小学校のプログラミング教育必修化とは?目的・内容・現状・家庭学習できる教材まとめ
2020年度から必修化した小学校のプログラミング教育について、東京情報大学総合情報学部の教授であり、プログラミング教育者やサイエンスライターとしても活躍する、松下孝太郎さんが解説します。
小学校のプログラミング教育必修化とは?
2020年度より小学校でプログラミング教育が必修化されました。この記事では、その目的や内容のほか、家庭でできるプログラミングの学習方法を紹介します。
プログラミング教育必修化の背景
プログラミング教育の必修化が進められた背景には、情報機器やAIなど、の情報技術の発達による社会構造の変化があります。将来、AIなどにより既存の職業が消滅する可能性も示唆されており、IT人材の育成が急務です。
つまり、IT技術の発達とIT人材の不足が背景であるといえます。また、諸外国では小学校からプログラミング教育が実施されていることも理由のひとつです。
平成29年告示「新学習指導要領」にて公表
幼稚園、小学校、中学校、高等学校における学習内容は、文部科学省による学習指導要領によって定められています。学習指導要領は社会の変化などに対応するため、改定を続けてきました。近年の改定や実施のスケジュールは次のようになっています。
出典:文部科学省Webページ(https://www.mext.go.jp/content/1421692_3.pdf)
小学校の学習指導要領は平成29年に改定されました。この改定により、小学校においてプログラミング教育が必修化されました。
プログラミング必修化は「プログラミング」科目の新設ではない
小学校でのプログラミング必修化は、情報、あるいはプログラミングという科目が、新設されるのではないかと思った人もいるでしょう。
しかし、今回の小学校でのプログラミング教育の必修化は、各教科のなかでプログラミング教育を実践する形式をとっています。
小学校学習指導要および小学校学習指導要領解説で述べられています。また各教科に関しても小学校学習指導要領解説算数編および小学校学習指導要領理科編などで述べられています。
プログラミング教育の学習事例
学習指導要領の内容は専門的なため、一般の方にとって読み解くのは難しく、時間もかかります。一方で、文部科学省による「小学校プログラミング教育の手引き」は、各教科におけるプログラミングの導入案がわかりやすく示されています。なかでも、算数、理科は授業における導入案がプログラムとともに具体的に示されています。
算数は、小学校5年生で習う多角形の作図で学習事例が挙げられています。ここでは、正三角形、正六角形をプログラミングで作る例が示されています。
理科は、小学校6年生で習う電気の性質の理解における学習事例が挙げられています。ここでは、外部デバイスを用いた人感センサーをプログラミングによって制御する例が示されています。
また、官民協働の『未来の学びコンソーシアム』により運営されている「小学校を中心としたプログラミング教育ポータル」では、小学校における多数の実施事例が、学習指導計画、授業風景の写真、作成されたプログラムなどとともに公開されています。
出典:小学校を中心としたプログラミング教育ポータル(https://miraino-manabi.jp)
さらに、市販書でも、小学校の各教科で使用できるプログラミングの例を解説しているものがあります。
ここでは、「松下孝太郎、山本光 / スクラッチプログラミング事例大全集 / 技術評論社」を参考に、一例として、正六角形を描画する事例をスクラッチのプログラムで示します。
スクラッチプログラミングに関する市販書(筆者の著書より)
https://scratch.mit.edu/projects/539898681/
この例では、ネコを100歩動かし60度向きを変えます。これを6回繰り返して正六角形を描画します。
新学習指導要領のポイント
新学習指導要領におけるプログラミング教育のポイントはどのようなものなのでしょう。文部科学省の資料を中心に、その目的や必修化の理由のポイントとなる部分を見てみましょう。
プログラミング教育必修化の目的
今回の学習指導要領の改定における、小学校におけるプログラミング教育の目的(ねらい)は、文部科学省による小学校プログラミング教育の手引で述べられています。その目的として次の3つが示されています。
①「プログラミング的思考」を育む。
②プログラムの働きやよさ、情報社会がコンピュータ等の情報技術によって支えられていることなどに気付くことができるようにするとともに、コンピュータ等を上手に活用して身近な問題を解決したり、よりよい社会を築いたりしようとする態度を育むこと。
③各教科等の内容を指導する中で実施する場合には、教科等での学びをより確実なものとする。
なお、文部科学省の小学校段階における論理的思考力や創造性、問題解決能力等の育成とプログラミング教育に関する有識者会議では、「プログラミング的思考」を次のように定義しています。
プログラミング的思考とは、自分が意図する一連の活動を実現するために、どのような動きの組合せが必要であり、一つ一つの動きに対応した記号を、どのように組み合わせたらいいのか、記号の組合せをどのように改善していけば、より意図した活動に近づくのか、といったことを論理的に考えていく力です。
つまり、論理的思考力や創造性、問題解決能力の育成が重要な目的であると言えます。
なぜ小学校からプログラミング教育を必修化するのか
小学校の段階からプログラミング教育を必修化する理由として、文部科学省の「小学校プログラミング教育の手引き」では次のことが挙げられています。
・家電や自動車をはじめ身近なものの多くにコンピュータが内蔵されている。
・コンピュータをより適切、効果的に利用していくためには、その仕組みを知ることが重要。
・コンピュータはプログラミングで動いており、プログラミングを理解することにより、コンピュータをより主体的に活用することにつながる。
・子供たちの可能性を広げ、起業や特許を取得することにもつながる。
また、中学校、高等学校でもプログラミング教育が実施されます。中学校や高等学校では、キーボードによるコーディング(英数字等を使ってプログラムを記述していく)でプログラミングを行う機会が増えます。
小学校でブロック形式のビジュアルプログラミングで基本的なプログラムの流れや構造を学んでおくことにより、これらに無理なく接続できると考えられます。
プログラミング教育必修化および学校のICT化の現状
プログラミング教育の必須化は、児童や保護者だけでなく、教育現場の先生方も関係する事項です。現場の先生方の意識やスキル、学校の設備面における状況を見てみましょう。
プログラミング教育必修化に対する教員の反応
筆者は、文部科学省の教員免許状更新講習における選択科目において、小中高校等の先生方へのスクラッチプログラミング講座を座学と演習形式で行っています。内容は、スクラッチプログラミング、スクラッチプログラミングによる教材作成、授業への導入方法などです。
ここでは、アンケート調査を受講前と受講後に行っております。受講前はプログラミング教育に対する不安を持つ先生でも、受講後はプログラミング教育に対する不安が低下し、プログラミング教育に期待することが高まるという傾向が見られました。
これらから、先生方のプログラミング教育のスキル向上に伴い、興味を持って積極的にプログラミング教育に取り組まれる先生が増えてくるでしょう。
教員のITスキルの現状
小学校におけるプログラミング教育はまだ始まったばかりであり、多くの学校の教育現場では先生方のプログラミングスキルや授業への導入方法のノウハウが十分蓄積されていないのが現状です。
今後、先生方のノウハウが蓄積されてくれば、これまで行われてきた教育と同様に、プログラミング教育もスムーズかつ効果的に行われていくでしょう。
学校のICT化の現状
文部科学省ではGIGAスクール構想として、小中高等学校において1人1台の端末と高速通信環境の整備を目指しています。文部科学省が実施した「学校における教育の情報化の実態等に関する調査」によると、2019年時点で5.4人に1台のコンピュータが設置されおり、地域差があるのが現状です。
小学校のプログラミングに関する活動は6つに分類される
「小学校プログラミング教育の手引き」では、小学校のプログラミングに関する学習活動を次のAからFの6つに分類しています。
A:学習指導要領で例示されており、単元等で実施するもの
学習指導要領に示されている具体例により、プログラミング教育を行います。小学5年生の算数における正多角形を作図、小学6年生の理科におけるセンサーを使ったモーターの制御がこれにあたります。
B:学習指導要領に例示されてはいないが、各教科等の内容を指導する中で実施するもの
学習指導要領には具体例は示されていませんが、各教科においてプログラミング教育を行います。敬語の使い方(国語)、くりかえしを使ったリズム(音楽)などの例が報告されています。
C: 教育課程内で各教科等とは別に実施するもの
学習指導要領に示されている各教科等とは別に時間を確保し、プ ログラミングに関する学習を行います。情報の拡散の仕組みを視覚的に理解するなどの例が報告されています。
D:クラブ活動など、特定の児童を対象として実施するもの
クラブ活動などを通して、プログラミングに関する学習を行います。パソコンクラブなどが挙げられます。
E:学校を会場として実施するもの
学校において、地域や企業などと連携してプログラミングに関する学習を行います。「プログラミングによる地域伝統芸能復興など、地域や企業の特徴を生かした例が報告されています。
F:学校以外を会場として実施するもの
学校以外の場において、地域や企業などと連携してプログラミングに関する学習を行います。大学カリキュラムと連携したメンターの効率的かつ持続的育成モデルなど、提携先のリソースを生かした例が報告されています。
プログラミング教育必修化を受けて家庭でできること
プログラミング教育の必須化で、家庭学習としてプログラミングを行いたいという場合も増えると思います。家庭でできるプログラミング教育もいろいろありますので見ていきましょう。
入学前に準備できること
プログラミングに関して、小学校に入学する前にできることとして、次のようなものがあります。
- プログラミングの本で勉強する。
書店や図書館には多くのプログラミングの本がありますので、自分に合ったものを探して使用すると良いでしょう。子どもでも読めるようルビ(読み仮名)が振られている本もあります。さらに、掲載されているプログラムがダウンロードできるものもあります。
- プログラミング教室に通う
小学校におけるプログラミング必修化もあり、様々なプログラミング教室が選べるようになりました。近くに教室があり行きやすいものがありましたら参加してみるのも良いでしょう。また、オンラインで行っている教室もあります。プログラミングだけでなく、ロボットなどの外部デバイスを動かす教室もあります。
家庭で学習できるおすすめプログラミング教材
家庭において、子どもから楽しみながら学べるプログラミング教材としては、プログラミングそのものを行うビジュアルプログラミング言語、ビジュアルプログラミング言語を使って操作する外部機材(外部デバイス)に分類できます。今回はそれらの中からいくつかをご紹介します。
ビジュアルプログラミング言語
- Scratch(スクラッチ)
スクラッチは世界的に最も広く使われているビジュアルプログラミング言語です。主に、ブロックを配置することにより、キャラクターを動かしたりすることができます。また、キャラクターを動かすだけでなく、本格的なアルゴリズムを学ぶこともできます。スクラッチに関しては「スクラッチについてポイントを解説」でも説明しています。
- Viscuit(ビスケット)
ビスケットは、小さなお子様から使用できるビジュアルプログラミング言語です。主に、メガネの左右のレンズにキャラクターを入れ、その形や位置の違いによりキャラクターを動かしたりすることができます。画面もシンプルで大きな表示であり見やすいです。
- プログラミングゼミ
プログラミングゼミはDeNA社が開発したビジュアルプログラミング言語です。スクラッチと同様に、主にブロックを配置することによりキャラクターを動かすことができます。
外部装置(外部デバイス)
- Makey Makey(メイキーメイキー)
キーボードのスペースキーや矢印キーを、電気を通すものに置き換えることができる装置です。メイキーメイキーに電気を通すものを取り付けて、演奏したりすることを楽しめます。スクラッチの拡張機能にはメイキーメイキーを操作するブロックも装備されています。
- micro:bit(マイクロビット)
内蔵されているセンサーにより、温度や明るさを計測したり、LEDに文字や模様を表示させることができる装置です。情報を表示する表示板や、傾きを測る水準器などにして楽しめます。スクラッチの拡張機能にはマイクロビットを操作するブロックも装備されています。
- LEGO(レゴ)
レゴのブロックにより好きなものを作成し、それらを動かせる装置です。車やロボットなどを作成し、動かしたら向きを変えたりして楽しめます。スクラッチの拡張機能にはレゴ(LEGO® MINDSTORMS® EV3、LEGO® BOOST、LEGO® Education WeDo 2.0)を操作するブロックも装備されています。なお、すべてのレゴ製品がビジュアルプログラミング言語で動かせるわけではありませんのでご注意ください。
まとめ
小学校におけるプログラミング教育の必須化と、家庭でもできるプログラミングの学習について解説しました。プログラミング教育は各教科の中で行われること、プログラミングは家庭でもできますので挑戦してみてください。
プログラミングの楽しさは、いくつもの方法で作りたいものを実現できることです。いろいろなものを作ることにより、まさにプログラミング教育が目的としている論理的思考力、問題解決能力が養成されるはずです。
本格的なプログラミングに挑戦する場合は、ゲームなどの親しみやすいものから始めると良いでしょう。
※Scratch(スクラッチ)[ウェブアプリ、パソコン・タブレット用アプリ]。Scratchは、MITメディア・ラボのライフロング・キンダーガーテン・グループの協力により、Scratch財団が進めているプロジェクトです。https://scratch.mit.eduから自由に利用できます。CC BY-SA 2.0。

神奈川県横浜市生まれ、横浜国立大学大学院 工学研究科 人工環境システム学専攻 博士後期課程修了、博士(工学)。現在は、(学校法人東京農業大学)東京情報大学 総合情報学部 教授。画像処理、コンピュータグラフィックス、教育工学等の研究に従事し、教育面ではプログラミング教育、シニアや留学生へのICT教育等にも注力。サイエンスライターとしても執筆や講演の活動を行っています。子どもの頃は、水泳、習字、そろばんなどの習い事や、当時流行っていた切手や貨幣の収集、TVゲームができる近所の駄菓子屋さんなどで遊ぶことに夢中でした。現在も週に1度は泳ぎ、切手や貨幣の収集を継続しています。スクラッチプログラミングの著書に、「今すぐ使えるかんたんScratch」( 技術評論社)、「親子でかんたんスクラッチプログラミングの図鑑 【Scratch 3.0対応版】」(技術評論社)、「スクラッチプログラミング事例大全集」(技術評論社)があります。その他、多数の著書があります。