2020.11.24
習い事最前線 古川雅子

暗算をスポーツのように楽しむデジタルそろばん「そろタッチ教室」とは

「そろタッチ」は、iPadのアプリを使うそろばん式暗算法。iPadを使ってゲームのように計算に楽しく取り組む中で、暗算の力が身につきます。計算力を育む習い事としてメジャーな従来の珠算塾と、どう違うのでしょうか?「そろタッチ飯田橋ラボ校」(東京都千代田区)を訪ねてみると、その違いは一目瞭然でした。

「よーい、スタート!」で「スポーツ」のような楽しさ

教室では、5歳から小学生までの子どもたちがiPadの画面を食い入るように見つめています。珠をイメージした楕円形が表示された画面をリズムよくタッチ。暗算の問題を解く「あんざんモード」の計算になると、両手の指先を机の上、あるいは宙で軽やかに動かして計算しているのが印象的です。各自の画面には、学んだレベルに応じて個別に最適化された計算問題が次々に提示され、子ども自身がアプリの導きで計算を習得していける仕組みになっています。

ファシリテーターを務める先生は、生徒の頑張りを見守り、「ほめ役」に徹します。アプリには、取り組んだ問題数とメニュー、タイム、正答数などが記録されており、先生は「毎日◯◯問も取り組めたんだね」「◯◯(問題のメニュー)の正解が増えたね」などと、各生徒が家で頑張ってきたことも具体的にほめます。自宅でこのアプリを使って学んだ成果を、週に一度、披露するアウトプットの場が「そろタッチ教室」です。

生徒にとってのお楽しみは、後半のチーム戦。

先生の「よーい、スタート!」のかけ声とともに、生徒は一斉に自分のiPadに表示される問題に取り組みます。教室前方のスクリーンに運動会のゴールシーンのようなアニメ映像が流れて競技が終わると、集計結果がパンッと現れ、ファンファーレのような効果音が鳴ります。

競技ごとに、教室にいる全員のスコアがリアルタイムに表示され、それぞれの正解数、かかった時間、順位などが可視化されます。上位チームの子どもたちは「よっしゃー!」と拳を上げて喜んでいました。ハイタッチも飛び交います。まるでスポーツ部のような光景です。

また、「読みリレー(読み上げ暗算)」「フラッシュリレー(フラッシュ暗算)」といった競技があり、異なる教室に通う生徒同士によるクラス対抗戦もリアルタイムで行われます。

同教室を展開する「Digika」(千代田区)社長の橋本恭伸さん(37)は言います。

「継続は力なりで、一足飛びでは身につかないのが計算力。ですが、そろタッチは、ゲーミフィケーションの要素をふんだんに取り入れているので、熱中するうち自然と長続きするんです。教室でのチーム戦は計算競技というより、もはやeスポーツですね。

なので、計算力や前向きにチャレンジする力、やり抜く力はもちろん、チームワークまで育めます。2020年7月には、この仕組みを発展させてZoom上で『そろフェス』という大会を開きました。決勝戦で負けた小学生は、悔し泣きしながら『次はいつやるの?』と闘志を燃やしていました」(橋本さん)

そんなお楽しみを実現する教室運営ができるのは、教室システムにクラウドを活用しているから。 クラス全員が同じ課題にチャレンジしつつも、学習の進捗により全員が異なる問題を解く「アダプティブラーニング」 のため、どんなレベルの子でも等しく達成感を味わえます。

結果よりも過程をほめることで、能力とやる気を開発

ちょっと意外なのですが 、最近はスポーツクラブを運営する企業が「そろタッチ教室」を始めるところも出てきました。子どもの能力を少しずつ高めるために、先生がほめて動機づけをするやり方に共通点があるためです。 

「例えばスイミングは、30mしか泳げない子を50mにするといった能力開発。そろタッチは、50×2しかできなかった子の計算能力を、36×48に持っていく、というような能力開発。

考えてみれば、スイミングも僕らのそろばん式暗算の教室も、能力開発にめちゃくちゃコミットしているんです。適切なタイミングで、ほめの声かけをする教師のファシリテーションのノウハウが、そのまま生かせると意気投合したんです」(同)

取材した日、教室に通う生徒で最年少のさくらちゃん(年長、5歳)は絶好調で、「お、ランキングトップ!」「ずいぶん頑張ったね」「今日、調子がいいね」「おめでとう」と先生からたくさんのほめ言葉をかけられていました。

さくらちゃんは4歳の時にそろタッチを使い始め、当初は自宅でアプリ学習だけを続けていました。今年4月にそろタッチ教室に入室。レベルはすでに、3つに分かれる最終段階ステージの終盤に進んでいます。例えば3桁から4桁の足し引き算、3桁×2桁の掛け算、5桁÷3桁の割り算といった難解な計算も、軽く解けてしまうレベルです。

母親によれば、さくらちゃんは教室生になってがぜんモチベーションが高まり、自宅での学習にも身が入るようになったと言います。

「取り組んだ課題の数、正答の数が一目瞭然でわかる仕組みなので、『この1週間でこんなに取り組めたんだね』って先生にほめてもらえます。それがうれしいらしくて。ほっとけば、毎朝取り組んでいる自宅学習を自分でグイグイ進めていくので、私はノータッチ。むしろ頃合いを見て、『そろそろ休んだら?』とブレーキ役に徹しているぐらいなんです(笑)」(母親)

さくらちゃんは、他にもピアノやバレエなどの習い事にも通っているのですが、そろタッチを始めてから、他の習い事へのモチベーションも上がってきました。

「毎日コツコツ積み上がったものが結果につながるという感覚を、本人が持ち始めた気がします」(同)

数字だけでなく、イメージを処理する脳も開発。2年で難問計算も

数字という世界の共通言語を扱う計算方法には2つあると、橋本さん。

筆算式か、そろばん式暗算です。

筆算は脳の中でも数字を処理する部分だけの学び。一方でそろばん式暗算は「イメージを処理する部分」も使う学びであり、習得すれば後者の方ががぜん計算が速いとのこと。

アメリカ、アジア各国での仕事経験がある橋本さんは、「世界を歩いて、最速の計算方法は『そろばん式暗算』だという事実に行き着きました」と言います。

「日本の公教育では筆算式がベースですが、世界ではどちらも学べる環境があります。水泳の自由形では、最速のクロール以外で勝負しようという選手はいないでしょう?  同様に計算でも、世界大会で圧倒的に用いられるのが、そろばん式暗算。要は計算界のクロールなんです」(橋本さん)

ひとまず、次の計算を解いてみてください。

45+97−16+50+38−24+82+78=??(10秒以内)

515+366−760+932=??(10秒以内)

5201÷7=??(7秒以内)

この計算をカッコで示した時間内に解ききるのは、筆算式では難しいです。また、最速のそろばん式暗算であっても、このレベルになると、トレーニングの途上で離脱してしまう人が多くなるのが課題でした。

そろタッチ開発前に「Digika」が運営していた従来型のそろばん塾では、4年間通っても習得できる子どもは10%程度でした。ところが、そろタッチ導入後は習得率が大幅にアップし、平均2年未満の通塾で62%(2018年)の子どもが習得できました。

これほどの難問を高速計算する能力が、従来の半分以下の学習期間で、過半数を超す子どもたちに身につきました。

一握りの子どもの特殊能力ではなく、おしなべて能力がぐんと向上する「驚異的な計算力の底上げ」に成功したわけです。この成果は、Digikaと大学との連携で学術論文にもまとめられています。

2016年暮れにリリース後、翌年には日本eラーニング大賞最優秀賞を獲得し、その後、インドやシンガポールでもEdTech(エドテック)分野で受賞しています。

アメリカテキサス州で2019年に開かれた最先端テクノロージーの祭典「SXSW(サウスバイサウスウエスト)EDU」のローンチコンペでは、日本企業初のファイナリストに選出されました。

そろタッチのステージが進むと、バッジをもらえる。子どものやる気につながっている

計算力を身につけたら、違う分野で創造性を高めてほしい

そろタッチの推奨年齢は、5〜8歳。橋本さんは、「自分は数字に強い」という自信を獲得させる手段として、強みを持つこのプロダクトのゴールを、「STEM教育」(Science=科学、Technology=技術、Engineering=工学、Mathematics=数学)の土台づくりに位置づけています。

才能を花開かせる順番を三角形で示す『Bloom’s taxonomy』というのがあります」(同)。

学びを身につけるには、まずは記憶、理解、応用がピラミッドの土台となるという考え方です。しかし、「今は、三角形の上位にある分析力、評価力、クリエイティビティをいかにつけるか、というところに先走りすぎだと感じます。最も土台のところにある計算の力をつけずにSTEM教育に進んでも、先細りしてしまうからです。計算の上級レベルに最速で到達できるそろタッチで力をつけたら、さっさと卒業してもらっていいと思います。そこからは、ロボット開発なり、プログラミングなり、創造性の高みに向けてとことんチャレンジしてもらいたいです」(同)

教室情報

「そろタッチ飯田橋ラボ校」

住所:東京都千代田区富士見2-11-14 内田ビル2階
交通:JR線、地下鉄飯田橋駅下車

関連記事:「やれば、できる」「そろタッチ」の橋本社長が語る 計算で身につく自己肯定感

撮影:伊ケ崎忍

古川雅子
古川雅子

医療・介護、がん・認知症・難病と暮らし、科学と社会、コミュニティーなどをテーマに幅広く執筆。週刊誌「AERA」の「現代の肖像」などで数多くの人物ルポルタージュを手がける。小学生の頃は競技そろばん、中高生の頃は英語の弁論に熱中。アウトプットのために集中する時、脳がカアーッと熱くなる感覚がわりと好きです。今は、文章を通じてアプトプットする日々ですが、むしろインプットの大事さを痛感しています。

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