2022.05.19
学びインタビュー 岩井建樹

子どもが料理をすると、どんな力が身につく? 栗原心平さんに聞く

夢中の力

料理番組「男子ごはん」でおなじみの栗原心平さん。メディアやYouTubeで家庭の定番料理のレシピを紹介するほか、子ども向けのオンライン教室を開講するなど幅広い世代に料理の楽しさやコツを伝えています。栗原さんが感じる「料理のチカラ」、著名な料理家である母親はるみさんとの思い出などについて聞きました。

子どもの想像力が伸びる料理教室 「栗原心平のごちそうさまクッキングスクール」

小2から家族のために朝食を調理

――子どものころから、料理をしていたんですか?

小2から日曜の朝食を僕が作っていました。メニューはトースト、コンビーフキャベツ炒め、スクランブルエッグ。父が庭のミントを摘んで紅茶に入れて、僕が作った朝食を食べるのが、栗原家の日曜の定番でした。

作り方は、父から教えてもらいました。父は洋食に精通していました。一方、母は静岡の港町である下田出身で、もともとケーキを箸で食べるような和食の人。母に洋食の作り方を教えたのは、父なんですよ。

――日曜の朝食担当になったきっかけは?

日曜は両親が起きてくるのが遅くて。僕はアニメを見たくて早く起きるじゃないですか。アニメを見終わったらやることがないし、お腹も減るので作るようになりました(笑)。

――父親の故・玲児さんはキャスターとして、母親のはるみさんは料理研究家として活躍。両親が家を留守にすることも多かったのでは?

小学校高学年になると母も忙しくなり、鍵っ子でした。くはなかったですね。帰ると、母が用意してくれたおかずがあったので。食によって、心が満たされていたんだと思います。自分でご飯をたいて姉と食べていました。

中学校になると、母が家にいないときは、僕が夕食担当になりました。僕の料理を食べた父には「こんなの料理じゃない」と辛口な批評を受けましたね。

――厳しいですね……

父は味に厳しい人でした。母の料理に対しても厳しかったですから。

そんな父に一度だけ褒められたことがあります。小学校5年生のとき、塾に持っていくお弁当を作っていたら、「おまえが作ったのか」と驚いていました。

ただ、その後は褒めてもらえませんでしたね。父に料理を出すたびに、素材の扱い方から火の通し方、味付けまで「こうしたほうがいい」と辛口なアドバイスを受けました。

父は僕がいずれ料理の道に進むことを想定して、あえて厳しく接していたんだろうと思います。実際に父のアドバイスは参考になりましたし、父に「おいしい」と認められたいというのが、僕のモチベーションになっていました。

母のはるみさんから「あなたの料理は雑。もっと丁寧に」

 (C)「(株)ゆとりの空間」(C)「(株)ゆとりの空間」

 ――料理研究家である母から料理のイロハを学んだわけではないのですね。

「どうやって作るの?」と、母に聞いたことはないんですよ。教わる前に、まず作っていました。料理の見た目や味、食感から、「こう作ればいいかな」と想像しました。ただ、どうしてもうまくいかないときは、聞いていました。海老フライの衣がどうしてもはがれてしまうので、母親に「なぜ?」と尋ねるとか。小麦と卵をつけてなかった、という落ちです。

あ、でも、ラザニアの作り方は始めから母に聞きました。中学生のとき、バレンタインデーのお返しに、チョコをくれた女の子たちのためにつくったんですよ。失敗できないですからね(笑)

――中学生のころには、料理を仕事にしようと思っていたんですか?

いえ、まったく。料理は好きでしたが、仕事にすることは考えていませんでした。母には子どものころから「あなたはマメだから料理に向いている」と誘導されていたように思うんですが、僕としては「何を言ってるの?」くらいに思っていました。

大学を卒業した後は、母と父が創業した「(株)ゆとりの空間」に入社し、営業担当として全国を飛び回っていました。料理の仕事は、雑誌にレシピ紹介を書くなど依頼があったら受ける程度。当時は、とにかく「早く作れる」レシピを紹介していました。

25歳の時かな。家族で集まって僕が一品作ったとき、「あなたの料理は雑。もっと丁寧にしないと」と母に言われて。「そうだよな」と胸に刺さりました。

――母の言葉が、料理家としての転機になったんですね。

母の言葉も大きかったですが、一番の転機は2012年からの「男子ごはん」への出演です。これは生半可な気持ちではできないと、自分の料理のスタンスを一から見つめ直しました。効率ばかりを追い求めるのではなく、おいしい料理を作るための「ほんのひと手間」を大切にしようと思いました。

何も特別な素材や、複雑な調理法は必要ありません。それでは、家庭の定番にはなりませんから。ただ、料理には「この素材の、この部分に切り口を入れると、こんなにおいしくなる」というような、省いてはいけないポイントがあるんです。そこをきちんと伝えられる料理家になろうと。以来、そういう味づくりを目指してレシピを考えています。

子どもの想像力が伸びる料理教室 「栗原心平のごちそうさまクッキングスクール」

料理はプログラミングに似ている

昨年8月に開講した子ども向けオンライン料理教室「ごちそうさまクッキングスクール」(C)「(株)ゆとりの空間」昨年8月に開講した子ども向けオンライン料理教室「ごちそうさまクッキングスクール」(C)「(株)ゆとりの空間」

 ――昨年8月から、子ども向けに「ごちそうさまクッキングスクール」をオンラインで開講しましたね。

小2から朝食をつくっていた僕自身の体験が原点です。料理は、子どものいろんな能力を伸ばすことができると思います。

僕自身、料理をすることで「段取り力」が身につきました。先の工程を見通して、作業を順序よく、同時並行に進める必要がありますから。そして、何もないところから素材を組み合わせるのは、プログラミングに似ていて、ロジカルに考える力も養えます。

レッスンでは、僕が考案したレシピを動画で伝えます。基本さえ押さえたら、素材の組み合わせや味付けなど自由に考案すればよいと思っています。オリジナルレシピに挑むことで、想像力を伸ばすことができます。

――子どもが調理をするとき、親の役割は?

ほめてあげることですね。

子どもって、家だと怒られることが多いと思うんです。でも、子どもが料理をふるまったら、親は自然と「ありがとう」「おいしいね」との言葉が口から出ます。僕の父の場合は厳しかったわけですが(笑)。

親にほめられることは、子どもにとって大きな成功体験につながると思います。そして、親子のつながりも深まると思います。

子どもにはいろんな料理や素材を食べる経験を積ませてほしいですね。味の複雑さや豊かさ、食べることの楽しさを知る。それが料理する上でも生きてきます。

――失敗する姿を見たら、思わず手伝ってしまいそうです。

そこは耐えて下さい。子どもが試行錯誤する機会を奪ってはいけません。危険察知は親の役割ですが、「切る」「焼く」といった工程も、子どもに挑戦させてあげて下さい。「危ないから」と、そうした工程を親が代わりにすると、子どもは楽しくなくなってしまいます。刃物や熱が危ないものであることを身をもって体験することも大切だと思います。

子どもの想像力が伸びる料理教室 「栗原心平のごちそうさまクッキングスクール」

小学生の長男も料理に関心

調理に関心があるという栗原さんの長男(C)「(株)ゆとりの空間」調理に関心があるという栗原さんの長男(C)「(株)ゆとりの空間」

 ――家でも料理はされるんですか?

はい。自宅にいるときは、私がつくります。妻も料理は上手なんですが、「あなたが作った方が早いでしょ」ということで(笑)。

――どんな料理を?

シンプルで素朴な料理ですね。しゃぶしゃぶが多いです。週2回はやってるかも。僕が好きなんですよ。肉は基本、豚です。味はちょっとずつ変えます。

――「料理は女性がするもの」というジェンダー格差についてはどう思いますか?

男性にとっては料理は「非日常」なんですよね。気合いを入れて高価な素材を買ってくる。家族のための料理というより、自分が食べたいものを作るんですよね。一方で、女性はキッチンを聖域化して、夫を入れたくないという人も多いと思います。

男性は「家族のために」という視点で調理する、女性は少々キッチンを汚されても目をつむる。両者の歩み寄りが必要かなと思います。

ーーお子さんも料理をするんですか?

時間があるときはよく一緒に料理をしていましたが、今はサッカーと中学受験の塾の両立が忙しくて、あまり料理の時間がとれていません。長男に時間的な余裕ができたら、また一緒に料理したり、レシピを教えたりしたいと思っています。

――母親のはるみさんとは今も料理について意見交換することはあるんですか?

はい。週に1度、一緒に食事しています。僕の自宅に招いて、僕がメインを作り、母が副菜を作ります。お互い何かをアドバイスするというより、「どうやって作るの?」と好奇心旺盛に聞く感じですね。

母からは最近、おせち料理の作り方を教えてもらいました。母曰く「おせち料理を伝えられる料理家になりなさい」と。母の煮しめは、にんじん、ごぼうと素材ごとに煮方や味付けを変えるんですよ。

「おせち料理は買ってきた方が楽だ」という気持ちはもちろんわかります。でも、煮しめや筑前煮だけでもいいから、手作りしたらよいのでは?と思います。日本には豊かな食文化があります。それを廃れさせるのは、実にもったいない。料理家として、僕に何かできるか。そんなことを43歳になった今、考えています。

子どもの想像力が伸びる料理教室 「栗原心平のごちそうさまクッキングスクール」

【プロフィール:栗原心平(くりはら・しんぺい)】

1978年生まれ。料理家・栗原はるみの長男で、一児の父。(株)ゆとりの空間の代表取締役社長。料理番組「男子ごはん」(テレビ東京系列)に出演するなど、料理家として活躍。著書に『栗原家のごはん』(大和書房)、『栗原心平のごちそうキャンプ メスティン・スキレット・ダッチオーブンでつくる極旨レシピ』(小学館)など。

岩井建樹
岩井建樹

1980年生まれ。岐阜県多治見市出身。2005年入社。岡山、京都、盛岡、文化くらし報道部などを経て現職。小学生のときはプロ野球選手を夢見て、野球の練習に明け暮れていました。

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