2021.04.26
学びインタビュー 平地紘子

【夢中の力 #001】「子どもの悩みを奪わない。失敗しても学びがあるから」為末大さん

子どものころに夢中になって何かに取り組んだ体験や習い事は、どのように人生に影響を与えるのでしょうか。好きなことに没頭した経験が、自分を形づくり、個性を育てていきます。それぞれの分野で活躍している著名な方々に、小さいときの「夢中体験」について話を聞きました。「夢中の力」と題して、連載します。元プロ陸上選手の為末大さんが、夢中になったことは?

勝ち負けより、どうやったらみんなが面白く遊べるかを考えた

――まずは、どんなお子さんだったかを教えてください。

広島の中心部から離れたベッドタウンで、父と専業主婦の母、姉・妹がいる家庭で普通に育ちました。活発だけど、読書も好きで。他の子よりも体がよく動いたので、「ここ登れるかな」「あそこ届くかな」とか、ちょっと危ないこともやりましたね。

小学生になるとただ遊ぶだけではなく、どういう枠組みを作ったらみんなが面白く遊べるか、ということを考えていた気がします。

例えばドッチボールで一人の子ばかりが当てられていることに気づいたら、「こういうルールを作ったら力が均等になるんじゃないか」と提案してみたり。個別の勝敗にこだわることは得意ではなくて、全体のバランスを見る方が好きでしたね。

――陸上を始めたのはいつですか。

姉が入っていた地域の陸上クラブに小学2年生のころについて行き、楽しかったのでそのまま入りました。

――小2で陸上の面白さに目覚めたのですか。

当時は面白いというか、「ほめられるから楽しい」というのがありましたね。「すごい」と言われているうちに自分でもだんだん「足が速いんだ」と認識していったのかなと思います。「陸上だけをやらない」という考え方のクラブだったので、スキーやキャンプにも行きましたし、野外活動はだいたいそこでやった気がします。面白かったですね。

自分で考え、試してみる 自由な陸上クラブは飽きずに続いた

僕、ものすごい勢いで飽きるんです。水泳と公文、あと体操も習ったのですが、長くは続かなかったんです。でもなぜか陸上だけは飽きませんでした。

――なぜだと思いますか。

振り返ってみると、やめた習い事はすべて、先生が指導をしてきっちり練習をしているところなんです。技術の上達のためにはしっかりとした指導は良いと思います。

一方で、陸上クラブは比較的ゆるくて、子どもたちが「自分たちで走っている」という感じでした。人数が多かったせいもあったんでしょうけど、一番放任で、一番自由な感じのところでしたね。

――自由な雰囲気で、のびのびと楽しめるのが良かったのですね。

僕にとっては、いきなり自分の仮説を試せることが大きかった気がします。こうやった方が速くなるんじゃないか、と考えたことをすぐに試せて、その結果もタイムという形ですぐわかる。その結果を受けてまた考えて試すという、仮説・実行・結果がグルグル回っていくところが陸上の面白さでした。

先生がしっかり教えるタイプだと、言われたこと以上のことを考えてやってみる余白がないんですよね。

最初に方法や考え方を教わってからの方が自分で考えやすい、というタイプの子もいますが、僕は自分で考えながら方法や道具を手に入れていくタイプでした。

――最初から自分で考えられるって、なかなかすごいと思います。

一見、最初から自分で考える子がいいようにも見えるかもしれないですが、最初は何も考えていない子が道具を手に入れていくうちに、だんだん思考が深まるパターンもあります。どっちがいい悪いではなく、順番の違いだけですね。

壁にぶつかった時に必要なのは、頑張ることではなく、新たな視点

――習い事をしていると、壁にぶつかったり進路を悩んだりすることがあります。どうやって乗り越えましたか。

壁にぶつかっているような状況を客観的にみると、運の影響も多分にあります。なので、頑張れば必ず抜けられる、という前提で人生を組み立てない方がいいですね。

――自分の努力だけではどうにもならないことがある、ということですね。

はい。その前提のうえで、壁にぶつかっている状況から抜けるためには、どっぷりとハマっている場所のほかに、ふらっと行ける余白のような別の場所が必要だと思うんですよね。ちょっと客観的になれて、別の視点が手に入る感じの場所です。

そこには、人間関係の多様さが結構大きく関わってくると思っています。先生と生徒の二人三脚で行き詰まると抜けられないパターンが多いので、先生、親、そしてできればもう一個ぐらい場所があるといい気がします。

――為末さんにとってのそういう場所はどこにありましたか。

うちは両親が陸上への熱さを表に出さなかったんですね。だから伸び悩んでいた時も、家の雰囲気はいつも淡々としていましたね。

もう一つの場所は他校の陸上仲間です。どっぷりハマっている陸上仲間とはちょっと違って、ただ楽しく遊ぶ感じの仲間です。この二つがあったので、迷路の奥にはまりこまなかったな、という感じがしますね。

――迷路の奥にはまりこまないって大事ですね。

子どもの人生では、うまくいくことよりも、うまくいかなくなった時にどう客観的な視点を得ていくかの方が大事だと感じています。

計画通りにいっている時には、実は自分のことってよくわかってないんです。でも、計画からずれた瞬間に初めて自分を外から見ることができる。そうやって自分を見つめていくことが一番大事なのかな、と。

例えば僕はどんどん入り込んでしまうので、うまく行かない時も「もっとやればうまくいくんじゃないか」とひたすら同じことを繰り返してしまいます。釣りに例えると、釣れないのに同じ釣具で何度も何度も繰り返すタイプです。無意識に同じことを繰り返しているんだけど、ふと友人を見ると釣れない時には釣具を変えていたりする。その時に初めて、自分は随分同じことを繰り返すんだな、という癖に気づくことができます。

違う視点があることに気づき、自分を客観的に見られるようになる。それが行き詰まり体験で手に入ることかな、と思いますね。

ゲームは「夢中にさせられている」状態。夢中の主導権を持つ

――子どもが行き詰まっていると親の方が心配して冷静さをなくしてしまいがちなので、淡々と接していた為末さんのご両親が印象的です。淡々と接してくれて良かった、という思いはありますか。

それがすべて、というぐらいですね。とにかく親が関心を持たない、それに尽きると思います。子どもの悩みを奪わない、解決しようとしない、子どもが十分に向き合い切る前に親が入らない。ただでさえ行き詰まっている時に横から茶々を入れられたり、後ろからプッシュされていたら、きっと違う結果になっていたと思いますね。

――子どもの悩みを奪わない、というのは大事ですね。でも、自分の子がそこまで考えて向き合っているかどうかの判断がつきかねます。

そこは難しいですよね。うちの場合も、没頭しやすい性格の僕と、母親の性格とのバランスで決まっていたものもあったでしょうから。

僕の人生が普通と違うのは、陸上という好きなことが見つかり、「これが僕の人生、これが僕のやりたいこと」というのが早い時から決まっていたことです。そういう場合は行き過ぎないようにちょっとゆるめるとか、ちょっとずらすとか、それだけでいいと思います。

でも実際には、うちの子もそうですけど何も決まっていない子どもの方が多いですよね。その場合に、放っておいてアプローチをしない、というのはよくない気がしますね。

――何も決まっていない子どもの場合は、どうやったらその子が夢中になる状態を作っていけると思いますか。

なるべく、子どもが面白がっている状態を作ってあげたいとは思っています。ただ、「面白がる」というのが昔と違って難しいな、と最近感じています。

例えばオンラインゲームやテレビゲームは、人間が夢中になる仕組みを考え尽くしたシステムです。「夢中にさせられている」に近い場合も多いのではないか、と思うんですよね。

なので「夢中にさせられている」から「夢中になる」の主導権を人間側に取り戻す、ということを最近は考えています。すごく微妙なバランスだとは思いますが、何かが大きく違っている気がしています。

――とても核心をついた指摘だと思います。そんな夢中の主導権が奪われがちな社会の中で、夢中の力はどうやったら見つけられますか。

うーん、私たちが夜眠る時に、気付いたら眠りに落ちていたのと同じように、夢中になろうと計画して夢中になるのではなく、結果的に夢中だった、ということなのかな、と。

子どもは、自分が夢中になるパターンを客観的に見ることができません。だからこそ、「今日1日の中で何が面白かった?」「どういう時にワクワクした?」というように、グッと入り込んだ瞬間を本人が自覚できるような質問をし、フィードバックしていくことが大事だと思っています。

夢中になる前段階では、「道具」を手に入れる努力も必要

一方で、夢中になるためには、「道具」を手に入れるための努力も必要だと思っています。例えば、数学に夢中になる素養があっても、数式がわからなければ夢中になりようがないですよね。サッカーでも、夢中になる前のリフティングは夢中よりも努力がまさっている。その夢中になる前の段階の時は、親がプッシュして言うことや、支援をする必要があるかなと思うんですよね。ある程度、積み重ねるものがないと夢中になれなかったりするので。

夢中とはどういう状態なの?

――根本的な質問になりますが、そもそも夢中ってどういう状態だと思いますか。

長時間にわたって夢中の人もいれば、断続的に夢中の人もいる。一方で、深い人もいればやや浅い人もいて、視野が狭い夢中もあれば、視野が広い夢中の状態もある。

例えば、ボーッとしてるなって見える子も、雲を見ながら頭の中で一生懸命世の中には何があるんだろうって考えているかもしれない。

一般的に夢中って呼ぶものの正体は、実は結構ダイバーシティがあると思っています。

僕も子どもの時、興味がすごく移り変わって、集中しにいくいけど入ったら終わらない、みたいなタイプでした。かと思えば、いきなりボンと集中する子もいますよね。

だから、親からみた夢中ではないかもしれないけど、その子なりには夢中になっている瞬間がある可能性もあると思うんです。

――親が持っている固定観念にとらわれずに子どもを見ることが大切ですね。

そうですね。僕の場合は早い段階でバーンとはまりましたが、息子を見ていると、ある程度プッシュして、だんだん乗ってくると面白がったりするところもあるので、折り合いなんでしょうね。子どもをあたたかく見守りながら、適度に刺激を入れながら、子どもの夢中に付き合って、一緒に付き合って楽しんでもらえればいいなと思いますね。

自分で考えて、決めて、面白がれる人間になってほしい

――息子さんにも陸上やスポーツをさせたいという気持ちはありますか。

あまりないですね。スポーツに触れる機会は設けていますけど、今は一つも習い事していないです。

スポーツって後で振り返って「スポーツをやっていて良かったな」と思うパターンが2つあると思います。

一つは競技の結果が大学への進学やオリンピック出場につながるなど、具体的なリターンがあった場合です。もう一つは、スポーツをやって得たものが人生を豊かにしてくれるというパターンです。

やっぱり前者はかなり「運」ですよ。どんなに頑張っても運のところは多分にあります。でも、後者はすべての子どもが普遍的に手に入れることができる財産です。失敗したとしても失敗から学び方を学んでいく、そういうプロセスがある気がしています。勝つことだけが目的ではなくて、うまくいかないことからも、学べるんですよ。

 ――前者のようなわかりやすい結果は出なくても、スポーツを通して得るものが人生を豊かにしてくれるというのは、親としてすごくホッとする意見です。

オリンピックに出場した選手でも、競技をやっていて良かったかどうかがわからない、という人も結構いるのです。

小さいころから注目されて、周りの方が熱くなっていたので求められる役目を果たしていたら五輪まで行ったけど、やり終えた後で「ところで自分は何がやりたかったのだろう」とふと気づくという。目的に向かって一直線の人生で、自分で決めた経験がないんですよ。

もちろんそれでも得られるものはあると思いますが、競技以外の人生は複線です。子どもには自分で考えて、自分で決めて、納得して、面白がることが一人で完結できるようになってほしいな、と思いますね。

――為末さん自身が、子どものころから全体を見て考えるお子さんでしたものね。

息子はさまざまな面での成長が割と早いので、「小学校に行ったら、クラスの雰囲気を良くするのがお前の役割だぞ」と伝えています。自分が置かれた場所で困っている人のことや、全体のことを考える癖がついていくのは大事だと思います。

最近、僕と妻と2人で息子を怒ったことがあるんですが、そうしたら「2対1はずるい。1対1で言うべきだ」と提案してきて。僕に似てますよね(笑)

それにしても、子どもって面白いですね。人生でいろんなものを見た中で、子どもは一番面白いかもしれないです。


プロフィール:為末 大(ためすえ だい)

Deportare Partners代表/元陸上選手

1978年広島県生まれ。スプリント種目の世界大会で日本人として初のメダル獲得者。男子400メートルハードルの日本記録保持者(2021年4月現在)。現在は執筆活動、会社経営を行う。Deportare Partners代表。新豊洲Brilliaランニングスタジアム館長。Youtube為末大学(Tamesue Academy)を運営。主な著作に『Winning Alone』『走る哲学』『諦める力』など。

Deportare Partners https://www.deportarepartners.tokyo/
為末大学(Tamesue Academy) https://www.youtube.com/c/TamesueAcademy
新豊洲Brilliaランニングスタジアム http://running-stadium.tokyo/

撮影:篠田英美

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平地紘子
平地紘子

mugichocolate株式会社 元新聞記者。インタビュー、体や心に関わるテーマが得意。現在はヨガ指導者としても活躍中。小学生の時から日記を書くのが大好き。社会人になっても手帳を日々の出来事で埋め尽くしていました。“記録魔”とも言う。2021年、しばらく中断していたブログを再開予定。

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