2021.03.23
学びインタビュー ゆきどっぐ

「トビタテ!留学JAPAN」の船橋力氏と語る 「飛び立て!世界へ」

ガミガミ言わなくても勉強する子が育つ「戦略的ほったらかし教育」を発信する岩田かおりさん。招待制の音声配信SNS「Clubhouse(クラブハウス)」で、ゲストを招いた対談連続企画「岩田かおりのここだけの教育話」を、ファシリテーターの教育系ライター洪愛舜さんとともに開催しています。2月25日は、文部科学省がグローバル人材育成施策の一環として行う留学促進キャンペーン「トビタテ!留学JAPAN」のプロジェクトディレクター・船橋力(ふなばし・ちから)さんを招き、「飛び立て!世界へ」について話しました。Clubhouseで事前に参加者に許可を得たうえで、対談内容を記事化しました。

海外留学を当たり前に 日本の将来を担う人を育てたい

岩田かおりさん(以下、敬称略):子育てにおける価値観は普段、自分がどんな人と交流しているかによって大きく変化するものだと思っています。特に子育て中は交流範囲や視野が狭くなってしまいがちなので、多くの方の扉を開ける機会になればという想いからこのような対談を開催しております! 今回は「トビタテ!留学JAPAN」のプロジェクトディレクター・船橋力さんをお呼びしました。

洪愛舜さん:まずは「トビタテ!留学JAPAN」立ち上げの経緯からお聞かせください。

船橋力さん:「トビタテ!留学JAPAN」は、2013年に初めての官民協働プロジェクトとして文科省で立ち上がりました。目的は2つで、一つは「2020年までに海外留学を当たり前にする文化を作ること」。数字目標として、当時の年間留学生(大学生6万人、高校生3万人)の倍増を掲げていました。

もう一つは、「日本代表プログラム」です。企業から寄付金を募り、海外に留学する機会を1万人に与え、同時にコミュニティとしてネットワーク化しようと試みました。結果として、240社を超える企業から120億円以上の寄付金を集め、3月末で1万人を留学に送る準備が整いました。現在はコロナ禍で渡航できない地域もあり、8500人くらいが百十数カ国に滞在しています。

洪:立ち上げの背景には、何があったのでしょうか?

船橋:グローバル人材確保のため、留学が必要だという機運が高まっていたことです。

私自身も、2009年の世界経済フォーラム年次総会(ダボス会議)に40歳以下の「ヤング・グローバル・リーダー」として選出され、それをきっかけに、若い世代の留学に目を向けるようになったんです。自分で自分のことを「グローバル人材だ」と自負していたのですが、情報量、教養、ディベート力、語学力で、まったく会議についていけなかった。それに途上国支援をしたいと思っていたけど、BRICs(ブリックス 新興国のBrazil、 Russia、 India、 China4カ国の総称)が成長した時代で世界が劇的に変わっていたし、会議では日本の話題が全く出なかったことにも驚きました。

洪:それはなかなかの、衝撃体験ですね……。

船橋:はい。危機感を抱いていたところ、2013年に下村博文文部科学大臣(当時)が、「これからの教育をどうすべきか意見を聞きたい」とヤング・グローバル・リーダーの選出者と会食する機会を設けました。「そもそも40歳でヤング扱いなのはどうか」と思いますけど(笑)。

40歳位になって海外の修羅場を体験するのはキツイし、もっと若い時期に世界の広さや可能性を知ったらどれだけ良いか。そういう話とともに、危機感を持つ選出者全員で「意欲と能力のある若者に海外経験をさせましょう」と言ったんです。それが始まりでした。

岩田:官民協働というのがすごいですよね。これは本当に歴史に残る大きな動きだと感じています!

船橋:タイミングが良かったんだと思います。「トビタテ!留学JAPAN」の運営チームは約40人で、その半数は企業からの出向や転職者です。スポンサーは約200社で、選考では約100社の採用担当者が集まり、みんなで日本の将来を担う人を選びます。

越境体験でストレス耐性がつき、興味が広がる

「トビタテ!留学JAPAN」第1期派遣留学生壮行会の様子 岩田:保護者は子どもに対して、自主性や主体性が大切だと分かっていても安定志向に偏ってしまいがちなんですよね。私も3人の子を育てる保護者でもあるのでよくわかります。私は船橋さんがよくおっしゃっている「越境体験」の話が好きなので、今日は皆さんにも詳しくご説明いただけますか?

船橋:日本ほど安全・安心で、同じような人が集まっている国はありません。学校も似た偏差値同士が集まります。でも、社会はもっとバラバラな構成をしていますよね。

いつもとは違う専門性や価値観に触れるのが大事です。留学は越境体験の最たる体験ですが、国内の別の地域に行くのでも構いません。

洪:国内でも!

船橋:はい。これは、チャレンジという言葉にも置き換えられます。新しいことへの抵抗感がなくなり、ストレス耐性ができ、興味も広がる。中には、自分の新しい能力や強みに気付く子もいるでしょう。

「トビタテ!留学JAPAN」の子たちは、海外に行くことで問題意識や将来の夢を見つけてきます。例えば、ベルギーの投票率は80%以上で、同世代が国のことを真剣に考えている姿にショックを受けます。直面して初めて問題意識に目覚め、自分ごと化して考える。そうすると、「大学で何がしたいのか」にも立ち返ることができるんです。

岩田:学校外の人と触れ合うと、視野が広がりますよね。高1の娘も「トビタテ!留学JAPAN」に応募したがっていましたが、コロナ禍で渡航が認められなかったらオンラインでの参加になるので、保留中です。体を使って表現するタイプだから、直接行くことに価値があると思うんです。

個人的には、留学したい時期にできなかった体験も意味があると思っているので、見守っています。

船橋:わかります。私の4歳年上の姉が、10代のころ親に黙ってロータリークラブに応募して合格したことがあったんですが、海外転勤の可能性があるからと反対されて行けなかったんです。でも熱量は止まらず、大学進学後に何カ国も旅をして、今では10カ国語を話す通訳になりました。たぶん、あの時の親の反対がバネになったんだと思います。

岩田:若い頃に禁止されたからこそ、成長する場面ってありますよね。

洪:コロナ禍であきらめるのが多い中で、勇気づけられる話です。

「自分で決める」から留学もやり遂げられる 

洪:「トビタテ!留学JAPAN」の子どもたちに、成長は感じますか? 

船橋:感じます。一般的な留学はコースが決まっていることが多いですが、「トビタテ!留学JAPAN」は、自分で行先とプランを練らないといけない。自分で作った企画って、やり遂げられるんですよね。

我が家の子育てにも通じるんですが、「とにかく自分で決める」が大事。これからの正解がない時代には特に必要になってくると思います。

岩田:子どもの成長も、すぐ見える子もいれば、じわじわと変化する子もいますよね。

船橋:そう。帰国後に大学を休学する子も多いですよ。その間にいろんな活動をしています。1年や2年の遅れって海外ではハンデと捉えないし、特殊ではないから。

欧米では「Who are you?」と尋ねられることが多くて、アイデンティティを見つめなおす機会が増えます。自分は何者で、どういうことがしたいのか。日本ってそういうことを考える機会があまり多くはないですよね。

海外に触れるきっかけ作りが大事

参加者はみな真剣な、それでいてワクワクした表情が印象的 洪:わが子に「トビタテ!留学JAPAN」に興味を持ってほしいと思っている保護者は、子どもにどう働きかけたらいいですか? 

船橋:そうですね…。実は、日本で留学経験がある高校生は全体の約1.4%。そのうち9割は3カ月未満の海外体験者です。このうち6割強の生徒が、大学進学後に長期留学へ挑戦します。

つまり、大事なのはきっかけです。小学生から外国人のいる環境に触れたり、実際に海外に行ったりした経験が活きてきます。

洪:日常の中で外国人のいる環境に触れるのも良いんですね。

船橋:そうなんです。あとは留学経験のある同年代の先輩が話す体験談もいいですね。

岩田:メンター的存在は大切ですよね。私も、大学入学後にワーキングホリデーに行きました。多感な時期だったから衝撃的で、人と私の価値観の違いが明確にもなりました。そこでの体験が今の子育てや仕事に活きています。

その海外体験を話していたから、子どもも「海外へ行ってみたい」と言っています。「留学しろ」とけしかけるより絶大な効果があると思います。

船橋:自分の言葉で語るのは強いよね。

岩田:あとは、船橋さんの著書を部屋に置いておくのもいいですよ。中高生になったら勝手に読み始めるから。

船橋:実はクラウドファンディングで、1万5000校の中学校・高校に著書を無料配布したんです。この本に興味のない人にも、読んでほしいから。

岩田:いいですね。思春期に入ると特に保護者が言うよりも、第三者からの情報提供のほうが効果的です。

洪:そうなんですよね。いい教育情報を手に入れると、「うちの子にやらせたい」って保護者は前のめりになるんですが、思春期を過ぎるとそれが鬱陶しく感じられますから。

岩田:焦って子どもを追い立ててしまうんですよね。だからこそ保護者には、できるだけたくさんの選択肢を知ってほしいですね。人間は知らなければ、選ぶことが出来ないので!


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プロフィール:船橋力(ふなばしちから)
1970年、神奈川県生まれ。幼少期をアルゼンチン、高校時代をブラジルで過ごす。上智大学卒。伊藤忠商事株式会社を2000年に退社後、株式会社ウィルシードを設立し、企業、自治体、学校に体験型・参加型の教育プログラムを提供してきた。2014年、官民協働留学創出プロジェクト「トビタテ!留学JAPAN」プロジェクトディレクターに就任。8,000人を超える留学生を送り出している。

岩田かおり(いわたかおり)
株式会社ママプロジェクトJapan代表。ガミガミ言わず勉強好きで知的な子どもを育てる親子講座『かおりメソッド』『天才ノート』主宰。子ども教育アドバイザー。幼児教室勤務を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」の想いから、独自の教育法を開発。3人(1男2女)の母。

洪愛舜(ほんえすん)
子育て・教育系ライター。出版社勤務を経てフリーの編集・ライターに。編集プロダクションecon主宰。目黒駅前新聞編集長。著書に『もやもやガール卒業白書』(MMR)、絵本『すき!I like it!』(教育画劇)がある。立命館大学理工学部卒。1女1男2児の母。

ゆきどっぐ
ゆきどっぐ

1986年生まれ。フリーランスの編集者・ライター。「文春オンライン」「品川経済新聞」などで執筆中。テーマは主に中学受験や子育て、地域情報、犬、漫画など。幼い頃に始めたピアノレッスンでは曲が弾けるまで毎日練習。そのおかげで、一つのことに向き合う大切さを学びました。

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