2021.04.13
学びインタビュー 秋音ゆう

新渡戸文化中高の山本崇雄氏と語る「学校に頼らなければ学力は伸びる」

ガミガミ言わなくても勉強する子が育つ「戦略的ほったらかし教育」を発信する岩田かおりさん。招待制の音声配信SNS「Clubhouse(クラブハウス)」でゲストを招いた対談連続企画「岩田かおりのここだけの教育話」を、ファシリテーターの教育系ライター洪愛舜さんとともに開催しています。3月11日は、「教えない授業」を実践している新渡戸文化中高・統括校長補佐の山本崇雄先生を招き、自立型の学習について話しました。Clubhouseで事前に参加者に許可を得たうえで、対談内容を記事化しました。

自立への第一歩はメタ認知 自分の強みを発見する

岩田かおりさん(以下敬称略):今回のゲストは「教えない授業」を実践されている新渡戸文化中学・高等学校の山本崇雄先生です。著書の「学校に頼らなければ、学力は伸びる」に感銘を受けてお声がけしました。教育業界の中で「山本先生は本当に教えないらしいよ」と話題になっているので、今日は根掘り葉掘り伺いたいです。

早速、学校の授業の中で「教えない」というのは具体的にどういう方法なのか教えていただけますか。

山本崇雄さん:はじめまして。英語の教員を25年以上やっています。2011年の東日本大震災を機に、被災地に行く中で先生や大人ができることの限界を感じて「教えない授業」を始めました。それ以降、自立型の学習者を育てることや、子どもがいかに主体的な学び手になるかを教育の軸としています。

子どもたちを主体的にさせるためには、学びとリアルの接点が大事ということに気づいてそこから兼業を始めました。教育をアップデートしていくという観点で、企業と働いたり他校と働いたり、色々な働き方をしているところです。

洪愛舜さん:山本先生が実践されている「教えない授業」とは、どんなものなのでしょうか?

山本:「教えない授業」とは「自律型学習者」の育成を目的とする教育方針。教師が生徒に一方的に知識を教えるのではなく、生徒が自ら課題や目標を見つけ、主体的に学ぶためのサポートに力を入れています。

子どもたちが自律型になるために、まず必要なことはメタ認知です。俯瞰的に自分のことを見られるかどうかですね。

できないのは「気のせい」? 人と比べることには意味がない

洪:なるほど。客観的に自分のことを見て、自分の特性を発見するんですね。

山本:そうです。苦手な教科だったらすべて苦手、ではなくその中から好きなところや強みを発見することが大切です。どの教科でも、それぞれどこかには強みがあるんですよ。

わからないことやできないことは、「できるようになるための可能性」と認識するだけで捉え方が変わってきます。僕はできないと感じている生徒には「気のせいだよ」と言っています。心理的安全を持つことが目的です。

岩田:なるほどー。「気のせい」ととらえるって、子どもたちにとって非常に心理的安全になりますよね。

山本:「気のせい」にするためには色々な手段が必要です。例えば平均点を出すのをやめるとか100点満点のテストをやめるとか。

平均点にはなんの意味もないですよね。なりたい自分になるためには他人と比較する必要はない。しかし、平均点があることで他人と比較してしまう。点数に一喜一憂してほしくないので、僕のテストでは毎回満点を変えています。そうするとだいたい平均点が90点になることもあるんですよね。(笑)

岩田:面白い!! いつも満点が違うんですね。

山本:比べたり数値化することはあまり意味がないですよね。できないところが個々で違うから面白い。同じ90点でもできない部分は人それぞれ違います。それを補い合えることが素晴らしいよね、っていう認識になることが大切なんです。

分にはいろんな凸凹があることを素晴らしいと捉えられるかが第一歩です。「できない」は可能性があるということなんですよ。

「できない」は「できるようになりたい」と思うための可能性

新渡戸文化中学で行われている、レゴブロックを使って「理想の学校」を作る授業の様子

岩田:評価軸を自分の外に合わせようと思うと歪みがでてきますよね。そういう価値観で頑張れる部分もありますけど、縛られすぎると辛い。

ここ最近の教育業界を見ていると、外の評価軸ではなく自分の評価軸で考える方法が一般化してきているように感じます。

山本:テストを可能性が測れるものと置き換えれば「できるようになりたい」と思うし、いつからでも勉強は始められるんです。

できないことに気づいて、できるようになろうとするかが大事ですが、そういう想いを大人が消してしまうことが多いんですよね。

洪:できない状態を見ると、「なんでできないの?」とつい思ってしまうけど、逆に「可能性のかたまりなんだ」と捉えれば気持ちが変わりますね。

山本:勉強だけでなく、朝起きられないことやだらしないこと、時間にルーズなど生活面も同じです。「できるようになりたいか」と感じるかどうかで意識が変わります。その前に大人の価値観で怒ってしまうと「やらなきゃいけないこと」になります。

命に関わることでなければ、目くじらをたてる必要はなくて「僕はこう感じるけど君はどう思う?どうしたい?」と問いかけるんです。

「どうしたいか、どうなりたいか」を子どもたち自身が考えられると良いですね。

勉強でも生活面でも、一斉に同じようにさせることはロボットを育てることと同じです。

洪:勉強にしても生活面においても、親や先生が上から「こうしましょう」と言うのは、あくまで大人が育てたい人に育てようとしていることですよね。本来は子ども自身が「なりたい自分」になる力を持っているんですよね。

山本:そうですね。子どもは大人が思っている以上に、自分のことを考えているので彼らがどうなりたいかに目を向けたいです。

主体的な学びが「なりたい自分」へと導く

自分たちが作った「理想の学校」について発表する生徒たち

岩田:自分がどうなりたいかを考えるための余白や、きっかけがとても大事ですよね。それ以外に大切なことはありますか?

山本:メタ認知で、強みも弱みも自分で理解する。強みも弱みも含めて自分で受け入れた後は、「なりたい自分」や「目的」を考えることです。

子どもたちに英語を教える時、「なんで英語勉強しているの?」と必ず聞きます。最初は答えられない子が多いんです。

進学校に通う子どもたちからは、「受験のため」「点数を取らないと親からケータイを止められるから」などの答えが返ってきます。

岩田:なかなかシビアですね。しかし、そのアプローチは本質的ではないですね。

山本:学びをひとつの手段と捉えて、それを使ったらなにができるのかを考えられると豊かになりますよね。

リアルな社会で英語を使うことは共通テストより難しいです。相手の気持ちを考えなくてはいけないので4択では答えられません。

洪:確かに! 実際に英語で会話することは、テストより断然難しいです。

山本:そう考えると4択は楽勝になるし、そういう思考に慣れてくると大学入試で4択を出す学校を嫌がるんです。自由に書けないから。「記述を求める大学なら受かる気がする」と言うんですよね。(笑)

洪:入試をリアルなものとして捉えられているということですね!

山本:はい。入試も、目的の過程にあるものと考えられれば、自分ごととして置き換えられます。

なりたい自分や目的に向かってより良い選択をして、達成することで自己肯定感を高めていくことがすごく大事です。

「やらされた」から「自分でやる」へのスイッチの切り替え方

岩田:目的に向かうためには自己決定が必要となりますね。

山本:はい。こだわりや好き嫌いがあると親としては面倒ですが、対話を避けてはいけないと思っています。僕たちが子どもの頃は、お父さんが決めたものにみんなが従うっていう流れがありましたよね。

岩田・洪:あったあった!(笑)

山本:これって楽ですよね。従えばいいから。でも、子どもに決定権を与えた時は対話をしなくてはいけないから面倒なんですよ。親子で意見の対立が起きることもあります。

面倒でも、対話を選択していくステップを踏んでいくことが必要。

自分が選んだことに対しては責任を感じるようになるので、すごく大事です。

岩田:本当にそうですね。自分で選ぶことで、「やらされた」から「自分でやる」にスイッチが切り替わりますよね。

山本:そうです。授業中に寝ることや関係ない動画を見ることも僕は基本的には怒らないです。対話をする中で「君はこの時間に寝ることを自分で選択しているんだよね。それに対しては自分で責任をとることになるよ」と言います。

岩田:そうですね、自分が選択することには責任が伴いますよね。

山本:自分で選択をコントロールすることが必要です。先生や親が怒ることで、コントロールする機会を奪っちゃいけないと思うんですよね。ここは忍耐と我慢が必要ですけど。命と人権に関わることでなければ、僕は怒らないですね。

ただ、「他人の学びを邪魔する権利はない」とは伝えます。動画を見ていてテストができなかったらそれは自分の責任です。

洪:すごくプレッシャーというか、自分を律する心を育てられますね。

岩田:そう、律する心って自分で育てないとだめですよね。

山本:そうですね。ただ、放任はだめなんです。すごくよく見てあげることが大事です。

自分をコントロールできる瞬間が出てくるので、それを見逃しちゃいけない。

洪:それってまさに、岩田かおり先生の「戦略的ほったらかし教育」と通ずるものがありますね!

子どもが自分をコントロールする瞬間に気づいたら、何かした方がいいんでしょうか?

山本:アイコンタクトくらいがいいですね。僕は自分の息子に対して、そういう時は「見てたよ」という空気を出します。また、感情で「すごいね」と褒めるのではなく、具体的な言葉でできたことの事実や力そのものを褒めてあげる。

自律型学習者とは、目標を設定できる、対話ができる、自己修正ができる、自分をコントロールする力などを持つ人です。

その中で「自分をコントロールできた瞬間」に出くわしたら、自律についてきちんと言語化した上で「コントロールできるようになったね」と褒めてあげることが大事ですね。


プロフィール:山本崇雄(やまもとたかお)
新渡戸文化学園教諭。著書に「学校に頼らなければ学力は伸びる」(産業能率大学出版部)、「なぜ『教えない授業』が学力を伸ばすのか」(日経BP社)など。公立中学校や2006年からは都立両国高校・附属中学校で6年間「教えない授業」を実践。現在は私立新渡戸文化学園、横浜創英中高で英語教諭を務めながら、他校や企業とも積極的に協働している。

岩田かおり(いわたかおり)
株式会社「ママプロジェクトJapan」代表。ガミガミ言わず勉強好きで知的な子どもを育てる親子講座「かおりメソッド」「天才ノート」主宰。家庭教育専門家。幼児教室勤務を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」の想いから、独自の教育法を開発。3人(1男2女)の母。

洪愛舜(ほんえすん)
子育て・教育系ライター。出版社勤務を経てフリーの編集・ライターに。編集プロダクションecon主宰。目黒駅前新聞編集長。著書に「もやもやガール卒業白書」(MMR)、絵本『すき!I like it!』(教育画劇)がある。立命館大学理工学部卒。1女1男2児の母。

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秋音ゆう
秋音ゆう

専業主婦からライターへ転身。教育・絵本・多様性を軸に、子育てメディアを中心に執筆。自身の経験や3人の子育てで感じた想いから「みんなが生きやすい社会」を伝えたい。子どもの頃に夢中になったことは「お話作り」。「エルマーの冒険」のようなお話を創作してノートに書いていました。今では長男が絵本作りにハマっています。

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