2022.03.23
学びインタビュー 平岡妙子

親は真のサポーターに徹する テニスの杉山愛さんの母親 杉山芙沙子さん

テニスの世界トップ選手として活躍した杉山愛さんの母親、芙沙子さんは、スポーツを通して子どもを強くする指導法を伝え続けています。錦織圭さんや石川遼さんなど一流選手の親に話を聞き、早稲田大学大学院・スポーツ科学研究科でコーチングを学びました。子どもの力を伸ばすために、親として大切なことについてお話を伺いました。

前編:子育ては笑顔がごほうび 

後編:親は真のサポーターに徹する

全国の「テニススクール プリマステラ」の教室一覧

成功している人に共通するものとは?

――スポーツを通して子育てをする中で、一流選手の親はどう子どもと接してきたのか、いろいろな方にお話を聞いたのですね。

コーチングを学んだきっかけは、親が強くなるためにプレッシャーをかけるようなやり方をしなくても、一流選手は育つことを、これから続く親世代に伝えたいと思ったからです。9年間、愛のコーチをして親子で取り組んだことを伝えたい。

私もジュニアのテニスコーチをしている中で、多くの親子を見てきました。自分の子どもをアスリートに育てたいと思って失敗している人はいっぱいいます。成功している人に共通しているものは何かを知りたかったのです。

トップアスリートは精神力と知性がカギ

――成功している人に共通することは、どんなことですか?

2000年に愛のツアーで世界を回り出した頃は、アスリートは記者会見でも、「次も頑張ります」というぐらいで、自分の気持ちを外に出すことはあまりありませんでした。でもスポーツの素晴らしさは、競技のメダルや結果の数字にフォーカスすることだけではないと思っていました。

愛とのツアー生活を終えて、2009年に日本に戻ってきたときに、テレビをつけたら、石川遼君や宮里藍さんがインタビューでとても立派な発言をしていました。人間力の素晴らしさにハッとさせられました。彼らを世界に押しやったものは何なのか。それはスキルやフィジカルばかりでなく精神的なものと、知的なものではないかと思いました。トップアスリートを作るカギでもある。それを残したいと思いました。

――テニスの錦織圭さんは、小さな時からつき合いがあって、ケガや復活の相談役をまかされたんですね。

彼が19歳で一番迷ってつらいとき、ケガをして手術をするかしないかという時代でした。手術したあと、どういうプレーにしていくのかなどを一緒に考えました。リハビリコーチとしての役割を担いました。

――錦織さんは、どこが他の選手と違ったのでしょうか。

小さいときに圭くんを見たときに、彼はフィジカルもすごかったのですが、本当に楽しそうにプレーをしていました。型にはまっていない。こんな打ち方をするのかという驚くこともありましたし、新しいスタイルに挑戦することを楽しそうにやっていました。

ですから、ご両親に「好きなようにやっていると、勝てない時もあるかもしれない。もっとここを磨いた方が良いなどと言う人が現れてくる。でも、全日本で優勝するとか目の前のメダルを取っていくことではなくて、彼がのびのびと出来るようにした方がいいですね。圭くんには、大きな器を用意してくださいね」とお伝えしました。

――それが世界で活躍することにつながったのですね。目標をどこに置くかが大事だということでしょうか。

目の前の試合に勝ちたいという目標は大事だけれど、最終的にどこに向かうのか、人生で何をしたいのかが大切です。好きなことも仕事も、結局は人生のツールだと、私は思います。

アスリートのジュニアが「オリンピックに出られるような選手になりたい」と言うことがよくあります。そのときに、「それは良い目標だね。でもオリンピックに出るためには、スキルを磨くだけではなく、人としても磨くことがたくさんあるよ」と教育できる指導者がいたら良いと思います。スキル以外の精神力や知性を磨いていくことが必要です。アスリートでいられる時間は、本当に短いのですから。

強い子の家庭はコミュニケーションが深い

 杉山愛さんの引退試合で話をする杉山芙沙子さん(右) 提供:一般社団法人次世代SMILE協会

杉山愛さんの引退試合で話をする杉山芙沙子さん(右) 提供:一般社団法人次世代SMILE協会

――どうやって生きていくのかにつながるのですね。ゴルフの石川遼さんは、メンタルが強いということですが、遼さんの母親に話を聞いて、何が違うと思いましたか。

石川遼君ばかりでなく、宮里藍さんのご両親にもお話をうかがいましたが、みんなに共通していることは、親とのコミュニケーションがすごくある選手が多いと思います。お父さんともものすごく対話していますよね。

強い選手が出る家庭は、その競技の話をとても楽しく家族でしていることが多いですね。その子の軸ができる小さな時に、どれだけ良く話し合っているのか。子どもの話を良く聞き、お互いにリスペクトし合う関係性が一番大事だと思います。

運動した後に気持ちを発表し合うと非認知能力が高まる

――一流選手は専門競技の開始年齢が早く、いろんなスポーツをやっていたことも共通点なのですね。

いろんなスポーツをやることはとても素晴らしいです。脳の刺激する場所がそれぞれ違いますし、道具を使うものや使わない競技にも取り組むことによって、身体の鍛えられる場所が違ってきますから。

私は「スマイルシップスポーツプログラム」というスポーツを通した幼児教育のプログラムを開発しました。1日のプログラムの中でもいろいろな運動に取り組みます。でも、一番大事なことが、運動した最後に「サークルタイム」という時間です。運動したあとに、感じていることや気持ちをみんなで伝え合う時間です。

――運動した最後に、感想を発表し合うのですか?

運動して気がついたことや友だちの様子などを話します。身体を動かすと脳の前頭前野が刺激されるので、興奮して子どもたちは話がしやすくなります。

「テニスボールを渡した人だけ話してね。あとの子は聞いていてね」とルールを決めて順番に友だちの話も聞きます。

「話す力」とともに「聞く力」というコミュニケーション力が高められます。非認知能力が高まるのです。数値では測れないけれど、生きていくために必要な非認知能力を醸成することに、スポーツはとても役立ちます。

――スポーツが非認知能力を高めるのですね。

やったことを振り返って発信することで、予測力、人を観察する力も磨かれます。4歳ぐらいの子でも、「友達の良いところを発表して」というと、「○○ちゃんは最初はできなかったけど、頑張っていたら楽しそうにできていました」とか、周りをよく見て話ができるようになります。友達の気配、予測も感じられるようになります。

――身体を動かしたことで、様々な力が発揮されるんですね。

人のことを褒められる力が身につく。それができるようになると、自分自身も、ありのままの自分で良いんだということが、だんだん心に染みてくるんです。楽しさを感じると、もう一度やりたくなります。非認知能力の醸成には、スポーツが一番良いと、私は思っています。

ほめるのではなくて事実を伝えるだけでいい

――自己肯定感を高めるためには、重要なことですよね。

「自己肯定感を高める」という言葉は、少し違和感がありますね。自分の良いところも、つたないことも受け入れるという受容力が合った方がいいですよね。

――「高める」という言葉に違和感があるのですか。

一生懸命高めなくても、ありのままの自分でいいんです。自己肯定感は、高めるものではなくて、いまの状態を認めるものだなと思いますね。

――人をほめることが、ありのままの自分でいいと感じることにつながるのですか。

ほめるというよりも、その子の事実を言う。「あいさつができたね」というような事実を言っただけ。見たこと、ありのままのことを、伝えるだけでいいのです。

――どうやったら自分を認められるのか?と落ち込んだときに思うことがありますが…。

できたことを伝え合うだけでいいんですよ。「できたからほめる」のではなくて。結果を求めないっていうのかなぁ。なんだか座禅の世界みたい(笑)。

――愛さんも、禅の言葉で「遊戯三昧(ゆげざんまい)」という言葉が好きだとおっしゃっていましたね。最後に子どもにスポーツで強くなってほしいと願う親へメッセージをお願いします。

「真に寄り添う」ということですね。スポーツだけでなく、ピアノなどの芸術もそうですけど、子どもの気持ちを良く聞いて、サポートすること。親が主体になって「うまく出来るように」と、押したり引っ張ったりすると何かがずれていく。親は真のサポーターに徹するということではないでしょうか。主体は子どもですからね。

――素晴らしいお話をどうもありがとうございました。

【プロフィール:杉山芙沙子(すぎやま・ふさこ】
医学博士。順天堂大学大学院医学研究科博士課程修了。元プロテニスプレーヤー杉山愛の母でありコーチ。著書に「一流選手の親はどこが違うのか」(新潮社)、「子どもの可能性を伸ばすスポーツ共育」(フレーベル館)など。一般社団法人次世代SMILE協会代表理事、渋谷スポーツ共育プラザ&ラボ “すぽっと” 代表として、次世代を担う子供たちとそのアントラージュの共育(共に育つ)に尽力している。

写真撮影:伊ケ崎忍

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全国の「テニススクール プリマステラ」の教室一覧

様々な競技を総合的に練習するスポーツスクール「biima sports」(テニスあり)

平岡妙子
平岡妙子

朝日新聞社に記者として入社し、社会部、AERA編集部や武蔵野支局長など。教育担当が長く、主に小中学校の学力調査や受験業界などを取材。小学生の時には合唱団で歌っていました。学校の取材で子どもの歌声を聞くと、涙腺がすぐゆるむ。大学生の長男と小学生の長女がいます。