2020.12.25
習い事最前線 北川サイラ

剣道の習い事が「鬼滅の刃」で子どもに人気 記者も稽古を体験してわかった剣道の心

映画が大ヒット中の漫画「鬼滅の刃」に登場するキャラクターに憧れて、剣道を習い始める子ども剣士が増えているようだと聞き、東京都内の道場に足を運んでみました。剣道と「鬼滅」に通じるものとは何なのか――。その答えが知りたくて、記者も稽古に参加してみました。

今日のポイント

  1. 「全集中!」剣道道場の子どもたちの気合が高まる
  2. 昨年入会者ゼロから 剣道道場に17人の子どもが入会
  3. 剣道の習い事でも大切 全集中の呼吸
  4. 「己の心の鬼」と戦う強さ
  5. 記者も稽古を体験 やると心に決めることが大事

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「全集中!」剣道道場の子どもたちの気合が高まる

「全集中!」「竹刀はまっすぐ上げてまっすぐ下げる!」「刃筋をちゃんと立てて!」

そんな声が響くのは東京都文京区にある文誠剣友会の道場。5歳から高校生までの幅広い子どもたち約60人が通っています。

記者が訪れた2020年12月中旬には、剣道を習い始めたばかりの小学生低学年の5人が基本の一本打ちの技などに取り組んでいました。冬の寒い日ですが、裸足のまま真剣な顔つきで元気いっぱいに竹刀を振ります。

稽古中に『全集中!』と子どもたちに言う機会が増えました」と指導する4段の及川雅司さん(40)は話します。気合を入れるときに声をかけると、子どもの表情が引き締まるといいます。

正しく振れていない子には、先生が見本を見せながら、竹刀の持ち方や正しい打ち方などをひとつずつ丁寧に説明していきます。習いたての子どもたちは、基本の「すり足」を忘れてバタバタと走ってしまう子が多いが、先生に指摘されると、足元に意識を向けてやり直す姿が目立ちます。

習い始めて間もないと、どうしても「遠慮がち」に打ってしまう子もいます。剣道歴4カ月の海老原央玲芹(なるせ)さん(小2)もそのひとり。「もっと元気よく!」とアドバイスを受けると、先生に向かって「メーン!」と思い切り竹刀を振りました。

「覚えることが多いけどちゃんと打てるようになると楽しい」。そう話す海老原さんは、漫画に登場する女性の剣士「胡蝶しのぶ」に憧れて剣道の世界へ。「しのぶのようなかっこいい強い剣士になりたい」と少し照れくさそうに、話します。

昨年入会者ゼロから 剣道道場に17人の子どもが入会

文誠剣友会は3月から7月にかけて、新型コロナウイルスの影響で稽古を休止していました。しかし、稽古を再開した8月以降、17人が入会(男子11人、女子6人)。うち海老原さんのように鬼滅の刃をきっかけに剣道に興味を持って入会した子どもは3人います。「昨年は入会者がゼロだったので…こんなことは今までなかった」「これまでは男子の割合が多かったけど、女の子も多く入ってくれてうれしい」と、同会は驚きの声を上げています。

「鬼滅の刃」は主人公の竈門炭治郎が鬼となった妹・禰豆子を人間に戻すため、様々な剣術を繰り出して鬼と戦う物語。そんな「鬼滅ブーム」に後押しされ、自分も剣を振ってみたいと入会する子もいます。剣術だけでなく、「禰豆子を守り、鬼にも優しさを見せる炭治郎が好き」と、家族や仲間を思うストーリーが人気です。

5歳から剣道を続ける及川歩美さん(小6)。炭治郎が禰豆子のために厳しい修行を耐え抜く姿を見て、「反復練習ばかりで気持ちが入らないときもたまにあったけど、漫画を読んでから、強くなるには日々の積み重ねが大切だなと思いました。もっと稽古を頑張りたい」と気合を入れます。

女の子の後輩がたくさん入会して喜んでいた及川歩美さん(中央)。剣道を始めたばかりの海老原央玲芹 さん(右)

鬼滅の刃のキャラクターが着る羽織の柄「市松模様」「麻の葉模様」など、日本伝統の和柄は子どもたちの間でも人気で、和柄をあしらった鍔(つば)を竹刀につけたり、手拭いを使ったりする子もいます。同会は鬼滅をきっかけに、より多くの子どもたちに剣道に興味を持ってもらいたいと、ホームページのデザインの一部に市松模様を取り入れました。

漫画の影響で鬼滅グッズを持つ子どももいます

※漫画では禰豆子の「禰」は旧字体ですが、本記事では新字体を使用しています。

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剣道の習い事でも大切 全集中の呼吸

コロナの飛沫(ひまつ)感染を防ぐため、子どもたちはマスクの着用に加え、面の内側に鼻や口などを覆う「シールド」をつけています

漫画の中で、炭治郎たちは身体能力を向上させる「全集中の呼吸」という呼吸法を身につけます。これができると、鬼を倒すために必要な剣術を使うことができます。剣道でも「呼吸」は大切なのでしょうか。

人間は息を吸うときは瞬時に体を動かすことができないため、この瞬間は相手に隙を与えてしまうといわれています」と説明する教士7段の鍋迫英輝さん(47)。隙を与えないためには、できるだけ短く息を吸って長く吐く呼吸ができるようになることが大切だといいます。

逆に相手の呼吸がよく見えるようになると、今度は相手の隙を攻めることができますが、「実際は達人技のようにとても難しい。子どもたちには竹刀を構えるときに『鼻から息を吸って、口からゆっくり吐こうね』と基本の呼吸の仕方を伝えています」。

上級者には、「丹田(たんでん)に気を込めて」と伝えます。丹田とは臍(へそ)の下の周辺を指し、呼吸をすることでそこに力を入れます。そうすることで、上半身の余分な力が抜け、下半身はいざというときに瞬時に動ける状態になります。炭治郎が師匠・鱗滝(うろこだき)左近次から呼吸法と型を習うシーンが漫画の中で描かれています。及川さんは「あの場面でおなかに力が入っていないと炭治郎が怒られていました。剣道でいう丹田に気を込めることと重なり共感しました」と話します。

「己の心の鬼」と戦う強さ

笹沼さんは「黙想することで、稽古で学んだことやできなかったことを振り返り、自分と向き合ってほしい」と話します

物語の中で、鬼殺隊に入隊する炭治郎たちは様々な鬼と戦います。しかし同会の会長を務める錬士5段の笹沼健一さん(81)は「剣道に敵はいません。鬼滅に出てくるような鬼ではなく、『己の心の鬼』と戦います」。

剣道には「驚懼疑惑(きょうくぎわく)」という言葉があります。相手の予測できない攻撃に驚いたり、懼(おそ)れたり、疑ったり、迷ったりする心をいかに抑えるかが重要だとされています。心を静めないと、「打たれたくない」という焦りが動揺につながり、相手に心の隙を突かれてしまいます。

どんなときでも平常心でいること。それを身につけるには、日ごろの行動も大切だと笹沼さんは指摘します。学校で悩みや嫌なことがあっても、気持ちを切り替えてやるべきことをしっかりやる。「どんな状況であっても物事をやり抜く。稽古を続けることで得られる心の強さが剣道の魅力です」。

鬼滅の刃では、修行を繰り返して、家族や仲間を守るために心まで強くなって成長する姿を描いています。剣道で重要なのは、剣術がうまくなるだけではなく、礼儀や規律を通して思いやりのある人間に成長すること。精神の強さを鍛えることが通じているといいます。

子どもたちを指導する笹沼健一さん(中央)、鍋迫英輝さん(右)と及川雅司さん

笹沼さんは少子化などで剣道人口が減る中、鬼滅をきっかけに剣道界が盛り上がることに期待を寄せます。「『水の呼吸』など漫画のような華やかな技ができるわけではありません。実際は地道な反復練習ばかり。稽古が続くと、つらくなるときがみんなあります。ですが、そこを一緒に乗り越えてもらうことで、己の中の鬼と戦う心を身につけてほしい。ぜひ続けてもらいたいですね」。

記者も稽古を体験 やると心に決めることが大事

ちょっとしたことでイライラしたり、すぐに泣いたり、ずっと過去をひきずっていたり・・・。そんな弱い自分を変えたい。そんな思いを胸に、記者も稽古に挑戦してみました。

笹沼さんが「終わり」と言うまで、参加者全員でひたすら竹刀を振り続けるという稽古をしました。最初は「1~2分ぐらいかな。いけるでしょ」と思ったけど、1分も経たず呼吸が乱れはじめました。竹刀がだんだんと重くなってきます。「しんどい」とつい本音がポロリ。裸足の足裏も、床の冷たさで感覚がどんどんなくなっていく。

心の中の鬼が、「早く暖かい家に戻ろうよ」とつぶやきます。3分経ったころ、腕の限界を感じ、「あと何分で終わりますかね」と近くの先生に小声で聞くと、「笹沼さんの気分次第。もう少し頑張って!」。

竹刀を振る記者

子どもたちの中には疲れてきたせいか、足元がふらつき、上半身の動きがバラバラになる子も。しかし、記者のように「きつい」「腕痛い」などと弱音を漏らすことはなく、真剣なまなざしでひたむきに竹刀を振り続けます。みっともない自分が恥ずかしく思えてきました。「このままじゃダメだ」。心を燃やし、自分の中の鬼と戦います。荒れた呼吸でマスクの中は息苦しさが増し、腕もちゃんと上がらなくなってくる。それでも、心を入れ替えて黙って懸命に振ることだけに集中。5分間の素振り稽古をなんとかやり抜きました。

「最後までよく頑張りました」と先生に声をかけられ、うれしさがこみあげました。やると心に決めたならできる。わずか数分間の「修業」でしたが、前より少し心が強くなったかも?と思えた時間でした。

ただ、今の私では修業の寒さに勝てなかったようで、翌日ちょっと風邪をひきました。自分の心の中の鬼に勝つまで、まだまだ剣の道を学ばなくてはいけないようです。

関連記事:剣道を習いはじめるならいつから?稽古内容や身につくスキルなどを紹介

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教室情報

文誠剣友会は青年少の健全育成を目的に1968年に発足。会員は100人(うち幼児2人、小学生28人)。稽古は週2回、東京都文京区立誠之小学校で開いています。指導者の多くは、自分の子どもが剣道を習い始めたタイミングで子どもと一緒に入会した地域の保護者たちです。学校と地域が一体となった活動は評価され、2004年に全日本剣道連盟から「少年剣道教育奨励賞」が贈られています。

撮影:篠田英美

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北川サイラ
北川サイラ

1992年生まれ、神戸出身。2016年に朝日新聞社入社。静岡、大津総局を経て、2020年10月から現職。小学生のころは器械体操に夢中でした。趣味は家庭菜園、寺社や銭湯めぐりなど。

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