2020.12.15
学びインタビュー 小元佳津江

「子どもの好きにさせて大丈夫」5000件の相談で医師・田中茂樹さんが見つけた答え

「つい子どもに怒ってしまう」など、5000件以上の子育て相談に20年間寄り添ってきた医師で臨床心理士の田中茂樹さん。コロナ禍でさらに増えているこうした相談に、田中さんは「小言を言わないことが、親子ともども幸せに過ごすコツ」と助言します。田中さん自身、共働きで4児の父親でもあり、その答えに至った理由を聞いてみました。

今日のポイント

  1. まずは親自身が自分の頑張りを認めて
  2. 子どもに小言を言うのは「不安」のサイン
  3. 子どもにはのびのびさせるのが一番
  4. イライラしがちなときこそ、ねぎらいの言葉を

まずは親自身が自分の頑張りを認めて

──コロナ禍以降、どのような相談が寄せられていますか。

子どもがゲーム漬け、テレビ漬けになっている。朝、起きてこない。どこまでうるさく言っていいのかとか、怒りすぎてしまうとか。お父さんからの相談もありますが、そういうお母さんからの相談が多いです。

──休校となれば、親は家で勉強を見るなどの先生役も担い、子どもを傍らに置いてのリモートワーク、増える食事の支度の負担も……。多くの保護者が悲鳴を上げていましたね。

だから、僕が一番意識したのは、保護者をまずねぎらうこと。自分で気づいていない人が多いのですが、みなさん本当によく頑張っている。勉強や食事など、ちゃんとできなかったとしても十分頑張っている。コロナなんて人類全体の危機ですから、生きのびさえすればいいじゃないですか。

──とはいえ、子どもが全く宿題をしていなかったり、あまりにダラダラしていたりしたら、やはり親は気になるもの。先生は、お子さんとどう向き合っていましたか。

僕は普段とあまり変わりませんね。中3の四男はゲーム三昧でしたが、そのままにしています。

──ゲームの時間を制限することもなかったのですか。

していません。やりたいだけやらせています。僕は子どもに何かをさせたい、やめさせたい、というのはないので。ゲームといえば、今は大学生の三男は、四男を上回るゲーム好きですが、僕は一切やめさせたりしていません。

休日に息子たちと遊ぶ田中茂樹さん

子どもに小言を言うのは「不安」のサイン

──子どもがゲーム三昧だったら「ゲーム禁止!」「勉強しなさい」と、多くの親は小言を言ってしまいます。

わかります。でも、どうしてそう言いたくなるんですかね?

──「このままでは、だらしない大人になるのでは」とか「将来、食べていけなくなるのでは」と思うからですかね。

それは突き詰めると「子どもが幸せになれないんじゃないか」という不安ですよね。でも、それに対応するのはすごく難しい。対して、勉強させたり、生活習慣を身につけさせたりするのは比較的簡単。だから、幸せになってほしいという難しい願いを、「勉強ができる子」「生活習慣が身についた子」というわかりやすい形にして、安心したいと思うんです。ところが、このわかりやすい形にこだわるあまり、逆に不幸になっている親や子どもが本当に多い。うつや不登校、DVなどに至るケースもあります。それで僕は「子どもには小言は言わない」と決めました。勉強なんてできなくてもいい。むしろ、勉強が役立っている人のほうが少ない気も(笑)。親も子もただ楽しく過ごせばいい。一緒にいる時間はわずかなんですから。

──それが正解なら、親の心もずいぶんラクになります。でも、そんなふうにしたら、子どもはダメ人間になりませんか。

いやいや、何も言わずに任せたほうが子どもはしっかりします。子どもだって本能的に生き残りたい、幸せになりたいと思っていますから。宿題を忘れた子が学校で怒られていたら、「しないと大変だ」と思うし、どういう言い方をしたら友だちに嫌がられるとか、ちゃんと感じ取っている。家の外で彼らなりに厳しい世界を生き、多くのことを学んでいる。だから家では、ただリラックスさせてあげたらいいんです。

──本当にそれで大丈夫ですか。

大丈夫。それが、子どもを信じるということです。「放っておけば自分から宿題をするだろう」と信じるのではないのです。宿題をやっていようがいまいが「この子は愛情をかけるのに値する人間だ」と信じるのです。そうすることで子どもは「自分はこのままでいい」「ここにいていい」という自己肯定感をもてるようになります。それが一番大事なことですから。

──なるほど。それは先生ご自身の子育てでも実感されますか。

そうですね。うちの子たちはみんな、自分で道を切りひらいているなと思うし、家族のこと大好きですから。ちなみに、大のゲーム好きだった三男は、勉強も好きで成績もいいです。だから、一概にゲームがダメとも言えないと思いますね。

子どもにはのびのびさせるのが一番

──大変勉強になりますが、実践するのは難しそうですね。

わかります。僕も最初はできませんでしたから(笑)。長男や次男が小さいときは、ゲームは禁止でした。祖父母が買い与えたゲーム機でこっそり遊んでいたときは、目の前で壊したことも。

──先生にもそんな経験があったのですね。

ありますよ。かつては僕も「よかれ」と思うことを先回りしてやろうとする典型的な教育パパでした。でも、子どもにとってはそれが重かったり疎ましかったりする場合がたくさんある。長男が生後6カ月くらいのころ、バイリンガルにさせようと、ホームステイ先を探していたイギリス人の学生さんを住まわせて、ベビーシッターをお願いしていたことがあったんです。

──効果はありましたか。

最初はね。いい発音で「Why not!」なんて言っていて、「お!」と思っていました。でも2歳になるころ、僕たちが英語で話していると、突然「それやめて!ちゃんと話して!」って反発し始めたんです。

──どうして息子さんは反発したのですか。

保育園で友達とやりとりし始めたら、周囲の誰も英語を使っていなかった。それで「偽物」だと見抜いたんでしょう。コミュニケーションは本来、自分の思いと結びついた切実なもの。思っていないことを言ったってダメなんです。それに、親が何かを身につけさせようと躍起になるほど、子どもはたいてい萎縮してしまいます。

──たしかに、そうかもしれませんね。

だから、子どもにはうるさいことは言わず、のびのびさせるのが一番。もちろん、無理にそうしなさいというつもりはありません。でももし、いやいや何かをさせようとして親も子もつらい状況に陥っているとしたら、「子どもの好きにさせても結局大丈夫」と言っている専門家もいたなと思い出してほしい。そうすれば、子どもに腹が立っても自制できるし、子どもも幸せになります。

オンラインで取材に答えてくださった、田中茂樹先生

イライラしがちなときこそ、ねぎらいの言葉を

──コロナの状況はまだまだ先が見えません。この状況をうまく乗り切るために意識すべきことは。

子どももこの危機のなか、ストレスをためています。子どもには「ありがとう。あなたがいてくれて楽しい」と言って優しく接するのがいいです。そして、大人にも温かい言葉が必要。パートナーや自分の親など、身近な人から「ありがとう。あなたがおいしいご飯作って優しく育てているから、子どもが元気に育ってるよ」と、ねぎらいの言葉をかけてもらうといいでしょう。「私がイライラしていたら、そういう言葉をかけて」と、頼んでおくといいですよ。

──頼んでいたら、言われてもうれしくないのでは。

いや、耳から聞くとまた違うから、効果はあります。ですから、こんなときこそ、自分をねぎらうことをちゃんと意識してほしいと思います。


プロフィール:田中茂樹(たなか しげき)
1965年、東京生まれ。京都大学医学部卒。同大学大学院文学研究科博士後期課程修了。医師・臨床心理士・文学博士(心理学)。現在、奈良県・佐保川診療所所長。地域医療に従事しつつ、不登校や引きこもりなど子育てに悩む親のカウンセリングを続けている。4児の父。20年近く毎週、近所の子どもたちとのフットサルサークルをボランティアにて主宰。著書に『子どもを信じること』(さいはて社)、『子どもが幸せになることば』(ダイヤモンド社)、『去られるためにそこにいる』(日本評論社)など。

小元佳津江
小元佳津江

出版社勤務を経てフリーの編集・ライターに。ジャンルは、健康・育児などの実用から文芸、人物インタビューまでさまざま。執筆本は『ストーリーで学び直す大人の日本史講義』(祥伝社)など。現在、女児2人の子育てに奮闘、尽きない悩みと愛おしさを満喫中。子どものころに夢中になったものは、小6でたまたま手にした『源氏物語』。その雅な世界に惚れ込み、一時は研究者を目指した。今も、悩んだら駆け込む座右の書。

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