2022.03.29
学びインタビュー 桜木奈央子

夢中からすべてが始まる 世界的イリュージョニストのHARAさんに聞く

夢中の力

世界を舞台に活躍するイリュージョニストのHARAさん(31)は、奈良県の小さな村でマジックを独学で習得し、18歳の時にラスベガスでの世界大会で日本人初のグランプリを受賞。現在も世界25カ国以上のショーなどで人々を魅了しています。HARAさんが世界に飛び出した原動力、子どもの夢中の伸ばし方、好きなことを仕事にする秘訣などについて話を聞きました。前後編でお届けします。

前編:「子どもの夢はできるだけ大きく」奈良の秘境から世界的イリュージョニストのHARAさん

後編:夢中からすべてが始まる 世界的イリュージョニストのHARAさんに聞く

「夢中」や「好き」で本当に食べていける?

――HARAさんみたいに子どもがなにかに夢中になってくれたらうれしいけど、将来それが仕事にできるかどうかなんてわからないから勉強もさせなきゃ…と親としてモヤモヤします。

むしろ、これからは好きなことじゃないと仕事にできない時代ではないでしょうか。時代が激変する中で、今、安定だといわれる職業が5年後10年後にあるかどうかわからないですしね。

僕は5歳の時にマジックに出合って、そこからすべてが始まりました。最初は兄妹や学校の友達にマジックを見せていたのが、気づいたらどんどん広がって、今は世界中のたくさんの人に見てもらえるようになりました。

――そこまで大きく広げることができたのはなぜだと思いますか?

なにかに夢中になったり好きになった「思い」が起点となって大きく広がっていきます。僕はその「思い」をとても大切にしています。

子どもが夢中になることや好きだと感じる思いを、ちゃんと形にしていくことが大事なのではないでしょうか。もし子どもがなにかに夢中になっていたら、親が「おもしろそう!」って言うだけで、子どもは「こういうところがおもしろいんだよ」と話したくなります。そうやって一緒に楽しむことができたらいいですよね。

――子どもの「思い」を親も大切にするということですね。

大人は子どもと一緒に過ごすことで、もう一回「無限の可能性のある子ども」をやり直せます。だから、親が楽しそうに夢の話をするのもいいですね。「お母さんはこんな勉強がしてみたい」とか「そば打ちをやってみたい」とか、なんでもいいです。

子どもにはみんな夢ややりたいことがたくさんあると思います。でも大人がいろんなことを強制するから夢が消えてしまう。夢中や好きという思いをずっと大切にしていけたら、結果的にそれで食べていけると僕は思っています。

――マジックのように答えのないものに夢中になって、それを続けるにはかなり努力が必要でしたか? 

まったく努力したとは思っていません。僕の場合は身近にマジックを教えてくれる人もいませんでしたが、それがかえってよかったと思っています。

――教えてもらわなくてよかったとは、どういうことでしょうか?

子どものころ、世間のマジシャンがどういうことをしているのかの想像がつかないから、自分にとって最高だと思うものを突き詰められたからです。もし僕にマジックの師匠がいたら、「師匠に認められたからもういいか」と途中でやめていたかもしれません。

教えてくれる人がいなかったから、どんどんアイデアとバリエーションが出てきたし、正解がないからたっぷり時間を使って自問自答できたと思っています。

――答えがないのが逆にいいということですね。

今でも、どうしたら最高のマジックができるかを常に考えています。100年後のマジシャンがやるならどういうやり方をするのかな?と想像したり、終わりがないからおもしろいし可能性が無限にあると感じます。一生解けないパズルをわくわくしながらやっているみたいな感じです。

だから今でも日々壁にぶち当たるし、失敗もたくさんしています。

壁にぶつかったときに足りないものがわかる

――壁にぶつかったとき、HARAさんはどうやって乗り越えるのですか?

高校生のときに挑戦したアメリカの世界大会で、技術点は満点だったのですが、審査員に「あなたのマジックはエンターテイメントではない」と言われて惨敗しました。そのとき、自分はマジック以外のものを学ばなければいけないと感じました。

英語がしゃべれないから「やっぱり英語勉強しておいたらよかった」、お金を使いすぎたことから、「数学もちゃんと勉強しておけばよかった」と後悔して、それ以降は少し勉強もするようになりました(笑)

――やっと勉強の話が出てきました(笑)

あとは、ダンスを習ったり演劇を学んだりしました。いちばん参考になったのはフィギュアスケートです。フィギュアはスポーツだけど表現やアートの要素が強く、採点方式もマジックと似ているんです。

――技術を合わせてひとつの世界を表現するという共通点ですね。

フィギュアの録画を何度も見て、すべての演技構成を分解して研究しました。観客の脳裏に残すために「自分をどうあざやかに魅せるか」を考えました。

最初アメリカに行ったときに感じたのは、金髪のイケメンマジシャンがタキシードで華やかにマジックをしていて、かたや僕は体も小さいし、この中で同じようにタキシードで舞台に上がってもダメだなということでした。人真似じゃなくて、自分自身を拡張してあざやかに魅せられる方法を考えないと。

そこで、衣装は日本人だからこそ和服だと思い、実家にあったおばあちゃんの赤い襦袢(じゅばん)を着てみました。袖が長いと腕が短く見えてしまうことに気づいて、袖を短く切りました。そして、体が小さいのは、ポーズをとるときに遠くを見ることで大きく見せる工夫をしました。袖を短くしたのは荒川静香さんの衣装を、ポーズの取り方は高橋大輔さんの本を参考にさせていただきました。

――フィギュアからたくさんのことを学ばれたのですね。

自分のマジックをエンターテイメントにしていくためには、まずありのままの自分を知ることが必要でした。自分の短所ぜんぶ書き出して、それをよく見せるためにはどういう方法があるのかをひたすら考えて…。それをすべて試していって、18歳のときにラスベガスの大会で優勝することができました。

マジックで表現したい「和と自然」の原点

――他にはどんな工夫をしたのですか。

たとえば、それまでは普通にトランプを捨てていたのですが、ラスベガスの大会では「日本の自然」を意識して、トランプを桜の花びらに見立てました。自分の体が桜の木になったように意識し、花が咲いて満開になった喜び、桜の花が散るようにトランプを散らせてその切なさを表現しました。

――頭の中のイメージの世界をマジックで表現するということですね。

僕は山で育ったので、自然が唯一のエンタメでした。夜になるとテレビも見せてもらえないから庭にダンポール敷いて寝転がって、星を見ました。裏山に蛍も見に行きました。春には桜の木の下でウグイスの鳴き真似をして、「あ、ウグイスが応えてくれた」と感じました。

そんな子ども時代の思い出をプロジェクションマッピングで表現したのが「IBUKI(いぶき)」という作品です。心の中にあるいちばん大切な思い出、春に桜の下でウグイスと遊んだ記憶を、マジックと映像で表現して世界中の人に届けたいという思いがあります。

画家が絵筆を使って絵を描くように、僕はマジックというツールを使って見せたい世界を表現しているんです。

夢を叶えるために「紙に書いて共有する」

――HARAさんの次の夢はなんですか? 

宇宙です。

――宇宙?

宇宙に行って、宇宙から地球見て、そのイメージでマジックショーをやりたいという夢です。これはどのインタビューでも言っています。夢は人に伝えたほうが実現するので。自分のアイディアやインスピレーションを独り占めせず、できるだけたくさんの人に伝えたり、書いたりしています。

――たしかに書いておくと、人の目に触れるし、その分夢が叶う可能性は上がりますよね。

小学2年生でマジシャンになると宣言して夢をノートに書いたときから、今も常にノートを持ち歩いてひらめいたことをメモしています。言葉が降りてくることもあるし、広告などで見た好きな言葉などを書き留めています。書かないとどんどん忘れるからすぐに書きます。

形にしたいと思ったアイディアは、ホワイトボードに落とし込んでその日のうちに企画書にします。自分のイマジネーションを言葉にして、紙に書くと他人に共有できます。共有することで巻き込まれてくれる人が増えて、夢がひとつのプロジェクトになります。

――HARAさんはそうやって夢を叶えているのですね。

自分のアイディアやインスピレーションを恥ずかしがったり、うまくいかなかったらどうしようと自分の中で考えていたりするだけでは形にならないし、夢も叶いにくいですよね。

マジックと一緒で、帽子に鳩を仕込んでおかないと鳩は出てきません。せめて、卵だけでも入れておかないと鳩は生まれないのではないでしょうか。

【プロフィール:HARA(はら) 】

イリュージョニスト、イリュージョンクリエイター。1990年生まれ、奈良県十津川村出身。2009年にラスベガスのマジック世界大会で日本人初のグランプリを受賞。自身の半生を基にした青春小説『マジックに出会ってぼくは生まれた―野生のマジシャン HARA 物語-』(小学館)が発売中。

写真撮影:桜木奈央子

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桜木奈央子
桜木奈央子

写真家、ライター。2001年からアフリカ取材を続ける。著書『世界のともだち ケニア』『かぼちゃの下で』。雑誌や新聞にフォトエッセイや書評を執筆。「cinema stars アフリカ星空映画館」代表。最近の趣味は息子2人のサッカー撮影。小学生の頃は本の虫、星野道夫さんに憧れ17歳でひとり旅に。

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