2021.04.27
学びインタビュー 桜木奈央子

知窓学舎塾長・矢萩邦彦氏と語る 「偏差値教育を超えた『知性』学習とは」

ガミガミ言わなくても勉強する子に育てる「戦略的ほったらかし教育」を発信する家庭教育専門家の岩田かおりさん。招待制の音声配信SNS「Clubhouse(クラブハウス)」で、公教育や民間教育に携わるゲストを招いた対談連続企画「岩田かおりのここだけの教育話」を、ファシリテーターの教育系ライター洪愛舜(ほん・すえん)さんとともに開催しています。3月16日は、「探究×受験」を実践する統合型学習塾「知窓学舎」を運営する矢萩邦彦先生を招き、「偏差値教育を超えた『知性』学習とは」について話しました。Clubhouseで事前に参加者に許可を得たうえで、対談内容を記事化しました。

もっと自由に、実のある学びを

岩田かおりさん(以下敬称略):今回は、偏差値だけにとらわれない学びの場所を広げられている矢萩邦彦先生の登場です。子どもたちの「学ぶことの楽しさ」を開花させている先生です。

矢萩邦彦さん:「知窓学舎」代表の矢萩です。教育業界には25年ほど関わり続けていますが、並行して多業種のコンサルタントやジャーナリズムの現場で、「アルスコンビネーター」という肩書きで仕事をしています。

さまざまな職業をパラレルキャリアとして実践しながら、それぞれのスキルや方法論をほかの業界に持ち込むことをしていて、その中でも教育に使える方法論を融合させていくのが生業です。

岩田:弊社は保護者向け講座を提供しているのですが、その受講生のお子さんであるかおりメソッドキッズも「知窓学舎」に通って楽しんでいます。

矢萩:ありがとうございます。

さて、まずは偏差値に頼ってしまうのはなぜかと考えたときに関係している話なのですが、積極的に進路指導を行っている公立中学校の先生の中で、教育以外のキャリアがある先生はどれくらいいると思いますか?

洪愛舜さん:え、どれくらいなんですか!?

矢萩:日本の場合、たった3%程度なんです。

岩田:えー! 教員の世界だけの方が多いという肌感でしたが、そんなに少ないとは……。

矢萩:教える側に学校以外での社会経験がなく先生という立場しか知らないので、偏差値に頼るしかない、というのが教育界の現状です。偏差値の枠から出られないんです。

洪:偏差値以外で教育の価値を判断する基準を、学校側も保護者側も持てていない、ということですね。

矢萩:そうです。僕はもっと自由に、実のある学びを提供する活動をしています。私たちは、受験と探究を両立させようという哲学を持っています。

岩田:めずらしい塾ですよね。でも、学び方は大きく多様化しているし、年齢が低いからこそのクリエイティビティもあったりしますもんね。

矢萩:大手塾での長年講師をした経験があるのですが、受験教科を探究的に学ぶことによって、勉強の面白さを見出す子どもをたくさん見てきました。一方で、最初は興味がなかったけれど、出来るようになったら面白くなってきたという子も少なくありません。どちらの可能性も同時に大切にするのが知窓学舎のやり方です。

岩田:知窓学舎の生徒さんの対象年齢はどれくらいですか?

矢萩:小学校1年から高校3年です。探究的な学びに年齢は関係ありません。受験クラスなのに受験しない子も結構いるし、横並びで勉強することに意味を感じていないので、受験クラスでも学年混合です。

岩田:たしかに年齢を縦割りにする良さはあると思うんですけど、受験となるとどうやっているのか気になります。

知識の有無に左右されない問いを立てるには

知窓学舎の小学生クラスの授業風景。子どもたちの表情が、その楽しさを物語っています。

洪:小学1~4年生対象の「探求総合クラス」、小学4~6年対象の「中学受験講座」、中学生~高校生対象の「大学受験講座」に分かれているんですね。そして、中学受験講座には「探究国語」「探究算数」という科目名が!ただの国語ではなく探求国語!とても興味深いです。

矢萩:どの教科でも楽しめたり興味が持てたりするポイントがあるはずなのに、苦手になってしまうのは、「わからない」という経験が積み重なってしまうからだと思います。知窓学舎では「知っている人」と「知らない人」が同じ土俵で勉強できるようにしています。

洪:知識があるかないかで判断しないということでしょうか。

矢萩:知識に左右されない問いを立てることで、みんなが一緒に考えられるようにしています。それが「探究」です。

岩田:とてもいいですね。でも、実際にはファシリテーターの腕次第というか、授業運営のセンスや高いスキルが必要そうです。

矢萩:はい、完全に講師次第です。ですので、知窓学舎では、塾講師以外に専門性を持っている人しか採用しません。今も、科学者やダンサー、寿司職人、経営者に現役コンサルタントなどさまざまな専門性を持つ講師が活躍しています。

「この教科は、社会に出たらこういう場面で役に立つ」ということを、日常的な会話の中で子どもたちに伝えられる講師を選んでいます。自分も子どものころに、そういう場がほしかったなと思います。

岩田:本来なら、そういう大人って塾じゃなくても近所にいたはずですよね。いわゆる「近所のおもしろい大人」のような人。

矢萩:それがけっこう難しくて、教えたい人と教育に向いている人は少し違うんですよ。そこを見極めて、僕がいろんな業種・業態で出会った人をスカウトしています。講師を公募したことは一度もありません。

大人も答えを知らない問い「だから一緒に考えよう」

中学生〜高校生クラスの授業風景。中学1年から高校3年までの異年齢混合で授業が行われています。

洪:講師がどんなことを伝えられる人なのかは、とても大切ですね。

今日のテーマである「知性」学習のために、親が日常的に出来るのはどのようなことがありますか。

矢萩:答えのない、答えが決まっていない問いを出すことが大事です。

ご家庭で、ニュースなどを題材にして話をしてみてはいかがでしょうか。

洪:なるほど。ニュースを題材にするのがいいんですね。

矢萩:教科書に載っている内容は「過去のできこと」なので、ある意味すべて知識。答えが出てしまっていることなんです。

洪:確かに、「答えが決まっていない問い」にはなりませんよね。

矢萩:はい。それだと「自分ごと」になりません。なので、ニュースのように「今、起こっていること」について話し合ったり考えたりするといいですね。
いちばん良いのが、「未来予測」です。例えば今なら、オリンピックやる・やらないについて、一緒に考えてみるとか。

洪:そっか、未来を予測するって、答えは誰にもわからないから

矢萩:そうなんです。大人も子どもも平等に答えを知らないことを題材にすることが大切です。大人だけが知っていると、子どもは試されていると感じてしまいます。
「お父さんやお母さんも知らない、だから一緒に考えよう」というスタンスが大事なんです。

岩田:家庭教育の観点からいうと、時事問題に興味を持ってもらうためには、最初は子どもの興味や好みに合わせることがポイントです。電車が好きな子なら、電車関連の記事を小学生新聞やネットから探してお手洗いに貼るんです。そのうち、子どものアンテナが反応するようになってきます。

洪:まず、子どもが興味を持っている分野をセレクトするんですね。

矢萩:ニュースを見るのは受動的な行為だけど、「こんなにおもしろいニュースがあるんだ」と感じるようになると、自分から探すようになります。

岩田:さらに先生と対話ができたら、加速的に興味持ちますよね。

矢萩:対話が一番大事です。誰とどう対話して、それについてどう考えるか。

岩田:学校や塾での対話を通して何かを知って帰ってきて、それを教えてもらったら親も楽しいですし、子どものアウトプットの機会にもなり、学びの定着にも繋がります。

自分たちが未来を変えられるというイメージを持つ

矢萩:未来に対していかに想像力を持つことができるかは、対話の中でどう声かけするかにかかっています。小・中学生にとって、関わる大人はとても大事です。

洪:今お話ししていて「未来予測」について対話することでもう一つ良いと思ったのは、未来を想像することで「未来は自分たちで作っていく」という実感にもつながるんじゃないかということです。

矢萩:予測や想像することによって、自分たちが未来を変えられるんじゃないかという鮮明なイメージが持てますよね。

この「変えられるんじゃないか」が大切です。僕自身、中高には積極的に行かなくなったんですけど、その理由のひとつが「僕がいてもいなくても変わらないな」と感じたからなんです。これが10年続いたら、自分は無力だと思いかねないですよね。

岩田:「自分がいることで何かが変わる」という実感がないとつらいですよね。

矢萩:その経験があるから、知窓学舎は対話や少人数制を重視しています。「君がいるからこの話をするよ」という具合に授業をどんどん転じていきます。

それを一人の目立つ子だけではなく、全員に向けています。これは、30人や40人クラスでは絶対無理なやり方です。

岩田:子どもを巻き込む授業を展開していくには、関わる側の工夫もかなり必要ですよね。

矢萩:そうです。だから、小・中学生の時期にそれぞれの子が考えたことをちゃんと引き出せるファシリテーション、それができる大人と関わることがとても大切だと思います。


プロフィール

矢萩邦彦(やはぎくにひこ)

実践教育ジャーナリスト。「すべての学習に教養と哲学を」をコンセプトにした統合型学習塾『知窓学舎』塾長。一つの専門分野では得にくい視点と技術の越境統合を探究するアルスコンビネーターとして、旅・住まい・ゲーム・アート・ジャーナリズムなど多様な領域で活動している。主編著書に『中学受験を考えた時に読む本』、『先生、この「問題」教えられますか? 教育改革時代の学びの教科書』(洋泉社)。

岩田かおり(いわたかおり)

株式会社ママプロジェクトJapan代表。ガミガミ言わず勉強好きで知的な子どもを育てる親子講座『かおりメソッド』『天才ノート』主宰。子ども教育アドバイザー。幼児教室勤務を経て、「子どもを勉強好きに育てたい!」の想いから、独自の教育法を開発。3人(1男2女)の母。

洪愛舜(ほんえすん)

子育て・教育系ライター。出版社勤務を経てフリーの編集・ライターに。編集プロダクションecon主宰。目黒駅前新聞編集長。著書に『もやもやガール卒業白書』(MMR)、絵本『すき!I like it!』(教育画劇)がある。立命館大学理工学部卒。1女1男2児の母。

「岩田かおりのここだけの教育話」の記事一覧

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桜木奈央子
桜木奈央子

写真家、ライター。2001年からアフリカ取材を続ける。著書『世界のともだち ケニア』『かぼちゃの下で』。雑誌や新聞にフォトエッセイや書評を執筆。「cinema stars アフリカ星空映画館」代表。最近の趣味は息子2人のサッカー撮影。小学生の頃は本の虫、星野道夫さんに憧れ17歳でひとり旅に。

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