コロナ禍で見直す家族のつながり 「パパカード」をクラウドファンディング
コロナ禍のリモートワークなどで、家族との関係を見直したパパたちがいます。10歳の息子と8歳の娘を育てる神奈川県の川口博史さん(42)もその一人。家族とのコミュニケーションをより良いものにするため、「家族にとっての最高なパパ」を目指す「アルティメット・パパカード」の作成を決意し、クラウドファンディングで資金調達に挑戦しました。カードに託した思いと、コロナ禍で気がついた妻との関係について聞きました。
「最高のパパ 」って、どんなパパ?
――現在制作を進めている「アルティメット・パパカード」は、どういう製品なのですか?
家族にとって、「最高のパパ」 を目指すカードです。カードを使ってパートナーとの話し合いを定期的に続けることで、家族として理想の方向性が見えてきます。「アルティメット」とは、「究極の」「最高の」を表す英語の意味です。
カードには「父親が子どもに努力の手本を見せる」など、具体的な行動がイメージできる内容を書いています。これは、「パターン・ランゲージ」という手法を参考にして作りました。パターン・ランゲージとは、可視化できていない暗黙のノウハウを形にすることで、誰でもその意味を理解できて、良い行動を反復できるようにしたものです。
問題を解決するとき、夫婦の考え方や行動は言葉にされずに暗黙的に行われることが多いです。なので、パターン・ランゲージがうまく機能すると思い、カードの形式にすることにしました。
――どのように使うんですか?
1カ月に1度、夫婦でカードを使った会議を開きます。カードは「家族が実践できている」「まあまあできている」「できていない」に、話をしながら選り分けていき、今月の目標を3枚(慣れてくれば7枚まで)に絞り込みます。それからは目標を意識して過ごし、また次の月に夫婦で振り返りをするんです。
この中で最もキーとなるのは、選り分ける作業です。父親側は「できている」と思い込んでいても、母親側は「できていない」と感じている可能性があります。カードを通じて夫婦ですり合わせを行うことで、自然に同じ目線を獲得していくんです。
.実は、カードには子どもだけでなく、妻のためのカードも9:1の割合で入っています。夫から妻をほめることが、子どもが生まれると照れもあって難しくなる人もいます。カードをきっかけにコミュニケーションが取れる仕掛けづくりをしています。
家族ごとに、男らしさや頼りがいなど父親の求められ方も違います。家族にとっての最高な父親は、母親との合意があって出来上がっていくもの。だから話し合って「理想のパパ」を目指すカードにしました。
妻との会話がなくなっていた理由を見直せた
――カードを作ろうと思ったきっかけを教えてください。
2020年4月から働き方がリモートワークに変わり、家族との時間ができたのがきっかけです。それまでは仕事のために朝6時に家を出て、24時に帰宅する毎日。平日は子どもの寝顔しか見られなくて、週末は、妻を労わるつもりで子どもと一緒に出かけたりしていました。
2人の子どもと遊ぶ川口さん
――リモートワークが始まった当初は、1度目の緊急事態宣言が発令され、小学校が休校措置を取っていましたね。
そうなんです。休校期間中は当日のスケジュールを子どもと決めるなど、フォローしていました。今は休校措置が解除されましたが家にいる時間が増えたので、子どもを身近に感じます。
子どもたちも、「今の父親の方がいい」と言ってくれますし、比較すると、リモートワーク後の方が良い生き方をしているなと思います。
一方、妻の反応は、あまり良くありませんでした。料理や皿洗い、掃除など、自分なりにできることを手伝おうとしても、「やらないで」という雰囲気。私が作った油汚れを無言で掃除された時は、逆に迷惑をかけたなと反省しました。
――家事をしてもらうと助かるような気もしますが……。
実は妻との会話は事務連絡がほとんどで、コミュニケーションをあまり取れなくなっていたんです。彼女に声がかけにくくて、皿洗いや掃除などの家事も私が勝手に始めました。
なんでこんな夫婦関係になってしまったんだろうと危機感が強くなり、いろいろと原因を調べました。そこで知ったのが「女性の愛情曲線」です。子どもが生まれてから乳幼児期までに、「夫と二人で子育てした」と感じた女性の夫への愛情は回復しますが、「一人で子育てした」と感じた女性の愛情は薄れていきます。
出典:東レ経営研究所ダイバーシティ&ワークライフバランス研究部長 渥美由喜著「夫婦の愛情曲線の変遷」
私は低迷グループに所属しているのでしょう。これまで、父親は仕事、母親は家を守るという役割分担が良いことだと思っていました。でも、本当はもっと育児に参加すべきだったんですね。その結果が、今のような妻との関係を作ってしまいました。
正直に言うとリモートワークになってから、これまでの自分を見直して反省する時間が増えました。もし以前の私のように「父親は仕事だけしていればいい」と思っている方がいれば、「それはまずいぞ」と伝えたい。だから、パートナーと家族の将来について話し合うカードを作ったんです。できればたくさんの父親に使っていただきたいです。
――コロナ禍で改めて、家庭での父親の役割を考えたんですね
そうです。コロナ禍をきっかけに、自分にテコ入れができてよかったです。これがなかったら、定年を迎えた時には誰もそばにいなかったということが起こり得たのですから。
長い時間をかけて夫婦の関係を変えていきたい
――試作品のカードを作られたそうですが、自宅で使われているんですか?
使っています。妻は最初、「こんなの、誰がやるの?」と嫌がりましたけど、カード作りに付き合ってくれています。
カード でわかったのは、夫婦で何を大事にしているかが違うことでした。例えば、私は子どもに「生き抜いていく力」を身に着けてほしい。だから他学年との交流など、どんどん挑戦するような経験もさせたいと思っています。けれど妻は子どもの年齢的にそこまでの力は求めておらず、安心・安全や、すくすく育つことを大切にしているんです。
家族として何を大事にすべきか。意見のすり合わせができたので、夫婦そろって、同じ目標に向かうことができていると思います。
カニ捕り中の川口さんの子どもたち
――パートナーとの関係は改善されましたか?
会話は増えましたけど、どうでしょうね。長い時間をかけて修復していく必要があります。
でも、コロナ禍で改めて、妻がパートナーで良かったなと思いました。彼女がどれだけ子どもたちから慕われているか、リモートワークでより感じられています。すごいなと尊敬しているし、彼女にもっと愛情を注ぎたいです。
男性って問題解決をしたがるので「素晴らしい夫婦関係になりたい」とすぐに願いますが、一瞬ではたどり着けません。カードを使って夫婦で話し合い、ワークライフバランスを大切にした行動を心掛けたいです。
支援してくれた人は、同じように夫婦関係を見直したいと願うパパも多い
夫婦で共通の家族意識を持つことは、安定した家庭環境を育みます。いままでうまく言えなかったり、気がつかなかったパパの思いを伝えられるきっかけになるでしょう。45枚のカードを使いながら話し合うことで、子どもの健やかな成長にもつながると良いとの思いを込めました。
「アルティメット・パパカード」は4月30日の製品完成を目指し「READY FOR」でクラウドファンディング を実施中です。目標金額は60万円。締め切りは2月7日まで。
プロフィール:川口博史(かわぐちひろし)
建設業を経て教育補助企業に転職。中学生・高校生向けのキャリア教育に大手旅行業者と共に8年間携わる。2018年からは「探究」に関わる教材を制作。偏差値とは異なった視点で子どもたちの成長に関わる。
写真提供:川口博史
★このプロジェクトは、2021年2月7日、63万7000円の資金を調達し、目標を達成して終了しました。