「FULMA」の齊藤涼太郎氏と語る 「親目線の教育」から「子ども目線の教育」へ
子どもの勉強嫌いは、やらなくても良いことを親がさせようとして起こっていることがほとんど。そんな親がよくやってしまいがちなことに気づき、主体性あふれる子どもになる「戦略的ほったらかし教育」を発信する岩田かおりさん。招待制の音声配信SNS「Clubhouse(クラブハウス)」で、公教育や民間教育に携わるゲストを招いた対談連続企画「岩田かおりのここだけの教育話」を、ファシリテーターの教育系ライター洪愛舜さんとともに開催しています。
3月2日は、「子どもたちのやりたい!をカタチに」をミッションに掲げる「FULMA(フルマ)」の齊藤涼太郎さんを招き、「『大人目線の教育』から『子ども目線の教育』へ」について話しました。Clubhouseで事前に参加者に許可を得たうえで、対談内容を記事化しました。
子どもの「やってみたい」をカタチに
岩田かおりさん:今回は、オンラインで学べる小中学生の動画制作の習い事「FULMA Online」を手がける若き経営者、齊藤涼太郎さんです。
齊藤涼太郎さん:よろしくお願いします。24歳です。子どもの「やりたい」をカタチにするという理念で、習い事をオンラインで運営しています。
いま、ユーチューブを見ているお子さんも多いので、見るだけじゃなく作れるようになって、自己表現の幅が広がればいいなと思っています。
3、4年前、まだ今ほどユーチューバーの社会的地位がないころから、子どものやりたいことを叶える場所として「You Tuber Academy」を始めました。
岩田:「You Tuber Academy」のさらに前段階のころに、うちの一番下の娘がお世話になりましたね。そのころから「子どもの『やりたい』をカタチにしていく」というスタンスは1ミリも変わっていませんね。たしか、娘の希望で食品サンプルを作りましたよね。
齊藤:牧場にも行きましたよね(笑)
岩田:そうそう。牧場体験や食品サンプル作りをさせていただきました。そのあとに「You Tuber Academy」を始められて、今は「FULMA Online」になりましたが、移行した経緯をおしえてください。
齊藤:地方にイベントなどに行くと「こういう習い事、東京にしかないのですか」という声をよく聞いていたので、コロナの前からオンライン教育の準備を進めていました。僕自身も北海道の出身で、都会と地方の格差が気になっていたんです。そんな中でコロナ禍になって、動画制作の習い事「FULMA Online」を本格的に始めました。
岩田:具体的にはどのような内容なのでしょうか?
齊藤:「動画制作」と「ネットリテラシー」を伝えています。作った動画はユーチューブで「限定公開」しているのですが、中には一般公開する人もいるのでトラブルに巻き込まれないようにと、リテラシーも教えています。
洪愛舜さん:ネットリテラシーは、親がついていけてない感じがありますもんね。
岩田:そんな涼太郎くんですが、昨年は「フォーブスジャパン」の「Z世代の『これからの理想』30」にも取りあげられたそうです。
「逆算思考」と「今出発」
本格的な撮影や動画編集だけでなく、ネットリテラシーについてもしっかりと学ぶ
洪さん:今日のテーマが「大人目線の教育から子ども目線の教育へ」なのですが、実際にそれをカタチにする活動をされていてどんな反響がありますか。
齊藤:まず、「大人目線と子ども目線」の定義なのですが、言い換えると「逆算思考なのか、今出発なのか」とも言えます。
「大人目線」って、子どもを将来良い就職先に行かせたいから、そのための良い大学、そのための高校…と逆算していきますよね。
でも「子ども目線」は、今、君がやりたいことがなにか、を出発点にしています。
洪:なるほど! それって真逆とも言えますね。
齊藤:子どもも自分のやりたいことを楽しんでいるし、それを保護者も応援していて、僕らも教えていて楽しい。「みんなハッピー」みたいな循環を考えています。
洪:でも親ってつい逆算しちゃうんですよね……。
岩田:大人は逆算して当たり前だし、私も逆算しちゃいます。でも、そこに逆算していることを絶対に言わない戦略を持つことが大事だと思っています。
洪:どんな戦略でしょうか?
岩田:例えば、幼児期に迷路で遊ぶと後々字を書くのが上手になる場合が多いんですよ。でも、だからと言って子どもが迷路の本で楽しんでいるところに、「字が上手になるために迷路で遊ぼう」と言った時点で、迷路でもなんでも面白くなくなってしまいますよね。
だから、親が実は心の中で逆算していたとしてもそれを子どもに絶対に言わないというのが、「戦略的ほったらかし教育」です。
洪:なるほど! 逆算していることを言わないことで、子どもが今目線で楽しめるんですね!
岩田:でも、FULMAに通っている親子で、最初は逆算思考の親御さんもいたんじゃないですか?
齊藤:それが、あんまり会ったことがないんですよ。説明の段階で「これが子どものスキルになりますよ」などは言わないようにしていて、「本人がやりたいことを伸ばせたらいいですよね」としかお伝えしていません。でも、「これをやれば、子どもためにこんなメリットがあるという理詰めで説明した方がいいのかな」という葛藤はあります。
洪:子どもが「やりたい」と言っても、それをやらせるかやらせないかを決めるのは親なので、そこは難しいところですよね。
齊藤:そうなんです。習い事などの教育って親がお金を払って成り立っているので、そういう意味では僕らがちゃんとした説明や仕組みを作っていかないといけないと思っています。これから事業を広げていく上でぶつかるかもしれない壁ですね。
「やってみたい」が過小評価されている
自分や友だちが制作した動画を見て、みんな大喜び!
洪:親として、子どもには今目線で楽しんでもらいたい、と思う反面、子どものためを思うからこそ、やりたいことだけをやっていいの?と心配になる方が多いのではないかと思います。親はどういうマインドでいたらいいのでしょうか。
岩田:子どものほうが「新機種」だということを意識してみたらどうでしょうか。
洪:親はちょっと古い機種ということですよね。iPhone6あたりで、子どもはiPhone12とか(笑)
岩田:興味を持ってほしいことは戦略的に伝えてみるけど、もしそれに子どもが興味を持たずに他のものを選んだら、子どもが選んだものを「最新機種が言うんだから、そりゃそうだよね」って思うようにしています。親の逆算思考のほうがうまくいかない結果を招くのかもしれません。
洪:旧機種の考えることなんて、古いことですもんね。
岩田:涼太郎くんなんて、まさしく新機種ですよね。だから、起業したころにお会いしたころから「私の経験は話すけれど、アドバイスと思わないでね」といつも伝えていました。
自分が古いなって意識しているから、新機種である人に対して自分が話せることはない、と思って接しています。考えや経験を伝えはするけど、最終的に選ぶのは本人ですよね。
齊藤:子どもの時に「何かが好き」とか「やってみたい」と思うことが、過小評価されている気がします。
大学生になると、何をしたらいいかわからないという状態の人が増えているみたいなのですが、それは、子どもの時の「やってみたい」が削がれていっちゃった結果なのかなって思います。
洪:確かに、子ども時代から「今やりたいこと」よりも「将来のためにやるべきこと」を優先してきたら、自分のやりたいことは何なのか、考えられなくなりますよね。
齊藤:それから、親子の関係性として、親が自分の「やってみたい」をどれだけ応援してくれたか、否定しなかったかも大きく影響しているのかもしれません。
子どものころに「やってみたい」って思ったことがあっても、「それはいいからこっちやりなさい」と言われ続けると、「この人に言っても応援してくれないじゃないか」と諦めてしまうかも。
洪:それで大人になっても「やりたい」が出てこなくなるんですね。
齊藤:だから僕は、子どもの好奇心を育てるというより、その気持ちを削がないようにすごく気をつけています。
岩田:それ、私も同じです。好奇心を「引き出す」必要なんてないんですよね。
「やってみたい」を親は応援する
齊藤:大切なのは、子どもの「やってみたい」をいかに邪魔せず、そのまま伸ばしてあげられるか、ということ。本人のモチベーションをちゃんと守ってあげることが大事なんじゃないかと思います。
洪:たしかに。FULMAさんでは動画制作スキルを学べるのもあるけど、それよりも子どもの「やってみたい」を親が応援しているという意思表示が見せられるということですね。
齊藤:うちの親はちゃんと応援してくれた、やらせてくれたというのが、やがて感謝に変わると思います。
洪:そうやって親に応援された経験がある子は、いろんなことにチャレンジできるようになりますよね。
齊藤:削がれ続けた人よりは、成功体験や周囲の人が味方してくれた経験がある分、強いと思います。
自分ができることをして、人と比較しない
岩田:涼太郎くんを見ていて、いつも「良質なコミュニティ」に自分の身を置いているなと感じるのですが、心がけていることがあったら教えてください。
齊藤:コミュニティに属している以上、その「場」に貢献するということは意識していますね。そこに属している以上、自分ができることを還元していきたいなって思っています。
あとは、できるだけ「比べない」こと。例えば起業家のコミュニティだと、「あの人は何億調達した」とか聞いたときに、人の成功を素直に喜ぶようにしています。素直にすごいなと思うけど、自分は自分のゲームで戦っているというのを忘れないようにしています。
岩田:もやもやしたときはどうしていますか?
齊藤:お金を調達したからといってうまくいっているわけじゃないし、乗り越えてきたもの、輝かしい裏での苦労も知っているので、嫉妬することはほとんどないですね。素直にすごいな、おつかれさまという気持ちが強いです。
岩田:「場に貢献する」や「他人と比較しない」は、家族運営や人生においても大事な要素ですよね。もちろん子育てにおいても。
洪:かおり先生がよくおっしゃっている「自分軸」ですね。
岩田:そうです。そして、コミュニティや自分が誰と関わっているかって大事ですよね。子どもにやりたいことを見つけて突っ走ってほしいと思うなら、まずは私=親がそういう人と関わることが大事だと思います。
「あなたにはこういうのが合っているよ」と直接言うのではなく、もし起業家になってほしいなら起業家、公務員になってほしいなら公務員と、親自身が実際に関わりを持つ。それが本当の意味での戦略ですね。
プロフィール
齊藤 涼太郎(さいとうりょうたろう)
小中学生向け動画制作事業「FULMA」代表。1996年生まれ、北海道出身。 「子どもたちのやりたい!をカタチに」を理念に、2017年3月にYouTuber Academy開講。2019年12月にFULMA Academyに名称変更。2020年にFULMA Online開講。 これまで3,000人以上の子どもたちに映像制作を学ぶ企画を提供。2018年キッズデザイン賞受賞。漫画本『YouTuber教室』(ポプラ社)、実践書『できるキッズ 親子で楽しむユーチューバー入門』(株式会社インプレス)出版。
岩田かおり(いわたかおり)
株式会社ママプロジェクトJapan代表。ガミガミ言わず勉強好きで知的な子どもを育てる親子講座『かおりメソッド』『天才ノート』主宰。子ども教育アドバイザー。幼児教室勤務を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」の想いから、独自の教育法を開発。3人(1男2女)の母。
洪愛舜(ほんえすん)
子育て・教育系ライター。出版社勤務を経てフリーの編集・ライターに。編集プロダクションecon主宰。目黒駅前新聞編集長。著書に『もやもやガール卒業白書』(MMR)、絵本『すき!I like it!』(教育画劇)がある。立命館大学理工学部卒。1女1男2児の母。

写真家、ライター。2001年からアフリカ取材を続ける。著書『世界のともだち ケニア』『かぼちゃの下で』。雑誌や新聞にフォトエッセイや書評を執筆。「cinema stars アフリカ星空映画館」代表。最近の趣味は息子2人のサッカー撮影。小学生の頃は本の虫、星野道夫さんに憧れ17歳でひとり旅に。