2021.02.26
学びをはぐくむ 曽田照子

映画「ママをやめてもいいですか!?」豪田トモ監督インタビュー

子どもを愛してはいるけれど、日々の子育てが大変すぎて悩んでいるママと家族の歩みを描いたドキュメンタリー映画「ママをやめてもいいですか!?」(ナレーション:大泉洋)の豪田トモ監督(企画・撮影)に、「みらのび」の平岡妙子編集長がインタビューしました。

ママの孤独な子育て パパが一緒に取り組むために必要なことは?

――とても素晴らしい映画で感動しました。多くのシーンを「あるある」と共感しながら拝見しました。監督はなぜ「この映画を撮ろう」と思ったのですか?

僕はいま小4の娘がいるんですが、子育てに熱心な方だと思います。彼女が生まれたときに半年、4歳の時には第二育休を取りました。

子育てを楽しみながらも、子どもが思うとおりにならなかったり、ママと子どもの輪に入れずに自分の居場所がないと感じてしまったり、「パパをやめてもいいですか!?」と思ったことが何度もありました。

ママたちの話を聞いてみると、僕と同じように子育てがうまくいかなくて苦しんでいる人がいっぱいいる。でも、子育てって本来苦しんでやるものじゃないですよね。子どもの笑顔のために歯を食いしばるのは本末転倒で、親が本当に楽しんでいないと子どもも笑顔になりにくい。

「じゃあ、ママや僕らが笑顔で子育てするにはどうしたらいいか」と考えているうちに、この映画を作ることになりました。

映画「ママをやめてもいいですか!?」(ナレーション:大泉洋)。映画は、家族や周りの人の協力を得られずに孤立する「孤育て」や産後うつなど様々な問題を、様々なママに密着しながらリアルな悩みを描いています。ママやパパの姿だけでなく、産婦人科医など専門家の視点も交えて出産や子育ての社会問題を伝えています。2020年2月公開。本編92分。全国各地で自主上映中。豪田監督が制作した様々な課題を持つ家族を追った映画「うまれる」「ずっと、いっしょ」の2シリーズは、公開後90万人が視聴しました。

ママはF1、パパは自転車

――いまの日本でママたちが孤独な子育てになってしまうのは、なぜだと思われますか?

パートナーがいる人は、パートナーが一緒に子育てしないかぎりはママの孤独は解消されません。なぜパパが戦力にならないのかは、教育の問題もあると思っています。

子どもを育てることほど範囲が広くて、奥深くて、重要なものはないにもかかわらず、産むまでほぼ何の知識もなく過ごしてしまっている。学んで来ていないし、赤ちゃんと接する機会もないし。

全く分からない状態で、いわば「子育てプロジェクト」に入るんですが、男は傾向として「勝ちゲーム」じゃないと入りたがらないところがあります。それで「わからないから任せるよ」という感じになってしまう人が多いんですね。それまでの人生で子育てに触れたり学んだりしてきていないことのしわ寄せが来ている。

――確かに学校で子どもを育てることを学ぶ機会は全然ないですよね。

例えば仕事なら、発注してくれるクライアントのことを調べるし勉強をする。株を買う時も、家を買う時もそうですよね。本当は勉強しなければいけない。それなのに、子どもを育てるとき、子どものことを勉強しないまま子育てに入る。そんな甘いもんじゃないと僕は思うんです。知識も経験もない、そんな状態で子育てをすると追い詰められるのは当然です。

学校や会社、産科クリニックなどで社会体制として、もっともっと学ぶ機会を作ってから親になるのが理想的なのにな…という気がします。

――子育ては夫婦が一緒になって取り組むものなのに。

女性は妊娠・出産を通して学ぶし、自分のことだという意識も出てくる。それに対して男性はそこまで切羽詰まっていない人が多い。「本当に父親となった」と心で思うのって、すごく遅いんですよ。取材した中では、多くのパパが生後8ヶ月とかで、赤ちゃんが笑ってくれて、やっと「父親になった」と実感している。本来なら生まれた瞬間に、育児をする心構えができていないといけないのに、ほとんどの父親はピンときていない。

ママはF1で走っているのに。パパはママチャリで追いかけているような状態です。ギャップが広がるし、夫婦クライシスになりやすくなりますよね。

孤独な子育てにはリスクがいっぱい

――そう考えるとパパの育休はすごく重要ですね。

むちゃくちゃ重要だと思います。本来なら父親になる準備を整える教育が必要だと思いますが、ただ、そこが出来ないならショック療法で育休を義務化して、子育ての機会を作るくらいの勢いがないと、世のママはどんどん追い詰められてしまいます。    

 

ワンオペ育児がもたらす5つの弊害

――「仕事で遅くなるのが当たり前」という日本社会で、ママが子育てを背負ってきた歴史がありますね。

「いままでママがひとりでやれてきたからいいでしょう」というのは大間違いです。そのひずみが現代社会に問題として出てきている。いわゆるワンオペ育児の弊害は5つあります。

  1. 夫婦仲の悪化
  2. ママのうつ病など精神状態の悪化
  3. 子どもへの虐待の可能性
  4. ママの自殺
  5. 子どもが愛着障害を持ってしまう可能性

依存症やクレーマー、SNSでの誹謗中傷も愛着障害が背景に

5つめはあまり知られていないのですが、子どもが「無条件の愛情や信頼をもらえていない」と感じることで、愛着障害を抱えてしまう。現代の社会で問題になっている、引きこもり、うつ病、精神疾患、依存症などの背景には、この愛着障害があると言われています。クレーマーやストーカー、ハラスメント、SNSでの誹謗中傷なども同じです。

子育てに父親が関わらず、ママの孤独な子育てで「無条件の愛情や信頼を与える」余裕がなくなってしまい、愛着障害を抱えたまま育った人たちが、様々な問題にぶちあたってしまっている。

もちろん一概には言えませんが、父親が子育てに参加しないと、数年後や数十年後にこのような社会的な課題が増えるリスクがあることは、知っておいた方がいいと思います。

――映画の中で「ケンカになるのが嫌でパパに対して言えなかった」という人がいましたね。相手に気持ちをぶつけられないというのも本当に大きな問題だと感じました。

コミュニケーションの問題だと思うんですね。ケンカってコミュニケーションの失敗、またはコミュニケーションのゆがんだ形、激しい側面と言えます。自分が伝えたいことを相手に分かるよう伝える、そして相手を尊重して話を聞くという技術がうまくできていないのかもしれませんね。ケンカにならないように、対話が出来るコミュニケーションが必要ですが、根も深くて難しい問題ですよね。自戒も込めてですが…。

自分の親との関係を乗り越える

――子育てをしていると自分の親との関係も出てきますね。取材しながらどんなふうに思われましたか。

自分の親との関係が良ければ子育てはすごく楽な傾向があります。自分が親にしてもらったことをそのまますればいいのだから。

でも親との関係が良くないとか、親にされたことが嫌だった場合、一から自分で「親像」をつくりあげなきゃいけない。それって、すごくしんどい作業なんですね。親としてどうすべきかが見えないと、無意識のうちに、親にされて嫌だったことをしてしまう、という負の連鎖ができてしまう。

このようなことを避けるために、子育てに関わる重大な「さしすせそ」をお伝えできればと思います。

子育てに関わる重大な「さしすせそ」

  • さ:サポート・理解
  • し:社会・生活環境
  • す:ストレス
  • せ:性格(パーソナリティ)
  • そ:育ち(生育歴)

サポートが足りなくて、生活している社会環境がよくないとストレスが溜まるし、こだわりが強かったり完璧主義な性格だとつらくなりがちだし、その性格を作りあげるのは育ちの部分が大きく……といったように、子育てはこの「さしすせそ」が複雑に絡まっています。

自分の親子関係が実は子育てにとても影響していることを、親として知っておいたほうが助けになると思います。

――子どもに同じことをしてしまうというのはよくありますね。映画のなかでは、愛着障害を乗り越えたお母さんの姿が感動的でした。

彼女がすごいのは、「そうしないと自分にも子どもにもマイナスになる」と分かったうえで「そうしよう」と決めて取り組んだところなんですね。

僕も愛着障害を持っていたのですごく彼女の気持ちが分かります。乗り越える前の気持ちも、乗り越えたらどういう景色が広がるかも。そういうメカニズムや影響、風景も今後の作品の中で表現していきたいと思っています。

親との関係を改善するのは、実は子どものためにできることの重要な要素の一つだと思います。とはいえ、難しい場合もあると思うので、「生んでくれたことだけは感謝しよう」とか、自分の中で親を受け入れて理解する部分や落としどころを作っていけると、ものすごい助けになります。

自分の親との親子関係の改善に取り組んでいくことで、自分の子との関係もすごく良くなります。イライラしにくくなるし、心も穏やかになって、子どもにも穏やかに接することができやすくなる。難しいことですけれど、愛するがわが子のため、と思って、向き合ってもらえたらと切に願います。

――わが子を愛することで、自分自身の親との関係を、乗り越える方向に行けるということですね。

そうなったら素敵なことです。ただ、親とうまくいかなかった関係性を、子どもによって解消しようというのは、とてもハイリスクであることは理解しておいたほうがいいです。子どもへの要求、期待が大きくなってしまう。親からもらえなかった愛情を子どもからもらいたくなってしまったりもしますし、自分が出来なかったことを子どもに求めたりしてしまうんですね。

――「産後うつ」が10人にひとり、とても多いと改めて知ったのですが、こんなに多いのは日本だけですか?

日本だけの特殊なことではありません。ほぼ世界共通の数字です。

産後うつだけでなく、育児ノイローゼもとても重大な問題です。産後は大丈夫でも、パートナーの理解が欠けていたり、頑張りすぎたりして、うつ状態になってしまう人もいます。

――ひとりで育てるのは無理なので、いかにパパと一緒にできるかにつきますね。

現実的にパパに頼れない方も見てきました。そういう場合は周りをどう固めてチームづくりをするか、ですよね。親や、ママ友、保育園や自治体のサービスなど社会的なサポートや、自分の居場所を見つけるとか、いろんな方法があります。自分と子どもを守るため、頭に入れておくと良いですよね。

――いろんな人の手を借りて子育てをしたいんですが、コロナ禍で孤独な子育てが加速していると感じます。そのあたりはどう考えたら?

非常に難しくて「これだ」という答えがまだ見つからないんですが……ひとつは「とらえ方」をどう変えるか、だと思います。去年の緊急事態宣言で、学校が休みで子どもがずっと家にいたとき、うちの奥さんがすごいなと思ったのは「こんなにべったりいられる機会は、もうないかもしれない!」と言っていたんです。ストレスはあっても、「とらえ方」を見事に変えたことで、精神的な負担が減って、笑顔が増えました。

「孤独で誰も会えないからつらい」というだけではなく「孤独で人に会えないからこそ、こういう工夫をしてみよう」とか、「子どもとずっと一緒にいるのはしんどいけど、こんないいこともある」とか、なにかひとつポジティブなところを見つけられると、それが自分を救うことに繋がるんじゃないかと。

――こんな機会はなかなかない、今を大事にしようと切り替えられるかどうか。

それは、すごく大事なことだと思います。こういう状況だからこそ、前向き、ポジティブに変えられるといいと思うんですけどね。

「パパも大変」を理解して、お互いに話し合う

――男性の産後うつも女性と同じくらいの割合で存在しているというシーンが驚きでした。男性はイクメンプレッシャーもあって、「つらい」と言えない空気もありますね。

あの場面は、「お互いに相手がしてくれていることを当たり前だと思っていませんか?」という投げかけでもあります。例えば、「パパが稼ぐのは当たり前」で、どのくらい苦労しているかに思いをはせられないママもいるのかな、と感じます。僕は自分が男性だから常々そういうことを考えていました。

ママに対して「夫が働いているのが当たり前だと思っていない?」、パパに対しては「妻が子育てをしているのが当たり前だと思っていない?」と。お互いに当たり前と思わずに、いたわって、感謝して、笑顔でいたほうがいいですよね。

――大変さをぶつけ合うだけでは解決にならなくて、お互いに話し合うことが大切ですね。最後に「ママをやめたい」「でも子どもはかわいい」と揺れ動くママ達にメッセージを。

「ママをやめてもいいですか!?」と思うことは決して罪じゃないし、そう思うのは、それだけ一生懸命取り組んでいることと、それだけサポートが足りないということ。

同じような立場で頑張っているママはたくさんいるので、「あなただけじゃない。あなたのせいじゃない。あなたは1人じゃないよ」と伝えたいですね。この映画が子育てのサポートになったら嬉しいなと思っています。

――本当ですね。どうもありがとうございました。


豪田トモ 

映像クリエーター、映画監督。1973年生まれ。命と家族をテーマとしたドキュメンタリー映画「うまれる」(2010年/ナレーション=つるの剛士)、「ずっと、いっしょ」(2014年/ナレーション=樹木希林)は累計90万人以上を動員。ともにDVDを好評販売中。2019年に初の小説『オネエ産婦人科』(サンマーク出版)を刊行。1児の父。

曽田照子
曽田照子

ライター。広告制作会社を経て20代前半でフリーに。「親から子への言葉かけ」をメインテーマに、書籍やWEBで書いています。小学5年生で手芸クラブに入部、フェルトをちくちく縫ってマスコット人形を作っては周囲にプレゼントをしていました。今は和裁を習っています。娘3人+猫の母親です。

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