2021.01.19
学びインタビュー 小内三奈

第3回:小学0年生までは「聞く」「話す」で伸びる! 「こぐま会」久野泰可室長

第3回:小学0年生までは「聞く」「話す」で伸びる!

第3回目は、タイトルにある「小学0年生」とは何なのか。この言葉に込められた思いについてお聞きしました。小学校入学後に伸びていく「考える力」がある子は、就学までの過ごし方が大きく影響します。家庭でどのように「考える力」の基礎をつくるか?毎日の生活、遊びの中で工夫すべきポイントを教えてもらいました。

小学0年生までにやる気と意欲を育てる

――連載タイトルにある「小学0年生」とはどういった意味合いでしょうか? 

コロナによる休校中に9月入学の議論が活発に行われました。その際に、文科省は9月入学を推進するための方策として「小学0年生」の考え方を検討したそうです。

結果的には何も変わらずに、日本の現状では年長さんが4月、全員一斉に小学校1年生に上がります。小学校入学でみんな同じスタートラインに立つものと思われるかもしれませんが、実際には入学時点で、目には見えない差が生まれているのが現実です。

読み書きがどれくらいできるか、という話ではありません。そもそも、読み書きは練習すれば大抵の子どもは上手にできるようになるはずです。月齢による発達スピードの差、得手不得手があるのも当たり前です。目には見えないけれど、後々大きな差となってくるのが、幼児期にどれだけの経験をし、それを意図的な学習にどのようにつなげていくのか。また、やる気のもとをどのように培ってきたか、なんです。

「小学0年生」という言葉を私が使ってみたのは、小学校に上がる前の「幼児期をどのように過ごすべきか?」を考えてもらうきっかけになれば、という思いからです。

この言葉を使い始めたのは、イギリスでは幼稚園・保育園を卒園後に小学校の中にあるクラスに1年間通って、小学校の入学準備のための時間を過ごす制度があることを知ったからです。

 ――1年生に上がる前に、小学校に通うのですか?

イギリスでは、幼稚園・保育園を卒園後に、小学校の入学準備のための1年間が設けられているようです。

これはイギリス独自の教育制度によるもので、9月1日の時点で満4~5歳になると、小学生の準備として小学校の中にある「レセプション」というクラスに通います。

義務教育ではないのですが、多くの子どもたちが通い、読み書き・算数・理科・社会の勉強をするようです。それ以外にも、いろいろな遊び(塗り絵・水遊び、砂遊び・ごっこ遊びなど)を通して大事なことを身につけていきます。

まさに「小学0年生」です。日本では幼稚園・保育園と小学校は完全に分断されていますが、2つをうまくつなぐことの重要性は以前から感じていました。

4歳児からの1年は、幼稚園や保育園ではなく、小学校の敷地内で小学校に上がるための準備をする期間。なるほど、これはいいなと思い、「小学0年生」という呼び方を取り入れてみました。

――遊びの中から学ぶのですか?

「小学校の入学準備」と聞くと、ともすれば日本では小学校受験のために机に座って勉強することを想像する方もいるかもしれませんが、まったくそういうことではありません。

小学校に入ってからぐんぐん伸びるには、幼児期に「エンジン」をしっかりと備えておく必要があります。物事に積極的に取り組み、生き生きと意欲的に取り組もうとする気持ちを養うことが何よりも大切なこと。

いざ本格的な学習がスタートしたときに、その「やる気」「意欲」こそ、「考える力」の土台となって花開いていくのです。

5歳までに身につける能力とは

―― 子どもの「やる気」や「意欲」はどうやったら身につくのでしょうか?

「幼児期の過ごし方がいかに大切か?」について、2000年にノーベル経済学賞を受賞したアメリカのジェームズ・ヘックマン教授の「幼児期の教育の質が、大人になってからの経済力や生活の質を高めることに影響する」という研究結果が世界中で注目されました。「5歳までの教育が人の一生を左右する」という大胆な仮説です。

さらにヘックマン教授は、「やる気」「根気」「意志力」「対応能力」「創造性」「協調性」など、最近注目されている「非認知能力」が人生に大きく関わっているとも指摘しました。

幼児期にさまざまな経験を通して、「楽しい」「もっと知りたい」というような主体的な取り組み姿勢を身につけた子どもは、学ぶことの楽しさを知っています。そのような子どもは、何か一つ新たなことを学んだときに自発的に「もっと学びたい」と感じ、その結果より高い次元の学びを自ら習得していくわけですね。

このような「学びが学びを呼ぶ」現象を起こすために、5歳までにいかにしっかりとした「エンジン」を備えられるか。ヘックマン教授の研究により、いわゆる「非認知能力」を身につけることの重要性が広く知られるようになってきています。

家庭で楽しんで数を身につける方法とは?

――非認知能力は、「みらのび」で掲げている「未来型スキル」につながる考え方です。未来に伸びていく子どもの根っことなる力を12個定めて、どうやったらこのスキルを身につけられるのかを伝えています。数値では測れない力を、小さいときに身につけることは大事ですよね。

子どものやる気を引き出すために、家庭でどのような経験をさせればよいでしょうか?

教科書にのっている知識を覚えたり図鑑を眺めたりすることより、日々の生活、遊びの中でこそ子どもの意欲が育つことをぜひ知っていただきたいと思います。

「幼児期の教育」といって身構える必要は一切ありません。机に向かわなくても教育のチャンスはあることをまずは認識することが大切ですね。

例えば、数の概念について。トランプなどのカードゲームをよくやっている子どもは自然と数に親しみますね。お友達が遊びに来たとき、けんかしないためにはお菓子をどう分けたらよいか、家族でケーキを等分に分けるにはどうしたらよいかなども、数を学ぶ絶好の機会です。お買い物ごっこの中でお金のやり取りをするのもいいですね。 

いずれも、遊びの中で子どもが楽しんで経験できることがポイント。そして、経験した後に、意図的に用意した問題を投げかけ、学びへとつなげてあげてください。

うまくつなぎをするためには、小学校入学後の学習内容を少し理解しておく必要はありますね。どうすれば学びにつなげられるかな?と、ぜひ入学後をイメージしながら考えてみてもらえたらと思います。

「読み」「書き」「計算」よりも、「聞く」「話す」

―― 小学校入学前に「読み・書き・計算」は必要ないのでしょうか?

計算や文字の読み書きを練習することが悪いことだとは思いません。ただその前に、「聞く力」「話す力」を身につけることの方がずっと大切です。

お子さんは、人のお話をよく聞けますか?自分の考えや思っていることをきちんと伝えられますか?自分で話のストーリーを考えてお話することはできますか?

「読み・書き・計算」という形に表れるところだけに目がいってしまいがちですが、実は「聞く力」「話す力」の方がより身につけるのが大変です。

また、算数につながる力として、計算力が何よりも大切と思う方も少なくないはずです。でも、幼児期には、生活に密着した「具体的な世界」で数の概念を身につけておくことの方がもっと大切です。

 ――具体的とはどのようにすればいいのでしょうか。

例えば、2個と3個を合わせると5個になるという5の構成の概念について、計算式にすると「2+3=?」「5」となるわけです。でも、それは「抽象的な世界」の話。

幼児には、「みかんがここに2個あるね。今日3個買ってきたから持ってきて」「全部で何個あるかな?」と、実際に食べるみかんを使って数を体験させます。

「具体の世界から入ること」が大切です。具体的な遊びの世界を、数の抽象的世界につなげてあげればスムーズに理解できるのです。机の上でやる抽象の世界から入るから、先々わからなくなってしまう。

遊びの中での数の体験を、抽象の世界の概念につないであげるのはお父さん、お母さんの工夫のしどころです。

計算は速いのに、文章題は解けないという子どもがいますね。形だけやっていても、将来必ずどこかでつまずいてしまいます。

生活や遊びの中で体験し、楽しみながら学ぶことで子どもの意欲は育っていきます。

その主体性や意欲、「学ぶって楽しい!」という気持ちこそが、小学校入学後に伸びていく「考える力」の土台となっていく。このことをぜひ知っておいていただきたいと思います。


プロフィール:久野 泰可(くの やすよし) 

1948年、静岡県生まれ。横浜国立大学教育学科を卒業後、現代教育科学研究所に勤務し、1986年「こぐま会」代表に就任。常に幼児教育の現場に身を置き、その実践を通して幼児期に大切な「思考力」を育てるための独自のカリキュラム「KUNOメソッド」を確立。著書に『子どもが賢くなる75の方法』(幻冬舎)、『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』(集英社)など。こぐま会HP:https://www.kogumakai.co.jp/

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小内三奈
小内三奈

ライター・インタビューアー。ビジネス・教育分野を中心に、新聞、雑誌、Webメディア等で執筆中。経営者や教育現場への取材の他、教育書・児童書の書評を執筆。その他、旅行、グルメ等幅広いジャンルに取り組む。好奇心旺盛でキラキラした子ども時代を過ごしてほしいと願い、「今、この瞬間」を大切に育児に励む2児の母。子どもの頃熱中したのはピアノ。4歳から高校1年まで続け、最後の演奏曲はショパンのノクターン。

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