2022.06.30
学びをはぐくむ 黒澤真紀

「おいしいパンが焼けるまで何度でも」小6でパンシェルジュ検定3級に合格

焼きたてパンの匂いに包まれると誰でも幸せな気持ちになります。中学2年の加藤結衣(13)さんは、小学6年生の春、パン作りに夢中になりました。半年後の10月、小学生の合格者は2人しかいない「パンシェルジュ検定」3級に合格しました。「納得できるパンが焼けるまであきらめない」という結衣さんは、パン作りを通して何を身につけたのでしょうか。

「好き」をとことん突き詰めるポイント

  1.   成功するまであきらめないこと。
  2.   失敗の原因は何か、どうすればうまくいくかを自分で調べ、考えること。
  3. うまくできた喜びを、家族や友達とわかちあうこと

最初は大失敗 うまくいかなかった原因を追及

 ペストリーボードでパン生地をこねる結衣さん。慣れた手つきでパンをこねます。 ペストリーボードでパン生地をこねる結衣さん。慣れた手つきでパンをこねます。 

結衣さんが初めてパンを作ったのは、2020年4月、テレビでパン作りの特集を見たのがきっかけでした。「楽しそう。やってみたい!」。

YouTubeでちぎりパンを作る動画を探し、家にあった小麦粉で生地を作り、まな板でこね、丸めます。19時にスタートして、焼きあがったのは夜中の12時をまわっていました。ワクワクしてオーブンを開けると、パンはこんがり焼けています。しかし、一口食べてみると、「中身がカチカチで噛めない」。初めてのパン作りは、がっかりの結果でした。

「どこで間違ったんだろう」。翌日、レシピを見直し、1時間発酵させるところを5分にしていたことに気づきます。発酵時間を1時間にして再挑戦。前よりは柔らかいものの、ぱさぱさした感じがして「60点くらいでした」。

改めて一から作り方を確認しました。まな板で生地をこねると伸ばしづらいこと、スプーンではパン生地をうまく切れないことなどに気づき、母親の千佳子さんに、パンをこねるペストリーボード、パン生地を分割するスケッパー、オーブンシートを買ってもらいました。

道具をそろえて数回目の挑戦で、ついに100点のちぎりパンができました。
「うまく焼けるか、ずっとオーブンを覗いていました」。

あきらめずに何度も挑戦し、大満足の結果につながりました。

「もっとできるようになりたい」。夢中で試行錯誤を繰り返す

「いろんなパンが作れるようになりたい」。結衣さんはそれから毎日、夢中でパンを作りました。白パン、バターロールなど、作りやすいパンは作れるようになったので、次は家族からリクエストのあったクリームパンに挑戦。

最初はお店のクリームパンのような楕円形にしましたが、焼きあがった時に側面が割れて、クリームがはみ出してしまいました。クリームの量が多いのか、生地が柔らかいのか…。形に原因があるのでは、とひらめきました。

いろいろな形を試してみて、「円形が一番いいのでは」と予想。まるくこねた生地にクリームを入れて焼くと、見事なクリームパンが完成しました。

一番苦戦したのは、メロンパンです。上はクッキー生地、下の生地を柔らかくする焼き分けが難しい。温度や発酵時間を変えて焼いてみますが、何度やっても納得できませんでした。

基本に立ち返って、生地を見直すことに。それまではホットケーキミックスを使っていましたが、周りのクッキー生地は薄力粉、中の柔らかい部分は強力粉と、粉を使い分けてみることに。何度か試作を繰り返し、ついに理想のメロンパンができあがりました。

結衣さんの成功の秘訣は、思うようなパンが作れなくても、本やインターネット、YouTubeなどで失敗の原因を調べ、うまくいくまで試行錯誤を繰り返すこと。

そのあきらめない姿勢は、小さなころから身についていたそうです。

「結衣は3歳ぐらいから工作やお菓子作りが好きで、何度もやり直しながら完成させていました」と千佳子さん。「失敗しても大丈夫。そこからどうやって修正していこうかなと考えるのが楽しい」と結衣さんは話します。
できないことをそのままにするのではなく、どこに課題があったかを考え続けることで目標にたどり着きました。

「パンシェルジュ検定」3級の最年少合格者に

 

結衣さんはインターネットで見つけた「パンシェルジュ検定」に挑戦することにしました。
「パンを作るのと、問題として出題されるのでは難しさが違います」。学校の朝読書の時間にテキストを読んだり、家でノートにまとめたりして勉強しました。

3級は、パンの基本的な作り方、パンの歴史・文化・マナー・衛生などを問われます。受験者の多くは30代から40代の女性やパティシエ、パン屋などの専門職で、子どもにはかなり難易度が高い検定です。

「ベーカーズパーセント」という小麦粉の量に対するそのほかの材料の割合については、自分がパンを作るときのことを思い出して理解しました。

「難しいけど、絶対に合格するという強い気持ちで試験に臨みました」。

結果は、結衣さんはその回で最年少の受験者で、合格者になりました。「自分で受けたいと思ったものなので、本当に嬉しかった」。家族や友達、担任の先生にも「すごいね!おめでとう!」と祝ってもらい、達成感で胸がいっぱいになりました。

コロナ禍で不安なときも「パンを作ると気持ちが元気になった」

一緒にパンを作った友達からは「お店のクリームパンよりおいしい!」と言われたそう。中のクリームにもこだわります 一緒にパンを作った友達からは「お店のクリームパンよりおいしい!」と言われたそう。中のクリームにもこだわります 

 2020年の春、緊急事態宣言に伴う休校で時間ができて、時間を持て余しました。クラス替えのあと、休校明けに友達ができるかどうかも不安でした。そんなある日、口唇ヘルペスができてしまいます。医者に「ストレスが原因では」と指摘されました。

「生活のリズムを整えないと」と考え始めたときに、パン作りと出会いました。「パンを作ると元気になる。何かをつくるのは楽しいし、食べてくれる人が喜んでくれるのも嬉しかった」。気持ちがどんどん前向きになりました。

6年生の夏休みには、友達4人を家に招いてパン教室を開きました。みんなで結衣さんの大得意なクリームパンに挑戦。焼きあがったクリームパンを食べると、「自分でつくると本当においしい!」と、大歓声があがりました。

卒業文集には「趣味:結衣のパンを食べること」と書かれるほど結衣さんのパンの人気は続きました。

検定合格は努力の証。「自分で決めたことはあきめずにがんばりたい」

 作ったときの様子を写真に撮って、ノートにまとめます。作ったときの様子を写真に撮って、ノートにまとめます。

 中学生になり、勉強と部活に全力で取り組む結衣さん。自分を強くしてくれたパン作りは今も結衣さんの心のよりどころになっています。

「あきらめずに、どうやったらうまくできるだろうと考えて挑戦し続けたことで成長できた。これからも、目標に向かって試行錯誤する姿勢を忘れずにいたい」と話してくれました。

 母、千佳子さんの話

結衣はいつの間にか自分で考えて行動するようになっていました。親が口出しをしなくても、自分の気持ちに正直に行動しているのがわかるので、私はただ見守っていました。一度始めたら納得いくまでやるところがあり、小1でピアノ、書道、小4から英語を始めて今でも続いています。パン作りに没頭する姿を見て、自分で工夫して答えを見つけるところが結衣らしいなと思っていました。これからも自分のやりたいことを続けて、納得いくように進んでほしいです。 

★パンシェルジュ検定について

パンシェルジュ検定は、2009年からパンシェルジュ検定運営委員会が実施しています。どのような目的で始まり、どんな問題が出るのか、同協会の方にお話を聞きました。

Q.パンシェルジュ検定を実施した目的は?

「パンシェルジュ」とは、「奥深いパンの世界を迷うことなく案内できる幅広い知識を持った人」という意味の造語です。パンを食べることや作ることが好きな方から、仕事で関わる人、パンの専門家を目指す人まで、製法、歴史や文化・マナー、トレンド、健康や衛生に関することなど、総合的にパンの知識を習得していただくきっかけになればと考えました。

Q.合格率は?

3級:84%、2級:65%、1級:49%です。仕事でパンに携わる方の受検が多いので、合格率は高くなっていますが、結衣さんのように小学生が受検し、合格するのはかなり難しいと思います。

Q.どのような問題が出題されますか?

【パンシェルジュベーシック(3級)】
パンの歴史・材料・器具・文化・マナー・衛生に関する基本的な知識。

【パンシェルジュプロフェッショナル(2級)】
3級の範囲+マーケット・トレンド・コンビネーションなど。より実践的な知識。

【パンシェルジュマスター(1級)】
3級・2級の範囲+健康・未来学・サービス学など。高度で専門的な知識。

Q.勉強方法を教えてください。

問題は「パンシェルジュ検定公式テキスト」を中心に出題していますので、繰り返し解いてみてください。専門用語や知識が身につきます。ただ、何よりも大切にしてほしいのは、「パンが好き」という気持ちです。実際に自分でパンを焼いてみて、「楽しい」、「おいしいと言ってもらえて嬉しい」と感じてください。

Q.受検を考える親子にメッセージをお願いします。

9月開催の第25回は募集中。オンラインか会場受検を選べます。ご自宅からでもぜひ挑戦してみてください。

パンシェルジュ検定公式サイト

黒澤真紀
黒澤真紀

1977年生まれ。愛媛県出身。旧姓、井上。都内の学習塾に勤務した後、結婚、出産を経てフリーライターに。教育を専門に学びたいと、中学生と小学生の息子を育てながら都内女子大の修士課程を修了。大人になっても「学びは楽しい」と実感する。海と山に囲まれて育ち、虫が全然怖くない。子どもの頃は自然の中で遊ぶのに夢中で、得意だったのは押し花と走ること。