2022.03.30
学びインタビュー 平岡妙子

テニスで強くなるには 呼吸法でイメージトレーニング 杉山愛さん

夢中の力


テニスで世界トップ選手として活躍した杉山愛さんは、強くなるために毎朝毎晩、ルーティンワークを続けていました。一番大事なものは呼吸法。うまくいくイメージを持つことで、テニスで世界トップ10に入る活躍をしました。6歳の男の子と0歳の女の子の母親として子育てにもイメージトレーニングを生かしています。後編では、強くなるために大切なことと子育てで大切にしていることを聞きました。

前編:25歳のスランプ 母が娘を信じたひと言に救われた

後編:テニスで強くなるには 呼吸法でイメージトレーニング

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負けることから学ぶ

―25歳で大スランプに陥ったそうですが、いま思い返すとなぜあのとき崩れて、その後何が変わったのですか?

25歳までは感情に揺さぶられて、勝てば天国負ければ地獄みたいに、結果に一喜一憂していました。スランプ後は、テニスのとらえ方がまったく変わりました。負けたとしても、自分の力を100%出せたときには、何が足りなかったのかがすごく明確にわかるようになりました。その課題を次にどうしたら良く出来るか、と自分の宿題としてとらえられるようになり、実力があがっていきました。

――負けることも大事なのですね。

一番情けないのは、自分の力を100%発揮できずに負けること。それは自分に負けてしまうことなのです。それでは何の収穫にもならない。負け方はすごく大事です。

勝負なので必ず白黒がつきますが、100%の力を出せたのか。やるべき事をやったのかと自分に問いかけていきました。そうすると悔いの残らない試合が積み重なっていき、ランキングも面白いようにあがってきましたね。

――スランプで崩れたときは、負け方の何が良くなかったのでしょうか。

やるべきことをやらない。具体的に言うと、勝負しないといけないところで怖がって相手にチャンスを与えてしまうとか。だったら、やるべき攻撃をしてミスした方がまだ良い。

毎日のルーティンワークで心を整える 

――自分の最大限を出せたかどうか、ですか?

自分との向き合い方が大切になってきます。そのために、日々のルーティンワークを大事にしました。自分の心と体が整っていくルーティンワークづくりを始めました。

私は海外の選手から比べると、体格的には恵まれていないのでパワーもない。じゃぁ、自分は何で闘うのかという自分の強みを見つめ直すことも大事です。反応の早さや足の速さ、冷静さなど、どこか上回っていないと勝てない。そのために、自分の強み探しと、強みを100%生かせるルーティンワークをしました。朝起きてから寝るときまで、やることを決めました

――どんなルーティンワークを取り入れたのですか?

まずは呼吸法です。毎朝、呼吸しながらイメージトレーニングして、心を整えます。それから身体をだんだん起こしていって、動ける身体作りをする。その作業を毎日、職人のようにしていました。自分の身体を使った実験ですね。トライ&エラーで、ルーティンワークを作りあげました。

初めて本当のプロフェッショナルになったと感じたのは、スランプになってからですね。意識改革をして、人としてもそこから成長させてもらったなと思います。

――心が整っていないと、勝負で自信を持って攻められないということですか?

毎日ルーティンワークをしてベストを尽くして、準備をする。やれることをちゃんとやらなかったら、不安が残るじゃないですか。不安をどれだけ消していけるかが大事でしたね。

――野球のイチローさんやラグビーの五郎丸さんなど、プロの選手にはルーティーンがそれぞれあるのですね。

整え方は人それぞれ違います。自分に合った心の整え方や元気になりやすい方法は、スポーツ選手でなくても重要なのかなと思います。私は20~30個はルーティンワークがありました。

呼吸法で良いイメージを描く

――その中で、自分にとって大切なものを一つあげるとすると何ですか?

呼吸法ですね。いまでも呼吸法だけは続けています。心を整えて、良いイメージが持てないと、なかなか現実に良いことが起きません。

深い腹式呼吸をしながら、躍動感あふれるテニスが出来て、ポイント取って、ガッツポーズしている良いイメージを繰り返し持ちました。選手時代は、毎朝毎晩30分やっていました。いまは子育てで朝は忙しいのですが、寝る前は息子を寝かしつけながら、呼吸法をしています。

――ネガティブになりやすいのですが、ポジティブなイメージを保つコツはありますか?

自分がニコニコ笑って仕事しているイメージを持ったらどうですか。子どもの熱が出ているときには、元気に遊んでいる姿をイメージします。自分の心が落ち着いてきます。

イメージトレーニングで2人の子も安産

――イメージトレーニングも、訓練すればうまくなるのでしょうか?

人って失敗したことの方が記憶に残りやすいんですよ。だからこそ、良いイメージを上塗りする感じですね。自分を信じたもの勝ち(笑)。

子どもを出産したときにも、安産になってスルッと生まれて、みんなに喜んでもらうイメージを抱いていたらその通りになりました。

――訓練を繰り返すことで、良いイメージを作れる力がついてきたんですね。

2人目の子も、このイメージトレーニングで高齢出産でしたがスルッと生まれましたよ。

――46歳で2人目のお子さんが産まれたばかりですよね。おめでとうございます。

ありがとうございます。1人目のときには不妊治療をしていたので、授かるって大変だなと思っていました。2人目の妊娠は、予想外の自然妊娠だったんですよ。だから妊娠が発覚したときは、まさかと思って、椅子からころげおちるぐらいビックリしました。本当にありがたいことですね。長男が妹を欲しがっていたので、そんなイメージを抱いていたことも良かったのかもしれません(笑)。本当にかわいがってくれて、それを見ているだけで幸せです。

――お子さんには、習い事をさせていますか?

長男は6歳で、テニスは週1回、それ以外にダンスを始めました。踊るのが好きなので、ヒップホップを習っています。ダンスは楽しいですね。私も一緒にやりたいと思うぐらい(笑)。あとは公文をやっています。

――親として心がけていることは何ですか?

ちっちゃいときにのめり込めるものを見つけられる子もいれば、大人になってから出会える人もいる。興味を示す時期は人それぞれなので、好きだな、楽しいなと思えるものを見つけてあげられたらいいなと思います。

子どもの心に入る言い方を心がける

――息子さんがテニスを習っていると、いろいろと指導したくはなりませんか?

コーチにお願いしているので、集中してやってほしいというだけですね。技術的なことは、もっとこうした方が良いよ、と気がつけば言うぐらいです。上から厳しくは言わないように、「こうやったらいいんじゃない」と、彼の心に落ちやすいような言い方を心がけていますね。

――怒ってしまうことはありますか?

宿題をやっていない時などは、「イライラしない、イライラしない」と自分に言い聞かせながら、イライラしてますけどね(笑)。でも怒りはしません。母も怒らない人でしたので。母は感情的に物事を言う人ではなかったです。それがベースにあるかと思います。

公文は毎日宿題が出て、コツコツやらないと効果が出ないので、ゲームのように「何時までにやったら何ポイントあげる」など工夫はしています。息子はゲームが好きなので、午前8時前に公文を終わらせたら、ちょっとやる時間を増やしてあげるとか、だらだらやっていたら、その分ゲーム時間を差し引いたりしていますね。

――子育てで大事にしたいことはなんですか?

息子が6歳なので、私もママになって6歳。子育てを通して私も一緒に成長したいですね。良いところだけではなくて、失敗した姿も丸ごと見せたいです。

子育てには正解がないので、そのときのベストを選択していけばいい。もしそれが失敗だとあとでわかったとしても、そのときは良いと思ったのだからと自信を持っていればいいと思います。

――運動はやってほしいですか?

スポーツはいろんなことを学べるのでやってほしいですね。テニスは自分の感情や緊張のコントロールが学べます。あとは、レジリエンスと言われるやり抜く力。諦めない気持ちがあれば、何があっても乗り越えていけると思うので、スポーツで集中してやり抜く力を身につけてほしいです。

失敗も大事 することを楽しむ

――失敗するのがかわいそうと、親は思ってしまいがちですよね。

「転ばぬ先の杖」ではなくて、間違えたり失敗したりすればいいと思います。親にレール敷かれるのって、イヤですよね。自分で悩んで考えて答えを出した方が良い。

私も20代半ばからのスランプ以降に「ダメだったらダメでいいじゃん」って思えるようになりました。開き直って、失敗も怖くなくなりました。

――最後にスポーツをやっている子どもたちへのメッセージをお願いします。

楽しいと思う心がとても重要です。楽しいと技術もどんどん習得していけます。でもいくら大好きなことでも、苦しい時間や大変な時期もある。

私の好きな言葉で、「遊戯三昧(ゆげざんまい)」という禅の言葉があります。「やることそのものを楽しむ」という禅の言葉です。

「楽しもう!」ってちょっと自分のスイッチを変えるだけで、劇的な変化が起きます。自分の心がけ一つでガラリと変わります。いやになることがあったとしても、「今日は自分から楽しんでみよう」って思ってみると、そこから何かクリアできるようになる。

大変なときこそ、「遊戯三昧」を思い出して欲しいですね。

プロフィール:杉山愛(すぎやま・あい)
4歳でラケットを握り、15歳で日本人初の世界ジュニアランキング1位に輝く。17歳でプロになり、グランドスラムでは女子ダブルスで3度の優勝と混合ダブルスでも優勝を経験し、グランドスラムのシングルス連続出場62回は女子歴代1位の記録。2011年に結婚、2015年長男、2021年長女を出産。現在は情報番組のゲストコメンテイターやテニス解説などで活躍。

写真撮影:横関一浩

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様々な競技を総合的に練習するスポーツスクール「biima sports」(テニスあり)

平岡妙子
平岡妙子

朝日新聞社に記者として入社し、社会部、AERA編集部や武蔵野支局長など。教育担当が長く、主に小中学校の学力調査や受験業界などを取材。小学生の時には合唱団で歌っていました。学校の取材で子どもの歌声を聞くと、涙腺がすぐゆるむ。大学生の長男と小学生の長女がいます。