2022.04.27
学びインタビュー 北川サイラ

習い事の辞めどきを見極める方法は? 子育て中の陸上ハードル・寺田明日香さん

「夢中の力」

佐藤峻一さん提供株式会社Brighter Hurdler提供(2018年撮影)

陸上女子100メートルハードル前日本記録保持者で東京五輪代表の寺田明日香さん。2013年に陸上競技を引退した後、7人制ラグビーに転向し、2019年に陸上競技に復帰しました。2014年に現マネジャーの夫・佐藤峻一さんと結婚し、 長女(7)を出産。小学1年生の母親でもある寺田さんに、子育てで大切にしていることや、子どものやる気を引き出す方法について聞きました。前後編の2回にわけてお届けします。

前編:好きなことを仕事にするには? ラグビーから陸上ハードルに復帰した寺田明日香さん

後編:習い事の辞めどきを見極める方法は? 子育て中の陸上ハードル・寺田明日香さん

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フィギュアスケートやチアダンス 様々な習い事に挑戦する長女

オンライン取材に対応してくれた寺田明日香さんオンライン取材に対応してくれた寺田明日香さん

――寺田さんの娘さんは習い事をしていますか?

現在は、フィギュアスケート、チアダンス、ピアノ、水泳、体操とバスケットボールを習っています。英語学童に週4回、学習塾にも週2回通っています。

――すごい!たくさんしていますね。 

とりあえずやりたい!と言ったものは全部やらせています。その中から自分に合ったものを見つけてもらえたら嬉しいです。

――たくさんのことに挑戦していますが、習い事の辞めどきはどのように見極めたら良いと思いますか?

ちょうど今、娘は水泳を辞めたがっているのですが、「バタフライまでできたら辞めてもいいよ」と伝えています。

「泳ぐのが嫌」だけで辞めるのは無しにしていて、ここまでやろう」という目標と期間を事前に決めるようにしています。その方が、辞めたときに本人も納得できるし、目標まで頑張れた!と思えます。そして、バタフライができれば辞められるので、「早く泳ぎを習得しよう!」と、辞めたい口実をやる気に変えられますよね。

――最近は習い事をたくさんしている子どもが多く、好きなものがわからなくて、なかなか絞れないと悩んでいる親の声も聞きます。

娘もそうですが、そのうち中学受験のタイミングなどで習い事を選ばないといけない時期がくると思います。そのときは選別をしちゃうけど、好きなものがほかにもあるなら後から2つ、3つに増やせばいいかなって。なので、そのタイミングが訪れるまでは、親はあんまり焦らず、硬く構えなくていいと思います。

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習い事は、結果よりも過程に目を向けよう

女子100メートル障害予選で準決勝進出を決めた寺田明日香さん(中央)=2021年7月31日、国立競技上(C)朝日新聞社 女子100メートル障害予選で準決勝進出を決めた寺田明日香さん(中央)=2021年7月31日、国立競技上(C)朝日新聞社 

――習い事を通して娘さんに身につけてほしいことは何ですか?

一つ目は、自分の好きなものを見つけて、そこで目標をつくって、自分なりに頑張る経験をすること。二つ目は、好きなものを通して出会った人たちと上手にコミュニケーションをとれるための術を身につけることです。

 子どもにいろんなことを期待して、結果を求めてしまうのが親なんですよね。だから習い事も学校の勉強も結果がでなかったら「何やっているの?」と言ってしまう。

でも子どもなりにいろんなスキルを身につけているんですよね。友達や先生との人間関係だったり、大会に出場して緊張感を味わったり、どうしたら自分の能力を発揮できるかと一生懸命考えたり。「めっちゃ失敗してんじゃん!でもできるようになってきたじゃん!」という感じで、失敗を恐れずに挑戦できるようになる過程もすごく大切ですよね。

全てが子どもを育てる要素になるので、結果よりも過程の中で得られたものに目を向けた方がいいのかなと。私はそっちの方がはるかに大事なんだと思えるようになりました。

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子どもが宿題をしてくれないときは? ラグビーでの経験が子育てに役立つ

――前編で、ラグビーを通して得たコミュニケーション能力が子育てにも活きていると仰っていましたよね。具体的にはどういうことでしょうか?

ラグビーは団体競技なので、仲間が気持ちよくプレーできるように、相手のテンションが下がらないような伝え方を意識するようになりました。子育ても同じだと思うんです。 

例えば、子どもに注意するとき、理由を言わずにその事象だけを取りあげて怒ると、子どもは「今何で怒られたんだろう?」と思いますよね。子ども自身が解釈できないと理解できないので、怒る理由をかみ砕いて、どうしてそれがダメだったのかを丁寧に説明するようにしています。

――宿題をなかなかしてくれないときに怒ってしまう親もいます。寺田さんは、どのようにお子さんに声を掛けていますか?

「早く宿題しなさい」ではなく、「今日の宿題はなんだろうなぁ~?ママも一緒にやりたいんだけどなぁ」と言うようにしています。そうすると娘は「ママは宿題、わからないから」と言ってくるので、「じゃあ見せて?」と聞きます。

娘は自分の方がママよりも勝っているものがあると知ると、やる気を出すタイプなんです(笑)。だから私も隣に座って、一緒に宿題の質問を解くようにしています。「ここ分からないから教えてくれる?」と聞くと、向こうも教えたくなって盛り上がるんです。質問の答えもわざと間違えて、娘が「もう、ママそこ違う!」という感じで乗ってくれますね(笑)。

早稲田大学の通信制で児童心理を学んだことがあるのですが、子どもは純粋に競争したり、楽しんだりする環境を与えた方がはかどるように思います。

――娘さんも寺田さんが一緒に隣に座って宿題をしてくれるので楽しいんでしょうね。でも子どもってすぐに飽きて集中力が続かないですよね。

そういうときは、ちょっかいをかけて邪魔します。娘の体をこちょこちょしたり、「ママと遊ぼうよ」「『鬼滅の刃』見ようよ」と耳元でこそこそ話しかけたりします(笑)。そうすると「止めて、今宿題やっているんだから!」と娘が怒って、手もとの宿題に集中力が戻るんです。いろいろと試しながらやっています。

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夫に子育てに協力してもらう秘訣とは

佐藤峻一さん提供株式会社Brighter Hurdler提供(2019年撮影)

――子育てと競技生活の両立で苦労することはありますか?

今は練習を週4日に絞っています。練習で疲れているときの家事はきついですね(笑)。ただ、家事の原則としては、自分にしかできないことは自分がする。どっちでもいいことは夫と話し合って決めています。

栄養のことはアスリートの自分の方が分かるので、食事は私が担当しています。その代わり、夫には娘の習い事の送迎や、学校に必要な準備、土日の公園遊びなどをお願いしています。彼はコミュニケーションが上手で、ママ友との付き合いも任せています。子育ての情報を共有してくれるので、とても助かっています。

――夫に子育てに協力してもらうコツはありますか?

「言わなくてもこれくらいわかるじゃん!」と思うことがすごく多いので私も困っています(笑)。でも言わないと、相手もわかってくれないので、「この服はネットに入れて洗濯して」「これは手洗いだけどほかは食洗機でOK」など、ってほしいことは細かく指示するようにしています。 

あと、夫にもほめるようにしています。「すごいじゃん!今日の洗濯、クオリティーめちゃ高いじゃん!」って(笑)。家事へのモチベーションも上げないとダメですよね。

夫婦のどっちかが、忙しくなる時期もあると思うので、その都度、どっちかの負担が大きくならないように変えていくのが大事かなと。話し合って決められるのが理想ですね。

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娘に寂しい思いをさせない工夫

――合宿などで家を離れることもあったと思います。娘さんが寂しい思いをしないために工夫していることはありますか?

娘は夫と仲良くしているので上手くいっている方なのかなと思います。それでも、「合宿行かないで!」と言われることは何度かありました。ですから、合宿から帰ってきたときに2人だけで出かけたり、お土産を買ってきたりするようにしています。

娘も最近ずる賢くなって、ほしいものを言ってくるようになったんです。「ママ、今度合宿に行くんだよね?携帯があると、ママと連絡とれるんじゃないかな?」って。まだ早い気がしていましたが、最近根負けしてGPS代わりのキッズ携帯を買わされました(笑)。

――2021年の織田幹雄記念国際女子100メートル障害で優勝したとき、掲示板の前で娘さんを抱えて撮影されたのが印象に残っています。

掲示板の前で娘さんを抱える寺田明日香さん(右)=2021年4月29日、エディオンスタジアム広島(C)朝日新聞社 掲示板の前で娘さんを抱える寺田明日香さん(右)=2021年4月29日、エディオンスタジアム広島(C)朝日新聞社 

2019年の世界陸上のとき、100メートル障害で優勝したニア・アリ選手(米国)が子ども2人を連れてウィニングランをしたんですよね。その姿を現地で見た娘も「なんでトラックに子どもが入れるの?ずるい!」ってなって(笑)。それが楽しみだったようなので、記録を出したときにやってあげようと思っていました。

娘も嬉し涙を流してくれて、本当に嬉しかったです。私が陸上を続けていく中で、娘にも寂しい思いをさせている部分があるので、その我慢が報われた瞬間だったと思います。

――「ママアスリート」と呼ばれることについてはどう思いますか?

「ママアスリート」が注目されているのは、まだまだ日本社会が整っていない証拠。私もこの肩書に違和感を抱いている部分はありますが、「ママアスリート」を発信することで、女性の選手寿命を延ばし、仕事と子育てを両立するための選択肢を増やすきっかけになればと思います。

そのためにはまわりの人に助けてもらうことも必要で、パパの育休が取得しやすい仕組みづくりなどを整えなければいけません。ママとパパがお互いにマウントを取り合うのではなく、お互いが生活しやすくなる方法を一緒に考えていくことが大事だと思います。

私も仕事と子育てのどっちかを諦めるのではなく、どっちも得られるんだということを示していきたいです。子育て中のママとパパ、一緒に頑張りましょう!

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プロフィール:寺田明日香(てらだ・あすか)】

1990年生まれ、北海道出身。早稲田大学人間科学部(通信制)卒業。小学4年から陸上を始め、日本選手権で3連覇を果たす。 23歳だった2013年に引退し、2016年に7人制ラグビーに転向する形で競技復帰。2019年に陸上に復帰し、日本人女子21年ぶりの五輪100mハードル準決勝進出。2014年に現マネジャーの夫・佐藤峻一さんと結婚し、長女を出産。

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北川サイラ
北川サイラ

1992年生まれ、神戸出身。2016年に朝日新聞社入社。静岡、大津総局を経て、2020年10月から現職。小学生のころは器械体操に夢中でした。趣味は家庭菜園、寺社や銭湯めぐりなど。