどこが違うのか」を執筆し、スポーツを通して幼児期の子どもの可能性を育む指導法「スマイルシッププログラム」を開発しています。子どもの力を伸ばすために、親として大切なことを2回に分けてお伝えします。

前編:子育ては笑顔がごほうび 

後編:親は真のサポーターに徹する

全国の「テニススクール プリマステラ」の教室一覧

子どもが胸の内をいつでも話せる親子関係を

――杉山愛さんが小さいころに「テニスをもっとやりたい」と自分から言い出したとき、その気持ちを支えていくために何を大切にされていましたか。

どの親も最初は、子どもにテニスや、サッカー、野球など自分がやらせてみたいスポーツを選びますよね。子どもが好きになってくれるかどうかもわからない。どうやったら継続できるだろうと多くの親が悩んでいると思います。

愛の場合は、テニスが好きで好きでしょうがないという思いがありましたので、それを大切にしました。親がどこまでかかわるのかは、難しい問題ですよね。

――好きでやり始めたけれど、「つまらなくなった」とか、「今日は行きたくない」というときには、どうしたら良いのかでしょうか。

まず、原因を話し合うことですね。もしかしたら、テニスとか野球のコーチとうまくいっていないのかもしれない。友だちとトラブルがあったのかも、などいろいろなオプションを親が持って、問いかけてみてください。そのためには、子どもが自分の胸のうちをいつでも話せるような親子関係を作っておく。そこが大事かもしれないなって思います。

親が自分自身のキャパを超えないように

――愛さんの「テニスをもっとやりたい」という気持ちに応えるために、小2でIMGアカデミー湘南校に通い始めたのですよね。

車で送り迎えできる近くにちょうど開校しましたので、月謝もそれなりにしたけれど、いま私に出来ることは何かを考えて入校しました。もし、親としてどんなサポートができるのかを整理して、子どもとよく話し合うことが大事ですよね。

親自身が自分のキャパを超えてはいけないと思っています。みなさん、子どものためにと頑張りますが、出来ることを見極めてくださいね。子どものためと考えすぎると、自分を見失ってしまうこともあるかもしれません。キャパを超えないところで、サポートすることで、親自身も子どももさらに楽しめると思います。

――愛さんがそのテニススクールを続けられるように、夕ご飯は車で食べさせて、帰宅後に勉強をするなどサポートしたそうですね。

勉強は本人が「宿題をしないで寝るわけにはいかない」って言っていましたので。私は「まぁ、いいんじゃないの」という思いもありましたけれど、愛の気持ちを大事にしました。愛がうつぶせになって勉強をして、私が疲れた身体をマッサージしてあげるなど、サポートできることはいろいろやりましたよ。

とても良いスクールだったのですが、練習時間が長かったので、愛が疲れすぎることも多くなってきました。シャワーをしないで寝ちゃうことも。「そんなに疲れ果てるまで、やる必要はあるの?」と話し合い、練習時間の少ないスクールに変えました。

――子どもの様子を良く見ていたのですね。

心と体の健康が大事。それは子育ての軸としてありました。テニスが上達することも大事ですけれど、何よりも心と体が健康であるための環境を整えようと思っていました。

――世界で強くなるには、名門テニスクラブの方が良かったのではという葛藤もありましたか。

私は世界で活躍させたいと最初から思っていたわけではありません。ともかく健康で好きなことをやってほしい。そして、好きなことを仕事に出来るようになったら、こんな素晴らしいことはないと思っていました。

テニスクラブを変えてからは、とても楽しそうにやっていましたね。楽しみながらやるというのは、私が人生全体で大切にしているとても大きなテーマです。

スランプの時にも子どもの笑顔になる姿が見えた

――ずっと楽しくテニスを続けていた愛さんが、25歳の時にスランプになってしまい、楽しむことができなくなってしまったのですね。

2000年のある夏の日に、アメリカにいた彼女から電話がかかってきて、「もう私はテニスをやめたい。向こうから来るボールも怖いし、何がなんだかよくわからない」と言われました。ダブルスではUSオープンで優勝した年だったのですが、シングルでは大混乱を起こしている様子が見えました。

私もアメリカへ行き、よく話を聞いてみると、どうして良いのかわからずに迷走しているなぁと感じました。それで、「愛ちゃんはテニスを好きでやってきて、やりきったと思う?」と聞きました。するとすぐに、「やりきってはいない。いままでは好きで楽しくて、やらなくちゃということもなかった」と答えました。

「だったら、やりきってみてはどうなの?これからどんな仕事をするにしても趣味でも、楽しいことばかりではないのだから」と提案しました。そうしたら彼女も「そうだね。じゃぁ、やりきってみるよ」と言いました。

「でもママ、やりきってみるといっても、なにをやったら良いのかわからない。この先、うまくなるかどうかもわからない。これからどんなテニスをしたらいいのか、ママには見えるの?」と聞かれました。「見えるよ」と一言だけ、答えました。

――何が見えていたのでしょうか?

どうすればうまくなるのかが見えていたわけではありません。ただ、目の前にいるのは、いままでの私が知っている杉山愛ではない。楽しんでテニスをしていた時代に戻すことが出来たら、愛は笑顔になれると思いました。私が「見えるよ」と言ったのは、あなたを笑顔にする方法をママは知っているよ、という感じでしたね。

――技術的にうまくなる方法が見えていたのではなく、彼女が笑顔でもう一度テニスをしている姿が見えたのですね。

「見える」と「見たい」ということの両方がありましたね。

私の頭の中では、技術をトップレベルに戻すことではなくて、笑顔を取り戻すことが出来たら、結果としてテニスの結果が戻ってくると信じていました。そこからは様々な試行錯誤やけんかなどいろいろとありました。でも2人で、そして「チーム愛」で積み重ねた結果、シングルでも世界トップ8の成績を残せました。

笑顔が少しずつ戻る 「笑顔がごほうび」だった

笑顔で話をする杉山愛さんと芙沙子さん(左) 提供:一般社団法人次世代SMILE協会笑顔で話をする杉山愛さんと芙沙子さん(左) 提供:一般社団法人次世代SMILE協会

――彼女自身を信じる気持ちでしたか?

この子の笑顔を取り戻したいという気持ちですね。苦しくても良い練習が出来た、という積み重ねで、笑顔が少しずつ戻ってきました。笑顔が見えたときが、私にとってのごほうびでしたね。

――「笑顔がごほうび」という言葉は素晴らしいですね。

そうですね、でもそれが簡単に続くわけではありません。迷いは続きましたし、それに共感しながら、また「何がそう悩ませるのだと思う?」「いつからそうなったと思う?」とよく話し合いました。

「なんでできないのっ?」と声を荒らげることはタブーだし、それは私の子育てにはありませんでした。この話し方が彼女に通じないなら、もっと違う話し方がいいかなといろいろと試しましたね。

子育ては共に育つ「共育」

――子どもの話をよく聞いてあげるということですか?

「聞いてあげる」という言葉は、上から目線ですよね。心の中にあるものを吐き出せていないなら、「愛の言っていることはこう聞こえるけど、これで正しい?」とフィードバックする。心の奥にあるものを引き出すために、お互いの思いを確認する。私の言っていることが手元で1度狂うと、2人の間の違いがどんどん広がってしまいますので。

愛を生んだときに私は、26歳の女性でしたが、ママとしては0歳ママです。子育ては「教育」ではなくて、「共育」だと思っています。だから、愛を育てることで私も成長する。子どもと共に育ってきたということですね。

【プロフィール:杉山芙沙子(すぎやま・ふさこ】
医学博士。順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了。元プロテニスプレーヤー杉山愛の母でありコーチ。著書に「一流選手の親はどこが違うのか」(新潮社)、「子どもの可能性を伸ばすスポーツ共育」(フレーベル館)など。一般社団法人次世代SMILE協会代表理事、渋谷スポーツ共育プラザ&ラボ “すぽっと” 代表として、次世代を担う子供たちとそのアントラージュの共育(共に育つ)に尽力している。

写真撮影:伊ケ崎忍

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全国の「テニススクール プリマステラ」の教室一覧

様々な競技を総合的に練習するスポーツスクール「biima sports」(テニスあり)

平岡妙子
平岡妙子

朝日新聞社に記者として入社し、社会部、AERA編集部や武蔵野支局長など。教育担当が長く、主に小中学校の学力調査や受験業界などを取材。小学生の時には合唱団で歌っていました。学校の取材で子どもの歌声を聞くと、涙腺がすぐゆるむ。大学生の長男と小学生の長女がいます。