プログラミングで世界を変える 「テックキッズグランプリ2020」決勝大会
2018年から始まった「Tech Kids Grand Prix(テックキッズグランプリ)2020」は国内最大級の小学生プログラミング大会。「21世紀を変えるのは、君だ」というスローガンのもと、次世代のイノベーターを発掘する本大会には、昨年の1.5倍となった全国から2189件のエントリーが集まりました。その中から選ばれた10名のファイナリストが挑んだ決勝大会の様子をレポートします。
子どもたちの真剣勝負 プログラミング作品をプレゼン
「Tech Kids Grand Prix 2020」が例年と異なるのは、地方自治体を中心とする12団体との連携により、応募総数の約4割が地方の小学生だったこと。首都圏だけでなく、日本全国の小学生に挑戦の機会が広がりました。
コロナの影響で最低限の人数に制限されたものの、12月6日の日曜日、東京都渋谷区の会場は異様な熱気に包まれていました。オンラインとのハイブリット型で開催することになったため、数多くのレンズが暗闇から舞台を見つめます。
会場の観客、そしてデバイス画面の向こう側にいるたくさんの観客に向けて、壇上で各5分間のプレゼンをしたあと、審査員からの2分間の質問に答えるファイナリストたち。最年少は小学1年生です。大きな舞台にぽつんと立つ子どもを見守る親の気持ちを考えると、思わず手のひらに汗がにじみました。
小学1年生の千葉眞白(ましろ)さんは、お兄さんの紫聞(しもん)さんと、大会初の兄弟出場
プレゼンで驚いたのは、やはりプログラミング作品の質の高さ。ファイナリストたちの想像力や表現力の高さに、会場からは時折「ほう…」という感嘆の吐息や、「すごいな…」という呟きが漏れていました。
本大会を主催する「Tech Kids School(テックキッズスクール)」の上野朝大代表取締役社長は、司会も務め、「小学生とは思えない、でも小学生だからこその作品」という言葉で評していました。大人顔負けのプログラミング技術で、子どもの純粋で自由な発想を形にした作品群からは、挑戦する勇気と独創性を感じました。
「日本のプログラミング教育は遅れている」「日本人はプレゼンが苦手」などの先入観が覆された「Tech Kids Grand Prix 2020」。さっそく、受賞作品をご紹介したいと思います。
舞台は2030年 体験そのものがSDGsの学びに
優勝者の川口明莉さん(小学4年生)は、笑顔で堂々とプレゼン
名古屋市立八社小学校の4年生、川口明莉(あかり)さんは、2019年に続いて2年連続で決勝大会に出場。前年の悔しさをバネに、今年はみごと第1位に輝きました。川口さんの作品は「マークみっけ!for SDGs」というAIカメラを活用したアプリケーションです。
学校の授業でSDGsを知り、「10年後の2030年には持続可能な社会が実現し、みんなが笑顔になっているといいな」という思いからこの作品を作った川口さん。45種類のマークをAIカメラが読み取れるように機械学習をさせました。例えばベルマークにカメラをかざすと、SDGsのどの目標達成に関連しているかをアプリが教えてくれます。違う色のマークなど何種類ものマークを読み取らせることで、AIの認識力を高めました。
「マークみっけ!for SDGs」は、生活の中にあるマタニティマークや耳の不自由な子どものためのうさぎマークなど、いろいろなマークを集める体験自体が学びになるアプリなのです。
受賞直後の川口さんにお話を聞きました。
大会が終わり、ほっとした笑顔の川口さん
── プログラミングはどこで勉強したのですか?
オンラインのCorderDojo(コーダードージョー)です。
── プログラミングを始めようと思ったきっかけは?
クリスマスにパソコンを買ってもらったのがきっかけです。プログラミングって話題になっていたのもあって、やってみたらすごくおもしろかったんです。
── 作品のアイディアはどうやって思いついたのですか?
AIを使った作品を作ってみたいと思って、いろいろ調べたら「Teachable Machine(ティーチャブルマシン)」というツールがあることを知りました(注:機械学習モデルを作成できるウェブベースのツール)。ユーチューブを見ながら、使い方を学びました。
── 作品づくりで苦労したことは?やめようと思ったことはありますか?
なかなかマークをうまく認識させることができなくて苦労しました。やめたいと思っても、何度も繰り返し挑戦しました。
ファイナリストのみなさん
── 他にどんな習い事をしていますか?
公文、英語、ピアノです。絵を描くことが趣味で、プログラミング作品にも役立っています。
また、この日付き添っていた川口さんのお父さんは、川口さんの成長についてこう語っていました。
「娘は幼稚園のお遊戯会では固まるような子でしたが、プログラミングを始めて積極的に話せるようになったと思います。今では、オンラインでプログラミング仲間とたくさん話をしています。人にものを教えることも得意なようです」
子どもたちがコロナ禍に向き合い、生まれた作品
準優勝は、宮崎県からのオンライン参加となった、小学6年生の平川晴茄(はるな)さん。作品は、「ぶらっしゅとーく」というタブレット用のコミュニケーションアプリです。コロナの影響で、入院している人に会えないことを悲しく感じたことが制作のきっかけになりました。実際に平川さん自身も祖母と会えなくなってしまったそうです。
「祖母のようにデジタル機器が使えない高齢者にも使えるように」と、スマホが使えなくても話が出来るように、とことん簡単さにこだわった文字盤やスタンプ、ビデオ通話を盛り込んだアプリ。コロナ禍で開いてしまった人と人との距離を縮める、まさに2020年だからこそ生まれた作品です。
LINE賞もダブル受賞した平川さん
4年生の頃、学童で勧められたのがプログラミングを始めるきっかけになったと話す平川さん。「ぶらっしゅとーく」は、平日は1日5時間、休日は10時間以上を費やした力のこもった作品です。実際にこのアプリを使って、平川さんの祖母は孫の結婚式にもビデオチャットで参列できたそうです。
3位の東京都の小学5年生、齋藤之理(ゆきまさ)さんの作品「GRAVITY TRAVEL(グラビティトラベル)」は、人類が宇宙に移住先を求め旅に出るというストーリーで、宇宙の重力と運動を体験できる本格的な宇宙船ゲームです。博物館で見た重力井戸の展示から興味を持ち開発しました。星の万有引力を考えながら減速や加速を行い、うまく周回軌道にのせて目標の星を目指します。宇宙の映像がとても美しい作品で、目を輝かせてプレゼンする斎藤さんに、会場の観客はすっかり魅了されました。。
他にも、ファイナリスト達の作品は多様で力作ぞろい。「東急賞」を受賞した東京都の小学2年生、千葉紫聞(しもん)さんの「【B2B】BACK TO BACK(バックトゥバック)」は、コロナ禍で練習が中止となったバスケットプレイヤーのためのトレーニングアプリ。自分の所属するバスケットボールクラブがコロナで休みになったので、作ったそうです。BGMのヒップホップ、赤と黒を基調にした大人顔負けのクールなデザインに会場がどよめいていました。
「この世のすべてのコードを使いこなしたい」と目を輝かせる千葉紫聞さん
子どもの「夢中」に大人はどう関わるべきか
大会終了直後の興奮冷めやらない空間で、主催の「Tech Kids School(テックキッズスクール)」代表の上野さんに大会を振り返っていただきました。
「プログラミングはあくまで手段。そこからどんな価値を生むかが大事だと考えています。今年はコロナの影響で、課題解決型の作品が多いと感じました。ただ高い技術を誇る作品にするのではなく、自分の技術を何に使うかということに目が向いた年だと思います。子どもたち一人ひとりが当事者意識を持ってプログラミングに臨んだのではないでしょうか」
「子どもは、大人のように『できないかも』と考えない」と語る上野さん
「毎年、本大会を見ていて考えるのは、私たち大人の役割です。子どもが熱中していることに対して、大人は、それをほったらかしにしてはいけないと思います。
子どもがどんなことをしようとしているかに無関心だったある親御さんは、プログラミングを通して『うちの子すごいじゃん』と、子どもがどんなことをしているかに興味を持つようになったそうです」
子どもが夢中になっていることに親が関心を持つことで、子どもは本来の能力を伸びやかに開花していくことができます。子どもたちが努力してたどり着いたこの日の決勝大会には、子どもの探求を見守り、支えてきた親たちの気配が確かに感じられました。
作品「オーロラオーケストラ」のプレゼンをする東京都の小学6年生、安藤優那さん(教室提供)
また、「CA Teck Kids」広報の真下紗枝さんは「プログラミング教育が遅れているとか、プレゼンが苦手だという先入観を持たずに、ひとりでも多くの方、特に保護者や学校教員の方々に、こうしてすでに独創的な才能を伸ばしている子がいることを知っていただきたいと切に願っています」と語っていました。
「Tech Kids Grand Prix 2020」のプレゼンおよび表彰式の様子は、Tech Kids School公式サイトの大会レポートページから視聴することができます。ぜひ親子でご覧ください。
撮影:桜木奈央子