2021.03.29
学びインタビュー 桜木奈央子

カリスマ小学校教師・ぬまっち先生(沼田晶弘氏)「生徒が全集中する授業のつくり方」

つい難しく考えてしまう子育てをシンプルにする「戦略的ほったらかし教育」を発信する岩田かおりさん。招待制の音声配信SNS「Clubhouse(クラブハウス)」で、公教育や民間教育に携わるゲストを招いた対談連続企画「岩田かおりのここだけの教育話」を、ファシリテーターの教育系ライター洪愛舜さんとともに開催しています。
3月4日は、子どものやる気を引き出すカリスマ教師「ぬまっち先生」こと沼田晶弘氏を招き、「生徒が全集中する授業のつくり方」について話しました。Clubhouseで事前に参加者に許可を得たうえで、対談内容を記事化しました。

「全集中おまかせの呼吸」で子どもの力を引き出す

岩田かおりさん:私の講座では家庭での「戦略的ほったらかし教育」を保護者の方にお伝えしていますが、ぬまっち先生は、その学校バージョンともいえる教育を実践されています。

ぬまっち先生:小学校の先生をしています。よろしくお願いします。僕の場合「ほったらかし」じゃなくて、「全集中おまかせの呼吸」なんですよ(笑)。
いくら先生ががんばって授業をしても、最終的に勉強するのは子どもですので。

岩田:例えば、習字の貼り出しを学校の先生がやるとなかなかの作業量で大変なんですが、それを子どもと一緒にやるのがぬまっち先生です。先生も助かるし、なにより、子どもは「先生の役に立った」と満足感を得られますよね。「きれいに貼る方法を見つけた」という発見もあります。

ぬまっち:習字の貼り出しを手伝うことで、貼り方もうまくなるし、これは危ないかなと安全管理もできるようになります。子どもの学ぶ機会を先生が奪ってはいけないと思っています。

先生はそのぶん時間ができて、子どもを理解するための交換日記や雑談に時間を使えます。

学びを自分たちで作るように仕掛けているのが僕のスタイルです。

洪愛舜さん:まさに、家庭と学校それぞれのバージョンで同じようなことをされているおふたりですね。今回は「授業のつくり方」がテーマです。

算数は「勉強の入り口を工夫する」

ぬまっち:授業って、子どもが自分たちでやるものです。大人はよく「勉強しなさい」と言うけど、やるわけないじゃないですか(笑)。

特にゲームとか買ったら最後ですよね。一度始めたらやめられるわけないですよ。だって日本が誇るすごいクリエイターが作っているんだから。ゲームが悪いわけじゃないんです。

洪:学校の勉強とゲームとでは、子どもたちの食い付きが全然違いますよね。

ぬまっち:教科書はよくできているけど、やっぱりファンタジーすぎると思います。ありえないシチュエーションが多いんですよね。

だいたい戦後じゃあるまいし、算数で出てくる「リボンを切りわける」シチュエーションなんて、現実にはありません。

岩田:子どもが幼稚園のときはバザーとかで切り分けてましたが(笑)

ぬまっち:そんなシーンがあるんですね(笑)。

そういう視点だと算数ってすごくおもしろくて、「オレンジジュースを4分の3リットル」という言い方する人いないし、「朝、3デシリットル飲みました」とか、オレンジジュースわざわざ計り飲みする?って。

子どもはふざけて「ダイエット中」とか「病気で制限があるから計っている」とか言うんですけど、そういうの考え始めて楽しくなってきたらもう計算ができていることが多いです。

洪:教科書に出てくることが「自分ごと」になっていく感じですね!

ぬまっち:広さの授業で「平方センチメートル」を教えていたら、ある子が「単位、海苔でもよくね?」って言い始めました。味のりは板のりを10枚に切ったものらしいって調べてきて、それが広さの単位にできるのではないかという提案です。

岩田:勉強も、入り口を工夫してあげれば子どもが興味を持ちやすいですよね。

例えば家の中でお茶を飲むときに計量カップを推奨しています。そうすると学校の教科書で出てきたときに親近感が湧くのかなと思います。

ぬまっち:でも、一見使わなさそうなデシリットルという単位を使っている場所を見つけたんですよ。どこだと思いますか?

岩田:え?どこですか。

ぬまっち:築地の豆屋さんです。豆屋さんではデシリットルとグラム、ふたつ表記しているそうです。伝統的にデシリットルという単位を使っていた名残だそうで、そういう話を子どもにするとますます興味を持ってくれます。

岩田:それ、よく発見しましたね。

国語は「物語を自分ごと化」

「ごんぎつね」を深めていった授業での板書。「やっぱり、かまってちゃんじゃん!」の文字が(笑)。

ぬまっち:国語だと「ごんぎつね」は面白かったです。クラスみんなで「ごんって何者?」と盛り上がって、みんなリサーチしまくったら「ごんって、かまってちゃんだよね」という話になりました。

さらに作者の新見南吉について調べてみたら、早くに母親を亡くして、プロポーズした女性に4回振られるような人生だったそうです。そしたらある瞬間、みんなの目がピーン!となって「ごんは新美南吉自身じゃないのか」という仮説にたどり着きました。

岩田:すごい!

ぬまっち:こうして入り口を工夫することで、子どもたちは教科書より深いレベルまで学べます。ひとつ糸口を見つけると教科書を何度も読みます。

岩田:子どもたちも競争しますしね。

ぬまっち:数年前も、「モチモチの木」を子どもたちと一緒に深読みしてみました。

豆太という、夜中ひとりでトイレに行けない臆病な少年が主人公なんですが、おじいちゃんが倒れて豆太が医者を呼びに行くんです。「じいちゃん、ちゃんと夜道が明るい満月の夜に病気になるってタイミング良すぎる」「豆太が到着したら医者もちゃんとカゴをしょって出てくる―なんて、これは連絡済みだな」って(笑)

岩田:あはは(笑)

ぬまっち:クラスに父親が医者をやっている子がいて、その子がお父さんに聞いてきたんですよ。「翌朝けろっと治る病気があるのか」って。

答えは「仮病か便秘か盲腸」でした。子どもたちの反応は「じいちゃん仮病だろ」(笑)。

でも、最終的にそれで豆太が勇気を出せたからいいよね、という話になりました。

岩田:道徳的かつ医学的な視点を入れたんですね。

ぬまっち:ただのお話なのに医者に聞いている時点で、完全に自分ごと化できていますよね。

「鬼滅の刀」が人気あるのも、なんであの話が泣けるのかって、自分を投影できるからだと思います。自分ごと化したら感動できる。

岩田:教科書の素材でそれができるっていいですね。自分ごと化とは、日常生活とリンクさせる力ですね。

ぬまっち:これをやるだけで、子どもたちはすごく学びます。

社会で「勝手に観光大使」

「勝手に観光大使」の授業でのワンシーン。担当する都道府県は、子どもたち自身が自分で決めます。

洪:算数と国語が出てきましたが、ほかの教科どうでしょうか。

ぬまっち:社会の「日本の暮らし」という単元で、子どもを各都道府県の観光大使に任命して、アピールポイントを自分たちで調べてプレゼンしてもらうんです。大使って呼ぶと、子どもたちもだんだんそういう気になってくるみたいですね。

作ったプレゼン資料を、毎回その都道府県の知事に送っています。ある県の担当者から「ほかの県はどのような対応されているのでしょうか」と電話がかかってくることもありました。感謝状や特別観光大使の認定書を送ってくれた県も。子どもたちはノベルティを送ってもらうと一番テンションが上がってましたね(笑)。

洪:そうやって自分ごと化して、子どもの「全集中」をつくっているんですね。

岩田:家庭でも似たようなことができます。家族旅行で、地図の確認や特産品を調べることを子どもに任せると、白地図で覚えるより自分ごと化して覚えられますよね。

ぬまっち:県庁所在地をなぜ覚えないといけないのか、僕は「コミュニケーションのために覚えるんだよ」と説明しています。その県でいちばんメジャーな場所だから、ちゃんと覚えたらそこの出身の人たちとの話題に困らない。「甲府から見てどっちですか?」と質問するだけで、知ってる感が出ますよね。

そしたら学校に三重県から研修団が来たときに、子どもたちはすかさず「津から見てどっちですか?」と聞いていました。研修団の方がすごく喜んでくれたので、「な?」って(笑)

岩田:そうやって、楽しく覚えさせられたらいいですね。歌で覚えちゃうとか、漫画で流れを把握するとか、楽しく学べる方法はいくらでもあるんですよ。それを私は「学びの杭打ち」と言っています。先生も親も、学びのきっかけを作る際に子どものモチベーションを高めてから自然の流れを作れたら、子ども達の勉強へのイメージも大きく変わりますよね。


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プロフィール

ぬまっち先生・沼田晶弘(ぬまたあきひろ)
1975年東京都生まれ。国立大学法人東京学芸大学附属世田谷小学校教諭。東京学芸大学教育学部卒業後、アメリカ・インディアナ州立ボールステイト大学大学院でスポーツ経営学の修士を修了後、同大学職員などを経て、2006年から現職。児童の自主性・自立性を引き出すユニークな授業で人気があり、教育関係のイベント企画を多数実施している。著書に「『変』なクラスが世界を変える!」、「ぬまっちのクラスが『世界一』の理由」(中央公論新社)

岩田かおり(いわたかおり)
株式会社ママプロジェクトJapan代表。ガミガミ言わず勉強好きで知的な子どもを育てる親子講座『かおりメソッド』『天才ノート』主宰。子ども教育アドバイザー。幼児教室勤務を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」の想いから、独自の教育法を開発。3人(1男2女)の母。

洪愛舜(ほんえすん)
子育て・教育系ライター。出版社勤務を経てフリーの編集・ライターに。編集プロダクションecon主宰。目黒駅前新聞編集長。著書に『もやもやガール卒業白書』(MMR)、絵本『すき!I like it!』(教育画劇)がある。立命館大学理工学部卒。1女1男2児の母。

桜木奈央子
桜木奈央子

写真家、ライター。2001年からアフリカ取材を続ける。著書『世界のともだち ケニア』『かぼちゃの下で』。雑誌や新聞にフォトエッセイや書評を執筆。「cinema stars アフリカ星空映画館」代表。最近の趣味は息子2人のサッカー撮影。小学生の頃は本の虫、星野道夫さんに憧れ17歳でひとり旅に。

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