2020.12.25
学びインタビュー 平岡妙子

「夢中になる力」第3回:軽井沢に教育移住したわけ 「探究学舎」宝槻泰伸代表

第3回 「探究学舎」の宝槻泰伸さんと妻・圭美さんが語る 「めっちゃ、英断!」5人の子と軽井沢に教育移住したわけ

探究学舎の宝槻泰伸代表(39)には5人の子どもがいます。小5の長男から3歳の次男まで。妻の圭美(たまみ)さん(39)は、国際教育協力の仕事をして保育士の資格も持っています。2020年4月、長野県軽井沢町に開校した「軽井沢風越(かざこし)学園」に子どもたちを通学させるため、東京都三鷹市から移住しました。なぜ、子どもの教育のために移住したのか。宝槻家の子育ての方針など、お話を伺いました。

東京からの教育移住を考え始めたのはなぜか

── 軽井沢に引っ越ししようと思われたのはなぜですか。

圭美さん(以下敬称略):大きくは2つあります。東京での暮らしにもどかしさがありました。朝、上の子たちを小学校に送り出し、下の子たちを幼稚園に預けて、仕事してお迎えに行って、ご飯作って食べさせて寝かせる。また翌朝、繰り返す生活が、全部近くにあったので、すき間時間がなくて追い立てられている感じでした。すごく忙しかったです。

東京は情報や刺激に囲まれすぎています。落ち着いて自分の内側を考えて、感じてから表現するよりも、外からの情報をキャッチアップすることに、意識の大半が持って行かれるな、これで良いのかなと感じていました。もともと自然が好きなので、命としての自然のリズムに近いところで暮らしがしたいなという思いがありました。

あとは子どもの小学校です。夫は子どもを信頼していれば、どこの学校に行っても良いと考えていました。でも私は、積極的に選んでもいいのではないかという気持ちが生まれてきたのです。私はもともと教育学を専攻し、モンテッソリー教育を含むオルタナティブ教育などを専門に学びました。長男が小学校に入るときはいろいろと考えましたが、近くの公立小学校に入れました。でも小4ぐらいから、これで良いのかなと思い始めて。

── どういうところが、疑問に思い始めたのですか。

圭美:例えば、ケンカがあったときに、先生は子どもにどう介入するのか。誰かを悪者にして、誰かを被害者という形にして、善悪や正しさを教え込むよりも、一人ひとりに耳を傾けて、お互いを大事にしたかかわり方を学んでほしい。次の時代を創る子どもたちとわかちあいたい価値観は何だろうと深く考えるようになりました。

あとは長女が、「学校が楽しくない。行きたくない」という思いが強くなってしまったからです。

泰伸:泣きながら、「行ってきます」って家を出るじゃないですか。10分後、外を見ると2メーターだけしか進んでいない。

圭美:学校のすぐ近くまで送って行ったのに、そこから「学校への道のりがわからなかった」と行けなかったことがありました。

泰伸:あ~、あった、あったな。

── 学校でイヤなことがあったとか合わないなどの出来事があったのですか。

圭美:長女はとても自由で、繊細なタイプの子なんです。1年生の先生は自由にやらせてくれる人で、「この子は将来会社員とかにならなそうだから、もう好きなようにやってごらん」って、のびのびとかかわってくれました。でも2年生の先生は、きちんとすることを大事にする先生でした。本当に教師として一生懸命やってらっしゃるのだけれど、子どもには「厳しい」という現実に転換されてしまうのは、本当に残念だなと思って。

外の世界に「適合」か、内側から「創造」するのか

── きちんとしなさいという、昔からの学校の価値観がつらかったということですか。

泰伸:それを僕らは、「適合」と呼んでいます。勤勉努力が大事で、適合することを求める。富国強兵の近代化のプロセスの中では、従順に従う労働者を育てるためには個性なんていらない。学校では適合的な訓練をして、軍隊や工場、町で商売していても、きっちりとした基本が同じようにできることが重要だった。それがいまの学校に残っている。企業は、もう改造していますけれどね。

── 学校だけは、まだその価値観を強く信じている。

泰伸:学校の先生の中には、信条として信じている方もいらっしゃる。「絶対に遅刻してはならない」とか。

圭美:学校の先生一人ひとりには、悪い人はいません。個性や創造性を大事にはしていますが、集団という学校文化の中ではそこがうまく働かない。

── 適合に対するものとしては、何があるのですか。

泰伸「創造」と言っています。外側の世界に対して適合するのか、自分の内側から創造するのかです。

圭美:学校も教育改革に取り組んでいますので、じわじわと変わっていると思います。でも子どもにとってはいまが大事。学校改革をしている間に、あっというまに大学生になってしまう。

だったら、新しい取り組みとして、これまでとは違う教育文化の学校を作ろうとしている「軽井沢風越学園」に自分も保護者としてかかわってみよう。いまこの瞬間も子どもが幸せであるようにとの思いがあって、新たな世界に飛び込んでみました。

学校法人「軽井沢風越学園」は、長野県軽井沢町に2020年4月に開設された。幼稚園と小中一貫教育を目的とした義務教育学校で、遊びから学びにつながる人間の自然な育ちを大切にする。授業や学級編成など従来のカリキュラムにとらわれずに、子どもと大人が一緒につくる教育を目指している。

「楽天」の創業時に副社長を務めた本城慎之介氏が理事長。埼玉県の公立小で22年間教師を務め、2015年から東京学芸大学大学院教育研究科准教授を務めた岩瀬直樹氏が、学園の校長と園長になっている。

保護者と一緒に学びをつくる風越学園

── 風越学園のどこに一番魅力を感じていますか。

圭美:先生たちがとてもオープンで、学校を作る試行錯誤もつまびらかにしています。出来上がったものを親や子どもに提示するのではなくて、一緒に作っていきましょうと呼びかけています。学校の先生が「私たちもここが難しいと感じているので、こんなチャレンジをしてみました」とプロセスを公開していて、親も一緒に入り込める余地があります。先生が一人の人間としてそこにいて、先生という仮面をかぶっていない。ありのままの姿で子どもとも保護者とも向き合ってくれる感じです。

── 上からの目線ではないということですか。

圭美:そうですね。先生だって、失敗もすれば間違いもあるし、感情もあるという自然体のところが魅力的ですね。

── 長女の様子はいかがですか。

圭美:毎日「楽しいよ」と言って通っています。でも本当に自由な子なので、風越でも、「明日、学校休んでも良い?」って聞いてきたので、どこでもそうなんだって感じですけど(笑)。

── 「休んでも良い?」と聞くのは、他にやりたいことがあるのですか?好きなことを続けたいからですか。

圭美:そうですね。その時期は、羊毛フェルトにはまっていて。「犬とか動物をずっと作りたいから休んでも良いか」って聞いてきて。

── そのときは、なんて言ったのですか。

圭美:風越学園には自分で自由にデザインできる時間があります。「学校に羊毛フェルトを持っていったらいいじゃない」と言ったら、「えー、学校でやっていいの?」って喜んでいました。

── なるほど。学校の中で好きなことを追求できるのは良いですね。

圭美:「セルフビルド」という時間が毎日あります。いまは水曜日がまるまるセルフビルドです。試行錯誤をしていて、1学期と2学期ではがらりと時間割が変わりました。基礎的な教科とセルフビルドをどう組み合わせるのか。子どもたちがやりたいことに没頭する感じが続くにはどうしたらよいか。いろいろ考えながら作っているのがわかりますね。

── 基礎的な教科の力が足りなくなるのでは、という不安はありませんか。

圭美:風越の保護者からも、「学力は大丈夫ですか」との声はありました。学校のスタッフの人は、「大丈夫ですか」と学校へ問いかけるのではなくて、「どうしていきましょうか。話し合いましょう」という雰囲気で、一緒に作る感じです。

私は、学力はいつでも身につくと思っています。それよりも心の発達には、その時期を逃すと発達しにくくなる臨界期という時期があります。後回しにしない方が良いこともあります。知識やスキルは3年生でやらなければ、5年生では身につかないということはあまりない。やりたいって興味を持ったときに、爆発的に一気に吸収できる素地を作っておけば、大人が焦って学ばせなくてもいいんじゃないかな。

── 学力はやりたいと思ったときに身につく。でも感性を育てるには時期がある。

圭美:感性をはぐくむとか、驚いたり感じたりする心は、一度閉じてしまうとそのふたをあける方が大変です。例えば「人前では感情的になってはいけない」と小さいときに学んでしまうと、なかなか変えられない。

やわらかい心が維持されていて、「あっ、面白いね」っていう気持ちがあれば、人はいつからでも何歳からでも学べると思います。

── 5人のお子さんの性格は、みんな違うのですか。

泰伸:全然違うよね。長男と長女はまったく違うし。

圭美:長女は「芸術は爆発だ」というだけでなくて、繊細さもあります。どうしたらこういうユニークな子が、のびのびと人生を送れるような社会が生まれるのか。うちの子だけではないと思います。すべての子どもはそれぞれに個性的で、いろんな子がいて、みんないいねっていうコミュニティが出来てくればいいなって思いますね。

不安と期待のどちらから子育てしてますか

── 「きちんとさせた方が良い」と「個性を伸ばす」の間で葛藤している親が多いと思います。不安になってしまう親は多いです。

泰伸不安から生まれる子育ては、適合的になる。強制しようとする。親の根っこが期待から生まれる子育ては、創造的になる。どちらの根っこで子どもと向き合っていますか、ということがすごく重要な親への問いかけになる。不安ですか、期待ですか。

圭美:不安になっちゃうときに、子どもを変えようとするんです。でも不安だと思う自分の心の底には何があるのかな、と考えます。実は過去に、自分がうまくできない子どもで、いまの自分が残念な感じになっている思いを、子どもには味わわせたくないと考えているのかもしれない。あるいは、「あなたのお子さんは元気すぎて大丈夫ですか」などと言われる他人の目が心配なのかもしれません。

子どもは本当に命の輝きです。でも大人が考えすぎちゃって不安になることが多い。親自身の不安や心配に、大丈夫だよと自分に言ってあげることの方が先かもしれません。

── 子どもが不安だと言いながら、その不安は自分のどこから来ているのか。親がよく見つめた方がいい。

泰伸:自信と期待に根っこがはった親と、不安と心配に根っこがはった親は、全然違う。もう、顔見ればわかるね。「自己統合」という言葉があって…。なんて説明すればいい?

圭美:自分の中に、「知的な自分」と「できない自分」「うそをつく自分」などがいろいろあるけれど、どんな自分もあるがまま受け入れることです。

受け入れられない人ほど、子どものダメな部分を直そうとする。けれど、それはだいたい自分のダメなところなのです。自分のダメな部分を子どもがやると「それはやっちゃダメ」と、とてもイライラしてしまう。

── 5人育てる中で、そういうことがわかってきたのでしょうか。

圭美:5人の子どもに育ててもらっている感じです。1人、2人なら一生懸命な自分でカバーできる。教育学を学び、保育士の資格もあるので、「全部の知識を総動員して、最高の子育てを」と最初は思っていました。でも、親がなんとかしてあげようとしなくても、子どもって自分でこんなに育つんだと子どもの姿から教えてもらいました。

子どもの数が増えると、本当に「できない」っていう感じで(笑)。私はできるはずだという全能感がどんどん失われて、できない自分に出会ってしまう。そうするとまわりの方が助けてくれます。人に助けてもらうことを学んでいくプロセスですね。

── 子育てで一番大事にしていることはなんですか。

泰伸:子どもの個性に合う育て方をする。親の理想を押しつけない。僕たち3兄弟は、父親の影響からか結局、似たところがある。3人とも京都大学に行って、いまは起業している。でも5人の子の将来はきっとバラバラになるだろうな。それが楽しみですね。

圭美:本人が幸せになることに尽きますね。親が思った幸せではないかもしれないけれど、日々、「生きているって楽しいな」と思ってくれるといいな。

軽井沢移住は「めっちゃ、英断じゃん!」

── 子育てで意見が分かれることはありますか。

圭美:2人の意見が違うことはない。ただ、風越に行くときには、最初は意見がわかれました。夫は学校なんてどこでも良いじゃないかという考えだったので。

泰伸:軽井沢に移住することには、やや反対というポジションだった。でもいまは、「めっちゃ、英断じゃん!すごいな。よく言ってくれたな!」という気持ちです。

── なぜ、反対だったのですか。

泰伸:三鷹に仕事場があるので離れられない。軽井沢に移住すると往復が大変だし、単身赴任になるのか。交通費や宿泊費、車など余計なコストがかかるとか心配なことばかりだった。

── コロナでこうなるなんて、思いもしないですからね。

泰伸:そうそうそう。ふたをあけたら、いまは全部リモートワークでできる。緑に恵まれた都市に移住して理想的じゃないかとなった、結果的に。

森林のあるところに人間が帰っていくことは、適切な選択ですね。前は、東京の高層階の最上階にあるオフィスや住居が憧れだった。いまは郊外の軽井沢や鎌倉に拠点があるベンチャーがかっこいいってなると良いですね。

圭美:みんなが思うかっこよさではなくて、自分が好きなモノや場所に合わせて生活して、働く世の中になると良いですね。ひとり一人が好きなことを軸に人生を生きていたら、長女みたいな独特な個性がある子も、生きやすい世の中になるかな。

唯一無二な個性が世界に77億あると思うので。それぞれが光って、素敵な社会になったら良いなと思います。

プロフィール:宝槻泰伸(ほうつき やすのぶ)

京都大学経済学部卒。著書に「強烈なオヤジが高校も塾も通わせずに3人の息子を京都大学に放り込んだ話」。「探究学舎」代表。

宝槻圭美(ほうつき たまみ)

国際基督教大学、英国サセックス大学大学院(国際教育学)修了後、バングラデシュNGO、JICAエチオピア事務所、ユニセフブータン事務所、ユネスコアジア文化センターにて国際教育協力に従事。保育士の資格あり。探究学舎を運営する株式会社「ワイズポケット」取締役。

撮影:工藤隆太郎

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平岡妙子
平岡妙子

朝日新聞社に記者として入社し、社会部、AERA編集部や武蔵野支局長など。教育担当が長く、主に小中学校の学力調査や受験業界などを取材。小学生の時には合唱団で歌っていました。学校の取材で子どもの歌声を聞くと、涙腺がすぐゆるむ。大学生の長男と小学生の長女がいます。

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