2021.04.13
学びインタビュー 小内三奈

第5回:子どもの「体験」を「考える力」に変えるには? 「こぐま会」久野泰可室長

図形や空間を認識する力は、人間にはもともと備わっていないという説があります。大人になっても、方向感覚がないと苦労する人がいます。小さいときから、積み木や折り紙、粘土などで手を使って鍛えた子と、そういった遊びをしていない子では図形的センスが違ってくるそうです。子どもが「体験」したことを、「考える力」につなげるためには大人のサポートが必要だと語る「こぐま会」室長・久野泰可先生。考える力の土台を、どのように身につけたら良いのかアドバイスをいただきました。

「考える力」は、手を使って遊んだ体験から身につく

――幼児向けに、ゲーム感覚でさまざまな知識を身につけるアプリなどがあふれています。「考える力」につながるでしょうか?

幼児の「考える力」を身につけると聞くと、通信教育やドリル、アプリ学習などを考える方が多いかもしれません。
いずれも、わからなければ答えを教えてもらい、また次の問題を解いてみるというスタイルが中心なので、机上の学習。残念ながらこのスタイルでは「考える力」を育てることは難しいといえます。
「この場合はこうなるのよ」と正解の見つけ方を教え込んだり、最初から結論を教えてしまったりしてはいけないのです。

たとえば、空間概念や図形的センスは、もともと人間に備わっているものではないと言われているのをご存じでしょうか?
大人になってから「方向感覚がない」「空間把握能力がない」と苦労する人もいると思うので、これはなかなか衝撃的です。

空間や図形のセンスは、手を使って鍛えなければ身につかない

意図的に鍛えなければ、空間概念や図形的センスは自然に育つものではない。幼い頃から、ブロックや積み木、粘土、折り紙などに触れ、自分の手を使って体験してこそ形成されていくものなのです。
逆に、「図形的センスを育てよう」と必死になってドリルを教え込んでも、本末転倒です。

幼児の学びとは、実際にモノやコトに働きかけて、「ああでもない」「こうでもない」と試行錯誤しながら自分から答えに到達することに意味があります。自ら答えにたどり着く、そのプロセスこそが最も大切な学びです。

――ついつい答えを教えてしまいがちです。試行錯誤の末に行き着いた正解と、教え込まれた正解。どのような違いが生まれるのでしょうか?

自分の手を使い実体験を通して到達した理解力こそが、小学校入学後の「考える力」の土台となっていきます。その考えの理論的根拠として、スイス人の児童心理学者、ジャン・ピアジェの行った実験があるのでご紹介します。

ピアジェは幼児を2つのグループに分け、1つのグループには正解を一切与えず、ひたすら試行錯誤させて自ら結論に至るまで考えさせ、もう1グループには答えを徹底的に教えこむという実験を行いました。そして、半年後、1年後に、その理解力がどの程度定着しているかを確認しました。
その結果、答えを教え込んだグループは時間が経つにつれて学んだことを忘れていく一方で、正解を与えなかった前者のグループは学んだことをしっかりと覚えていることがわかりました。

つまり、時間がかかっても、自分自身で手を動かして「ああだ」「こうだ」と試行錯誤しながら答えを導き出した経験は、いつまでも忘れない理解力となるということです。

小学校入学を前に「子どもに勉強を教えよう!」と考える方も多いはずです。あるいは、「小学校入試のペーパー試験の点数を何としてでも上げたい!」ときなども、大人はついつい先回りして結論を教えてしまいがちです。
でも目先のことだけ考えた効率重視の学習で、たとえその時ドリルが出来るようになって小学校入試を運良くパスしたとしても、教え込まれた知識はいずれ忘れてしまいます。

時間はかかっても、自分の手を使って試行錯誤しながら身につけた思考法を「定着」させてあげれば、「考える力」の土台がしっかりしているので、後々伸びる子どもとして成長していきます。

「遊び」が「学び」につながる声かけとは?

 ――モノやコトに働きかけて学ぶ学習。実際、どのように取り組めばよいのでしょうか? 

「学習」と意気込む必要は一切ありません。子どもは毎日、幼稚園や保育園で過ごす生活の中で、様々な体験を通してモノ・コトに働きかけ多くのことを学んでいるのです。

大切なのは、「遊んで終わり」「体験して終わり」とそのままにせず、子どもにそれを「意識」させてあげること。
お父さん、お母さんはぜひ、子どもが体験したことを「そういうことか!」とはっきり「認識」できるよう働きかけてあげてください。

春になれば、園庭にはたくさんの虫が生まれてきます。「今日、モンシロチョウを捕まえたよ!」と子どもが報告してきたなら、家に帰って昆虫の図鑑を一緒に開いてみることです。そして「これがモンシロチョウだね」と、言葉にして整理します。
苦労して捕まえた体験があれば、モンシロチョウは何を食べるのか、どの季節に生まれてくるのかなど、図鑑に書かれている情報もスムーズに吸収していくはずです。

海に行ったことがない子どもに「海の水はしょっぱい」と教えても、すぐに忘れてしまいます。でも、実際に海に入れば「しょっぱい」と体感します。「海の水は塩が入っているからしょっぱいね」と言葉にしてあげることで、「しょっぱい」ことを忘れないでしょう。

日々の生活と遊びの中に、学びがあふれている

――家庭で出来る学びの体験とは?
学びのきっかけは、日々の生活や遊びの中にたくさんあふれているものです。
ペットボトルや紙コップなどを重ねる、並べてみる、中に水を入れるなどすることで、学びは自然と広がっていきます。

ごっこ遊びやお手伝いの中でも数の概念を学べます。果物やお菓子を使って実際に数の操作をしてみるなど、生活の中で体験させてあげることをおすすめします。
そして、子ども自身が手を使って答えにたどり着いたときには、言葉にしてその考え方を整理してあげましょう。

大切なのは、学びにつながる一言の声がけ。
ぜひ、普段の生活にほんの少し工夫を加え、変化させてみてください。

急がば回れ。理解してなければ、すぐに実体験へ戻る

――ドリルなどのペーパー学習は不要なのでしょうか?
いわゆるペーパー的な学習は、子どもが実際にモノ・コトに働きかけたどり着いたことが「理解力」として定着しているかを確認するためのもの、と考えるのがよいと思います。

積み木の問題で答えが出てこないようなら、実際に積み木を出して問題と同じように並べてみます。子ども自身が積み木を動かしてみて結論に至ったら、お父さん、お母さんは言葉で整理してあげて、その後再び問題に戻って理解しているかを確認してみます。

事物教育を実践する「こぐま会」の「四方観察」の授業。やかんを描いてもらい、それぞれ違う方向からの見え方の違いを、体験しながら学ぶ。(提供:こぐま会)

 例えば、「テーブルの上にあるやかんは、向こう側から見たらどう見えるでしょうか?」という問題は、幼児にとっては非常に難しい問題の典型です。
これは、一つのものを4つの方向から観察してみるという経験を踏み、「見る場所によって見え方が違う」ことを理解してはじめて答えられる問題です。ドリルで教えるのではなくて、実際に4つの方向から観察して、絵に描いてみてください。
本物を見て、子どもたちが気がつくことがたくさんあります。

お父さん、お母さんは、ぜひ子どもの体験をうまく「考える力」につなげるサポート役をしてあげてください。まだ知らないことについて、決して答えを教えず、実際に体験できる場を用意してあげることも忘れないようにしていただきたいと思います。


プロフィール:久野 泰可(くの やすよし) 

1948年、静岡県生まれ。横浜国立大学教育学科を卒業後、現代教育科学研究所に勤務し、1986年「こぐま会」代表に就任。常に幼児教育の現場に身を置き、その実践を通して幼児期に大切な「思考力」を育てるための独自のカリキュラム「KUNOメソッド」を確立。著書に『子どもが賢くなる75の方法』(幻冬舎)、『「考える力」を伸ばす AI時代に活きる幼児教育』(集英社)など。こぐま会HP:https://www.kogumakai.co.jp/

「小学0年生の考える力 こぐま会・久野泰可室長」の記事一覧

小内三奈
小内三奈

ライター・インタビューアー。ビジネス・教育分野を中心に、新聞、雑誌、Webメディア等で執筆中。経営者や教育現場への取材の他、教育書・児童書の書評を執筆。その他、旅行、グルメ等幅広いジャンルに取り組む。好奇心旺盛でキラキラした子ども時代を過ごしてほしいと願い、「今、この瞬間」を大切に育児に励む2児の母。子どもの頃熱中したのはピアノ。4歳から高校1年まで続け、最後の演奏曲はショパンのノクターン。

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